第141話 新たな食材

 素焼きのままだった七輪には、ダルベさんにお願いして持ち運びしやすいように取っ手のついた木枠を作ってもらった。


「これは暖炉ほどでは無いですけれど、部屋で火を使えるという道具です。薪ではなく炭を使います。」


 食堂の外に置いてあるBBQコンロから、あらかじめ着火してあったバンブ炭と木炭を七輪に入れて戻ってくる。


バンブ炭だけの物、バンブ炭と木炭、最後に木炭のみの物です。ちょっと手をかざしてみてください、多少遠くからでもかなり温かいと思います。」


 サリダさんが、すっと手をかざした。


「暖かいわ、これは良いわね。紡ぎ小屋の作業も暖炉に火を入れないで我慢していたけど、手がかじかんで毛糸紡ぎがやりづらかったのよ。」


「小屋の中で手元を温めるには少々火が強すぎるかもしれません、そっちの方は別の物を作る予定です、そちらの方がうってつけだと思います。

 ただ紡ぎ作業中にはあまり近づかないでください、見ての通り火元がむき出しですから。

 この上にポットを置いておくのもいいと思います。火元も隠れるし休憩の時、お茶の為にわざわざ炊事場で沸かしてこなくていいですから。」


「この火はどれぐらい持つんだ? あとバンブ炭の燃やす以外の使い方も聞いておきたい。」


「すみません団長、どれくらい燃え続けるのかはまだ調べていないのではっきりわかりません。あと、燃やす以外の使い方は少し加工が必要なので、もうちょっと待て下さい。」


 ジーンさんに目で合図をして、準備していた物を持ってきてもらう。


「せっかくなので別の使い方で、このしてもらおうと思います。」


 ジーンさんが竹串に一口大に切った鬼兎オーガラビットの生肉を一つだけ刺したものを皿に乗せ運んでくる、味付けは塩のみ。


「夕食を食べ終わったばかりですが、この鬼兎オーガラビットの生肉を七輪で焼いてみてください。焼きすぎて竹串が燃えない様にしてくださいね。」


「ソーヤ! おめぇまた食いもので釣ろうとして… まぁいい。」


 みんなが各々串をもって七輪で焙りはじめる。セルフ焼き鳥屋状態になった。


 炭火のおかげですぐに表面に焦げ目がつき脂が染みだしてくる。くるくると竹串をまわしてまんべんなく焙って、熱々をパクリと食らう。


「 !!! なんだこれ! この前と同じ鬼兎オーガラビットの肉か? 全然味が違う。味というより歯ごたえか? ちゃんと中まで火が入っているのに硬くなっていない。」


「これはやべぇぞ… いつもと違って、薪で焼いた時のくせのある匂いがしない。酒が欲しくなるぞ。」


 みんなが驚きを口々に出す中、ジーンさんは焼きたてをじっくり観察して口に入れるとゆっくりと食感を確認しているようだ。ゴクリと飲み込んでおれに向けて親指を立ててくる。プロが認めた味だからこれなら… よし、最後に止めだ。


「ダッシュボーアの肉を七輪で焼いたら美味しいと思うんですけど、炭が足りないからなぁ…」


 つぶやき(?)を聞いたみんなは一斉におれを見て、そして団長を見る。


「ソーヤ… ったくおめぇってやつは ……仕方ねぇ。

 みんなも覚えておいてくれ、錬成陣を使わない炭の製造のことが外部に漏れたらとんでもなく危険だ。開拓団ここで消費できる量しか作らないからな。

 5日後までに建物も全部終わらせるぞ。そうしたら宴会だ! 呑むぞ!」


「「「「「「「 おぉー!! 」」」」」」


 開拓団ここの人たちは、飯と酒で釣るに限るな… などと思いつつ、ビラ爺と共に家に戻る。



 そういえばテポートをそのまま持って帰ってきてしまった、バナソ川で洗って持って帰ってくるつもりだったけど、バラーピカの赤ん坊の件ですっかり忘れてた。

 明日もやることはいっぱいあるし、今のうちに洗ってくるかな? 麻袋からテポートを一つ取り出して眺める。


 そういえば、テポートをちゃんと鑑定していなかったな。ビラ爺から毒が有るって聞いたから今までスルーしていたよ。


 "鑑定!”


[テポート]▽ 

 △ テポートの塊茎かいけい▽ :土壌を選ばず育つ:共生細菌あり▽

 △ 茎が変化した物:でんぷん質豊富

 △ 共生細菌は酸性で増加、アルカリ性で減少(死滅):生物の体内で分解されると毒性を発揮


 ちょっと待って、テポート自体には毒が無いの? 毒の元は共生している細菌が原因? 


「ビラ爺! テポートの鑑定をしたらとんでもないことが分かった。」


「なんじゃ? 何がわかったんじゃ?」


「もともとのテポートには毒がないんだ、一緒にいる細菌が毒の元になってるんだよ。」


「細菌? なんじゃそれは?」


 この世界では、細菌や黴菌の概念がないのか?


「細菌ていうのは簡単に言うと、目に見えないような小さな生き物の事だよ。食べものを腐らせたりするんだ。この細菌が無くなれば、テポートも食料になるよ。」


「テポートが食べられるじゃと? それが出来ればこの国の食糧事情は一気によくなるのぅ、どこにでもある物じゃし。」


 でも、サーブロさんので何で引っかからなかったんだろう? 間違いなく食材として最強の部類だと思うんだけど。おれの鑑定とは違うのかな?

 とりあえずアルカリ性の土壌を探せばそこなら生産できるはず。待てよ… アルカリ性の土壌にするには肥料でなんとかならないか? 石灰? 炭? 大規模にやったら他の作物にも影響出ちゃうか…。


「どうしたんじゃ? 急に黙り込んで。」


「毒のない安全なテポートを作るには、農地の土の性質を変えればと思ったけど、それをしたら他の作物や生き物に悪影響が出るかなと…」


「なるほどのぅ、じゃが開拓団ここの農地の一部だけなら問題はないじゃろ。団長とも相談をせんといかんけどな。それでも結果が出るのは早くて来年以降になってしまうがの、テポートの毒が抜ければ採取に行くだけで済むんじゃがのぅ。」


 毒抜きか、細菌を死滅させればいいんだけど。もう一度鑑定してよく見てみるか…

 アルカリ性で減少()、アルカリ性の液体で洗う、漬け込む? すぐ傍にあるじゃないか! バンブ炭の灰、水に入れればアルカリ性の液体に…


「ビラ爺! ちょっと食堂に行ってくる。毒を抜けるかもしれない。」




「ソーヤ、戻ってきたのか。ベルデには今夜から水薬飲んでもらうことにしたからな。何を慌ててるんだ?」


「テポートの毒が抜けるかもしれないんです。詳しい説明は明日しますから。」


 七輪の中に残っている、白く燃え尽きた灰を桶にまとめて家に戻る。



 土間で麻袋から10個ほどテポートを取り出して、召喚したたわしで土を払い落とす。土を払い落としたテポートは灰が入った桶に入れ、浸る程度に水を入れてかき混ぜる。これで一晩放置してみよう。


「ビラ爺、もしかしたらこれで毒が抜けるかもしれない。しばらく様子を見ることにするよ。」


「楽しみじゃな。」

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