第140話 子供たちの決意

 開拓団ラドサが見えてくると、ガルゴ君とアマル君が顔を見合わせて互いに頷くと先を争うように走り出した。


「マルコ君、テポートだけおいてきちゃうから、先に小屋に行ってて。」


 テポートを置いて小屋の前まで行くと、マルコ君の抱えているシーツの中の赤ちゃんたちを覗き込んでいた。一番前にはカーラちゃんがキラッキラした目で覗き込んでいる。


 出来る事なら助けたい、見つけてきたおれが子供たちに判断を丸投げというのは、ずるい行為かも知れない。だが、いずれバラーピカは毛皮を取るために殺すことになる。そんな現実も子供たちには知っておいてもらいたい。


「みんな、大事なお話があります。」


 一斉に子供たちが振り返る。


「今日、親がいなくなったバラーピカの赤ちゃんを保護してきたけど、このままだと間違いなくこの赤ちゃんたちは死んでしまいます。

 小屋に入れても、ピカちゃんがお母さん代わりをしてくれるか、わかりません。

 お母さん代わりをしてくれても、ピカちゃんのお乳が足りなければ他の赤ちゃんも死んでしまうかもしれません。

 でも、バラーピカを育てているのはいずれ毛皮を取るためです。

 どうするか、みんなが決めてください。」


 それぞれ子供たちは黙り込んで、何かを考えこんでいるようだ。


 ピカちゃんに預けたら、匂いなんかで判別されて排除されてしまうかもしれない。

 受け入れられたとしても、ピカちゃんの子供たちより生まれが遅いのも問題だ。離乳期が早く来てしまえば母乳も出が悪くなるかもしれない、結果赤ちゃんたちはお乳が飲めず飢えて成長に悪影響が出るだろう。

 他の家畜の乳を与えようにもそんな動物は開拓団ここには居ない。

 バラーピカの生態が分からない、齧歯目の中には群れで子育てをする習性を持つものいるが、果たして。

 救うのであれば… 最初の数日が勝負だ。小屋に入れてしばらくはしっかりと様子を見ておかないと。

 後は、当番を決めておかないといけない、カーラちゃんが毎晩小屋の前で寝るとか言い出しかねない。それはそれでまた問題になる。


 マルコ君が中心になって、子供たちは話していた。


「ソーヤ! 決めた! ピカちゃんに預けてみる。」


「それがみんなの意見なんだね。わかった。

 しばらくはこまめに様子を見ないといけません。だけどこの前みたいに、みんなで小屋の前に泊まるなんてこと駄目です。夜はちゃんと自分のベッドで寝る事。

 だから当番をする順番を決めてください、当番の人は早起きしてしっかりと面倒を見てあげて下さい。できますか?」


 一斉に子供たちが頷く。


 あとは子供たちに任せよう、一応団長に報告してくるか。



「わかった、子供たちが決めて自分たちで面倒見ると言ったんだな。相談されない限りソーヤも手を貸すなよ。」



 解体場に戻るとマルコ君が手ぬぐい(シーツサイズ)を持ってきた。当番は小さい子の負担が重くならない様に決めたそうだ、相談なら聞いてあげるからと伝える。


 外側のバンブ仕上げはすでに終わっていた、今は内側を同じようにバンブ仕上げをしていたが、それももうじき終わる。竹串を釘代わりにする方法をガースさんが感心していたらしい。

 ダルベさんの家もバンブ仕上げでやると言ってた、土壁代わりに、下地を組んだらむしろを貼って麦藁を詰めると言ってた。断熱材としてはそっちの方が上かもしれない。おかげで年内にダルベさんの新居が出来上がるそうだ。


 手が空いたところでガースさんに声をかけ、窯の天井の石組みの事を聞いてみる。


「石材で天井を作るのか、やれない事は無いが、支える壁側がしっかりしているかどうかだな。あとは使う石材だが火を使うならバナソ川の上流に行って探さなきゃならんな。持ち帰ってくるのも大仕事になるな。」


「持ち帰ってくるのは、マジックバックがあるから大丈夫です。まだまだ余裕で入りますし。」


「わかった、とりあえずその窯ってのを見るか。」


 4人で工事途中の炭焼き窯の所に行く。


「この土台はどうなっている?」


 ダルベさんが説明する。


「突き固めもしてあるなら問題は無いか、だがこの壁だと少し不安だな。もう一列外に積んで土を盛ったほうが良さそうだ。内側の幅はそんなに広くないから突き合わせで組めるな。」


 一応アーチ形にしたいと相談したが、かなり難しいそうだ。使う石材の成形にかなり精度が必要だと、しかもそれを大量になんて言うのが現実的ではないと言われた。妥協案として、石を二つ支え合う様に合わせる方法を薦められる。

 ならば簡易炭焼き窯のように平らな石で蓋をする構造ではと聞いたが、熱で割れたら一気に崩壊するからこの窯の大きさではやめた方が無難らしい。

 やはり簡易炭焼き窯のように簡単にはいかない。あれもそろそろ限界だろうし… 

 あっ! そういえば七輪取り出さないと。


 簡易炭焼き窯の上の土を除いて、蓋をしてある石を触ってみる。少し暖かいぐらいだから問題は無さそうだ、だがよく見るとあちこちにひびが入っている。さすがに限界だった様だ。

 ひびの入っている石を一気にマジックバックに収納し、窯の脇にすぐ取り出す。出した瞬間にひびから割れてしまった。どうやら本当にギリギリだったようだ。

 窯の中を見ると、無事に割れることも無く素焼きされた七輪と炭になるか試した木がちゃんと炭になっていた。


 七輪を取り出す。ビラ爺もダルベさんもうまく焼きあがったのでニコニコしている。


「ビラ爺、ダルベさん上手くできた。偶然かもしれないけどなんとかこれで… それと、木炭の方も成功しているよ。」


「ソーヤ、この石を使ってたのか… よく持ったな。」


 ガースさん曰く、熱に強いところと弱いところが混じり合って、あまり熱に強い石材じゃないとのことだった。たまたま熱に強い部分の石だったと思うことにしておこう、ガースさんのいう石が見つかればそれを蓋にしてまだ使えそうだ。


 夕食後話し合いが始まった。子供たちは一斉にバラーピカの小屋に行ってしまったけど。


 在庫の台帳を見ながら食材・資材関係の確認が順調に進んでいく。団長も台帳を付けることでいかに楽になるかが解ってきたみたいだ。

 次に建物関係の話に移る。


「今年も残りわずかだ、あと20日で再生の日リボーンを迎える、だがその前に建物関係は終わらせておきたい。

 ソーヤの発案した土壁だが予想以上に木材の使用量が削減できた、仕上げで使ったバンブも使い方によっては今までの板壁と同等以上だ。

 そこで、一時見合わせていた風呂の建設も行う。壁はバンブで仕上げるつもりだ。

 ソーヤ、またバンブを採りに行ってもらうことになる。頼んだ。」


「わかりました。あと団長、これを皆さんに見ていただきたいんですけど。」


 そう言って七輪を取り出した。

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