第108話 神力回復の理由

 子供たちはタイヤーキを食べ終えて、家に帰っていった。

 残っているのは… 酔人だめなおとなたちだけだ。


 適当に空いた皿から片付けを始める。"たわし召喚!”してどんどん洗っていく。


 喧騒がおさまってきたところで、団長に声をかける。


「買ってきた冬物や頼まれてた物とかお土産はどうします? 皆さんこのありさまですし、明日の朝にした方がいいですか?」


「だな… これじゃ、さらに収拾つかなくなるのが目に見えてる。明日の朝、ひと仕事終わった頃に集まってもらうか。」


「ビラ爺、そろそろ帰ろうか。」


「そうじゃの。これ以上おったら、また吞みすぎてしまうわい。」


 外で大口を開けてあくびをしているトーラと、丸まっているシーマに声をかけリードの縄を持って帰宅する。

 トーラ… おねだりして焼いた肉貰ってたのはちゃんと見ていたからな。


 部屋に戻ると、2頭はすぐに草床の上の毛布の上で寄り添い合って寝始める。その様子を見ながら


「しっかり躾けと訓練しないとな…」


 居間に戻り、領都ラドで購入してきた各種ロープや道具関係を取り出して整理する。そんなことをしている間に、ビラ爺の部屋からは鼾が聞こえてきた。おれも寝るか… 部屋に戻り、草床を載せたベッドに横たわる。草床に合わせてベッドの大きさも調整しないと… 目をつむるとすぐに睡魔が襲ってきた。




 --------------

 ・・・またか 


 目の前に光の粒が集まり人型になる。


『君のおかげで女神像が増えたから、神力もどんどんたまってきたよ。たわしを拝まれるよりずっと早く回復しているよ。』


 それは何より。

 そりゃあ、たわしよりは神力が集まるのは当たり前だろうけどさ…


 ん? ちょっと待てよ。そもそもなんで ”たわし” を拝み始めたんだ? しかもベルナさんのあの必死の形相。おれが帰ってきたから、洗い物や洗濯からは解放されるはずなのに… ま、まさか…


『そうだよ、彼女あのひとたちは、行水の時にたわしを使って喜んでいたよ。そのあとに拝んでくれるようになったよ。』


 Oh!No! 絶対にバレてはいけない人たちに… あの効果がばれてしまったのか… でも渡した時にそんな効果があるなんて気が付かなかったからなぁ。

 ということは、普段の洗い物とかは、今まで通り冷たい水とバラーピカの毛のたわしでやってたのか? 少しでも手を抜いていたようならお仕置きだな。

 とりあえず、お土産没収は確定として、追加で考えておこう。


『そんなに、彼女あのひとたち責めないでね。そのおかげで神力回復したんだからね。

 そうそう、あっちに置いてきたたわしとブラシは神力で強化しておいたよ。

 数年は問題ないからね。じゃあね。またね。』


 そうか… あっちに置いてきたのもね…  ”神力で強化” だって!! とんでもないものになったんじゃないのそれってさぁ…



 --------------

 翌朝、すっきりと目覚めたが少しまだ暗いな。朝ごはんまで時間もあるし、顔を洗ってからトーラとシーマの散歩に行くか。


 さっそく水瓶を持って、井戸まで行く。顔を洗ってから水瓶の水を入れ替えて持ち帰る。

 部屋の入り口から2頭が覗いていた。リードの縄を結んで、2頭と一緒に外に出るとすぐに声をかけられた。


「ソーヤさん。ずるいです。また自分だけ楽しい思いするつもりなんですか?」


 サクラさん、遊びじゃなくてしつけを兼ねた散歩ですから。


「一緒に… 行きますか?」


「もちろん。当然です。」


 サクラさん、でもその手に持っている袋の中身ははあれですよね。それは後にしましょうよ。


 トーラのリードの縄はサクラさんに渡して、シーマのリードの縄をおれが持ち散歩を始める。柵を広げたと言ってたから、どの辺まで広げたのか確認しがてら開拓団ラドサを一周する。


 トーラはサクラさんの手に持っている袋の中身を察しているようで妙にソワソワしながら時々サクラさんを振り返って見ている。

 シーマも足取りがだいぶしっかりしてきた。時々痛むのか足を引きずるようなしぐさを見せるが、順調に回復しているようだ。


 家の前にくると、ビラ爺も起きてちょうど顔を洗って戻ってきたところだった。トーラとシーマを玄関先に繋ぎ、そのまま一緒に食堂に向かう。


「ソーヤ、あの草床はええの、今朝は起きた時に腰が痛くならんかったぞぃ。サクラさんと言ったかの? 目元が昔のナツコにそっくりじゃ。」


 食堂にはすでに数人いた、今日からは調理当番の人は配膳とかの手伝いをすることになったみたいだ。サリダさんが手伝いをしていた。


 団長とベルナさんもやってきた。


「みんな、食べながらでかまわないから聞いてくれ、朝のひと仕事終えたらまたここに集まってくれ。」


 みな返事をして、食事を終えるとそれぞれの仕事に向かっていった。


「ビラ爺、ちょっといい?」


「なんじゃ?」


「草床を使ったベッドの使い心地の話をみんなの前でしてほしいんだ。」


「わざわざそんなことをか?」


「実はね… 草床はこの村の人数分以上に持っているんだ。これから寒くなるからあれの上で寝れば寒くないと思うんだ。でもあれ寝た時に硬いでしょ…麦藁のベッドに比べたらさ。」


「そんなことを心配しておったのか、麦藁なんぞ10日もすれば潰れて交換せねばららん、潰れ方もまちまちじゃから日々混ぜなきゃならんしな。ちょっと前までは子供たち以外は普通に板張りの床の上で寝とったからの。」


 意外だった。靴で家に上がる文化だから、寝床ベッドぐらいは普通だと思っていたが…

 確かに言われてみれば、野営地なんかでは鬼兎オーガラビットの毛皮があったからその上に寝たけど、ウーゴは地面に毛布一枚でそのまま寝っ転がるだけだった。

 板張りの床があるだけでも上等なのかもしれない。こっちの文化というか常識はまだまだ知ることが沢山あるな。


 さて、まだ少し時間がある。トーラとシーマにご飯をあげてくるか。


「ありがとう。ビラ爺。みんなにお土産渡した後に獲物の解体を教えて。

 ご飯あげて来ちゃうから。」


「わしはここで待っとるからの。」




 マジックバックを取りに戻り、玄関前にいる二頭にご飯を与える。


「ソーヤー!」


 カーラちゃんが声をかけてきた。


「あのね…あのね、ピカちゃんたちのお世話手伝ってほしいの。」


「いいよ。行こうか。」


 そう答えると、カーラちゃんに手をぐいぐい引っ張られて、一緒にバラーピカの小屋に行く。

 あれ? カーラちゃんって… こんなに強引な感じだったっけ?


 バラーピカの小屋に着くと、早速、カーラちゃんと一緒に野菜くずの入った桶を持って小屋に入る。

 一目見て違和感が… ピカちゃんってこんなに太ってた? もしかして…


 "鑑定!”


[バラーピカ]▽


 △名前 ピカちゃん:性別 メス:無毒:妊娠中(40日目)


 やっぱり… 

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