第139話 保護した

 時折、解体場のBBQコンロの様子も見てバンブ炭を追加する。むしろの内側はかなり温かい、これなら凍結の心配はなさそうだ。


 簡易炭焼き窯の方も火は安定している、薪を絶やさない様に追加していけば問題なさそうだ。


 東の空が明るくなり始めた。


「夜明けか、さすがに冷えるな。最後の薪を入れてこっちは終わりだな。解体場の様子を見てくるか…」


 座りっぱなしで凝り固まった体をほぐして様子を見に行く。丁度燃え尽きたばかりの様だ、しっかり温まっている。


 へそ天状態だったトーラも目を覚ましたようなので、草床とむしろを片付ける。部屋に戻って少しだけ仮眠をすることにした。




「…ヤ! ソーヤ! 朝飯じゃぞ。」


 仮眠のつもりが、がっつり寝てしまったようだ。寝ぼけまなこを擦りながら井戸に行き顔を洗って食堂に向かう。


 食堂のテーブルにはビラ爺がすでに座って待っていた。


「いろいろと手を出しすぎじゃ、少し頑張りすぎじゃの、今日ぐらい休んでもええんじゃぞ。」


「うん、ありがとう。でももう少しで結果が出るから、テポートも取りにいかないといけないし…」


「じゃから頑張りすぎじゃ、解体場の壁の件は任せておけ。昼までのんびりしておれ。落ち着かないなら、ゆっくりテポートでも掘りに行ってくればええ。」


「ごめんビラ爺、壁の方はお願いします。トーラたちとのんびりテポートを掘りに行ってくる。」


「あまり無理するんじゃないぞい。」


「わかった……」


 朝食後に解体場のむしろを外して干して、子供たちに作った七輪を食堂に持ってくるように伝える。そろそろ屋外で乾燥させるのも限界だからね。


 トーラとシーマを連れてテポートを掘りに行こうとしたら、子供たちとサクラさんに見つかってしまった。


「「「ソーヤー! どこに行くのー?」」」


「ボーダーフォレストの手前までテポートを掘りに行くんだよ。」


「「「 えー! ずるいー! 」」」


「「「「「「 粘土は残ってないのー? 」」」」」」


「粘土は残ってるよ。でもテポートを掘りには危ないから連れていけないな。」


「「「 えー! なんでー! 」」」


「「「「「「 粘土ほしーい! 」」」」」」


「粘土は解体場に置いておくから、テポート掘りは団長が良いて言ったら連れてってもいいけど。」


「団長に聞いてくる!」


 そういって、マルコ君が走り去っていく。テポートを掘りに行きたいのは、マルコ君、ガルゴ君、アマル君の3人。

 まさか…昨日の陶芸教室がトラウマになっていないよね。


 他の子たちは陶芸(粘土遊び)をしたいらしい。解体場に行って麻袋入りの粘土をむしろの上に取り出し、今回も砂を使わないと言っておいた。


 マルコ君と団長がやってきた。


「ソーヤ、仕方ねぇから3人を連れてってやれ。ただし危険と判断したらすぐに引き返してこい。」


「わかりました。じゃあ行くか。」


 3人と一緒に、さも当然のようにサクラさんもついてこようとしたが、陶芸(粘土遊び)をする子供たちに捕まっていた。うん。サクラさんは危険なことしないでほしい。


 土手沿いの道を4人で歩く。トーラとシーマは少し先を歩きながら周囲を警戒している。たまにトーラは草むらに突っ込んでいったりしているけどね。


 丸太橋まで行くと、粘土を掘りに行くと勘違いして先行してしまった2匹を呼び戻す。シーマはすぐに戻ってきたがトーラがなかなか戻ってこない。

 ようやくトーラの姿が見えたのでさっさと丸太橋を渡る。すぐに草の背丈が高くなってくる。


「みんな、ここからは見通しがきかないから注意してね。僕のそばから離れないようにね。」


 シーマもおれのそばからあまり離れないで周囲を警戒している。後ろからガサガサと草をかき分けてトーラが追いついてくる。


「トーラ! 分かってるな!」


 そう声を出すと、シュンとした様な顔をする。

 おれの左右にトーラとシーマ、すぐ後ろにアマル君とガルゴ君、一番後ろがマルコ君といった並びでバラーピカの住処を目指す。


 しばらく進むと、パラーピカの糞山があった。この付近だな。


「この付近を探すからね、テポートは僕が見つけるから掘るのをお願いするよ。このスコップ渡しておくね。」


 そう言ってマジックバックからスコップを取り出して手渡す。


 さすがに花も無くなっているから探すのに苦労したが、運よく群生地を見つけたので、マジックバックに入っていたバンブを取り出し枝を落として地面に深く突き刺す。


「みんな集まって、萎れているけどこの葉っぱわかるかな? これがテポートだよ、この根元を掘ると緑色の丸い根っこが出てくるかあそれを集めるんだ。この麻袋半分ぐらいでいいからね。」


「「「 わかったー! 」」」


 みんながテポートを掘っている間周囲を警戒する、急にトーラが草むらの中を走り抜け20mぐらい先で吠える。


「ごめん、何かあったみたいだ、ここで待っててトーラの様子を見てくる。」


 草むらをかき分けてトーラの元まで行くと、トーラの足元に茶色い塊がもぞもぞと動いていた。


 キュイキュイ! キュイ!


 バラーピカの子供だ、親はどこだ? 周囲を見回すと倒れた草の真ん中に食い散らかされたバラーピカの死体があった。


 あちゃぁ… あいつらの親か… この死体は。

 さすがにこのまま放置すれば確実に死んじゃうよな… 毒無なら連れ帰ってピカちゃんに任せる手もあるけど。調べるか。


 "鑑定!”


[バラーピカ]▽


 △名前 --:性別 メス:無毒:生後3日


[バラーピカ]▽


 △名前 --:性別 オス:無毒:生後3日


[バラーピカ]▽


 △名前 --:性別 メス:無毒:生後3日



 無毒だ。生まれたばかりで、母乳しか飲んでいないだろうから当然か。

 3匹をマジックバック取り出した手ぬぐい(ちょっとぉ! またデカくなってるじゃないか、シーツサイズだよ!)に包んで、みんなのところに戻る。

 テポートも掘り終わったようだ。


「トーラがバラーピカの赤ちゃんを見つけた。親は何かに食われて死んでいたよ。

 連れ帰ってピカちゃんたちの小屋に入れるか、ここに置いていくかだけど。どうする?」


「「「 連れて帰る! 」」」


 だよね。バラーピカの赤ちゃんはマルコ君に抱きかかえてもらうことにした。ガルゴ君とアマル君はを興味深そうに見ている。麻袋はおれが背負って持ち帰る。


「よし、帰ろう!」


 トーラとシーマに声をかけ来た道を戻る。次に採取に来るときはあのバンブを目印にすればいい。


 丸太橋を渡り、開拓団ラドサに向けて歩く。バラーピカの赤ちゃんは落ち着いて寝ているようだ。

 あの死体の状況、おそらく親が襲われたのはおれたちが到着する直前の様だ、襲ったのは何かわからないが、おれたちの気配が近づいたことで逃走したみたいだ。

 次にあの付近に行くときは肉食獣もいることを頭の中に入れておこう。

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