第107話 ニ・ク・パ 再び

「さて、そろそろ本題に入る。先ほども言ったが、ソーヤが帰ってきて、新たな仲間が増えた。開拓団ラドサにとってはこれほど喜ばしいことは無い。しかもだ、新たな仲間が素晴らしい料理の腕を持っている。そこに並んでいる料理を見ればわかるだろう。今ここに、ソーヤの帰還と新たな仲間を迎える宴を開催する!ともに歓迎しよう!」

 

 来たばかりのサクラさんにエールサーバーを任せっきりにして… 飲み物はとりあえず全員にいきわたった。子供たちはもちろん果実水。


「ソーヤ、掛け声を!」


「わかりました。領都ラドで、流行はや》っている掛け声で行きます。

 グラス・ジョッキを掲げて ”カンパイ!” というんですよ。いいですか~!

 みんなただいま~~! そして ようこそ開拓団ラドサに~!

 カンパ~~イ!」


「「「「「「「「 カンパーイ! 」」」」」」」」


「「「おかえり~~!」」」「「「よろしくね~~~!」」」


 これからは ”乾杯コール” を流行させるんだ。と言うおれの野心は隠しながら。


「外の焼き台で、好きな焼き加減で食べて下さーい! 最初は僕が焼き係していますから~!!」


 聞いちゃいねぇ。みんな、冷えたエール+カラーゲの使に夢中だよ。いいよ一人でマルチョウ焼いて食ってるからさ。


「ソーヤ…さっきはごめんねェ。明日からたわし使えないと思ったら、思わず暴走しちゃったわ。あと息子たちからの手紙ありがとうね。元気でやっているみたいで安心したわ。ところでそれ何のお肉なの?」


「これですか、とりあえず食べてもらってから教えますよ。」


 そう言って、ベルナさんのお皿に焼きあがったばかりのマルチョウを…


「あら、ぉほいしぃ… 柔らかくてぷりんとして、脂が溢れて…エールに合うわねぇ。もう一つ頂戴。ぉほいしぃわ。これ何のお肉なの?」


「それはですね、今まで捨ててしまっていた鬼兎オーガラビットの内臓です。」


 ベルナさんの目が吊り上がる…でもそんなときの取って置きのセールストークがあるんだよね。


「このプルプルがを後押ししてくれるんです。食べ過ぎてしまうとお腹周りが増えちゃいますけどね。」


を!! ソーヤ、どんどん焼いて!」


「ベルナさん、言いましたけど、食べ過ぎは太る原因になりますよ! 焼きますけどね。」


 気が付いたら… いつの間にか肉食獣おねぇさまたちに囲まれてしまった。援軍はどこだ! …団長…バルゴさん…ギーズさん…なんてことだ、全員食堂内に一時撤退してやがる。ぐぬぬぬ…


「ソーヤー! トーラとシーマのよだれが水たまりになってるよー」


 カーラちゃん、君は天使か!!


「すいません、使役獣に餌あげるの忘れてたのでちょっと離れますね…」


いかん。本気でトーラとシーマ忘れてた。さっそく作ってあったボウルを取り出し二頭の前に。すまんかった。


「待てよ! よし!」


 キャウ! キャン!


 今日はお前たちにお肉も追加してあげよう。マジックバックから塊肉を出して切り分けそれぞれのボウルに追加で投入する。


 そのままこっそりと、食堂の中に… やっと二杯目のエールにありつける。


「ソーヤ! この冷たいエールいいな!いくらでも飲めそうだ! ガハハ!」


 くっ、敵前逃亡したのに。

 まあいいや。勝てる訳がないのはわかってますからね。でも腹が立つ。よし罠にはめてやる。


「団長、そのエールにあう焼肉の部位。隠してあるんですけどどうしますか?」


「何!エールに合うだと! もちろん焼いて食うにきまってるだろ。よこせ。」


「しょうがないですね…最後にとっておきで食べようと思ってたんですけど。いいですよ。これです。味ついていますから、外が軽く焦げて、両側から脂が染みだしてじわじわ言い出したら食べごろです。どうぞ。」


「素直によこすなんて、怪しいな。まぁいい。美味いのは間違いないだろうからな。バルゴ!ギーズ!エールに合う物らしい一緒に食うか!」


「「もちろん!」」


 空いているBBQコンロは肉食獣おねぇさまの方々の隣だ。思い知るがいい!


「ジーンさーん! そろそろ子どもたちにアレお願いしたいんですけど。」


「おぉ、そうだな、子供たちはそろそろだな。ちょっと待ってろ。準備してくる。中身はどうする?」


「キパンブにしましょう。甘いですし。子供たち用にはちょうどいいと思います。」


「おう!わかった。すぐに作ってくる。」




「ザック~! その手に持っている、こっちによこしなさい!」


「バルゴ! ギーズ! 防御陣形!」


 おっ始まったな。


「ルーミア! カルレ! 牽制お願い! サリダ! リサーナ! 廻りこんで包囲よ!」


 瞬殺だよ… つまらないな。




「ソーヤ! こっち来い! オーデンとメコー酒のすごい呑み方があると聞いたんじゃが、教えてくれんか!」


「ビラ爺、ちょっと待って、果実水追加したらそっちに行くよ。」


 子供たち用の果実水も追加で作ってテーブルに置く。


「カーラちゃん、さっきはありがとうね。」



「お待たせビラ爺。オーデンとメコー酒だよね。 こうします。」


 陶器の湯飲み茶わんにメコー酒を半分、そこにオーデンのだし汁を八分目まで。軽く混ぜて。

「どうぞ、ビラ爺!」

 

「すまんの。 …! これは旨いの。年取ってくると冷たいものは最初だけで充分じゃ。このメコー酒はミードのように甘くなくすっきりして、だし汁の暖かさと旨味・塩気が身体に染み渡るようじゃ。これも領都ラドで流行っておるのか?」


「そうですよ。いつかビラ爺と一緒にカッポーリョカン・ドージョーに行きたいですね。あそこのお風呂すごかったんですよ。ビラ爺の腰もすぐに良くなりそうです。」


「昔、アマートに誘われていった一度きりじゃから、また機会があれば行きたいのぉ。開拓団ラドサにも風呂があればいいんじゃがなぁ…」


「ビラ爺。造っちゃいましょう! お風呂!」


「そうじゃなぁ…」


 食堂の片隅でベルデさんとマリーダさん… あの二人はすでに別世界に旅立って…砂糖満載の馬車の旅だな。


 サクラさんは、子供たちと一緒か。もうなじんだみたいで安心したよ。


「お待たせー! これが領都ラド最新のお菓子。タイヤーキだ! お嬢、子供たちに。中身はキパンブにしてありますから。」


「はい。みなさーん。 お食事の最後に食べるお菓子です。 デザートって言うんですよ。 一人一つありますからね。」


「サクラおねーちゃん。これお魚だよ? お菓子なの?」


「お魚の形のお菓子なの。食べてみてね。」


「わかった。 …あふっ… あ…甘いよ!」


「お魚なのに甘いなんてずるいのよ!」


「どう? 美味しい?」


「「「「「「「「「 うん、おいしぃー! 」」」」」」」」


「みんな。この中身はキパンブっていうお野菜なんだ。種を買ってきたから春になったら畑にまこうね。」


「「「「「「「「「 はーい! 」」」」」」」」」

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