第106話 飲食業の魔道具

 ガルゴ君とカーラちゃんの待っているビラ爺の家の前に戻ってくる。BBQコンロをマジックバックに戻す。


「ガルゴ君、カーラちゃん。今日の宴会は食堂でやるって。いろいろとみんなにお手伝いしてもらいたいけどいいかな?」


「「わかったー!」ったー!」


 ガルゴ君は他の子たちを呼びに行く。カーラちゃんと二人で食堂に来る。

 食堂の大きさは20畳くらい。4人掛けのテーブルが10セット。北側の壁面には作り付けの食器棚。南側は木の壁だけど取り外して解放できるようになっている。

 壁を外してしまえば、ニクパ会場にはおあつらえ向きだ。奥の専用炊事場ではジーンさんが下ごしらえを始めている。


 領都ラドで購入してきた食器を次々にテーブルの上に出していく。


「少し重い食器もあるけど、無理していっぺんに持たないでね。ゆっくりでいいから棚に入れてくれるかな?」


「はーい!」


 あらためて見ると、結構とんでもない量の食器を買っちまったな。あとはローク・ドージョー食品商会で仕入れてきた。ジョッキクーラーとエール用のサーバー。商業組合トレードギルドのあれが無かったら買えなかったんだよね。


 炊事場側の壁際に置くか… で、使い方はどれどれ… 説明書を読む。

 ジョッキクーラーは ”上の蓋を外して魔石を入れる(微小魔石で30日連続使用可能)”

 領都ラドで買ってきた魔石でもいいけど、鬼兎オーガラビットの魔石があるしこいつでいいな。

 蓋の下のお皿の様なへこみに入れて蓋をする。”ブゥン” という音がした。動き始めたようだ。扉を開けて陶器製ジョッキをしまっておく。


 次はエール用サーバー … ”引き出しを開けて魔石を入れる(微小魔石で10樽使用可能)” こいつにもさっき取り出したばかりの魔石をセット。引き出しを閉じる。 …で、エールの樽に接続金具をねじ込んで、金具を下向きに本体の穴に入るようにセット。 こうかな? たぶん使い方はジーンさんかサクラさんが解っているだろう。


 子供たちがやってきた。カーラちゃんがおれの言ったことを説明している。


「みんな、食器を棚にしまうのお願いね! そうだ! ガルゴ君、ジェス君、火起こし手伝ってぇ!」


「「「「「「「「「 はーい! 」」」」」」」」」


 おれと、ガルゴ君、ジェス君は南側に廻ってBBQコンロの火を起こす。二人に見てもらっている間に、食堂の南側の壁を外す。食器も片付いたな。


「ジーンさん、子供たちがお手伝いに来てますから、料理運びとかできますけど?」


「おー! 助かるー! これから揚げ物するから手が離せねぇんだ!」


 木皿と木製トングをテーブルの上に置いて、水を汲みに行く。汲んできた水を水差しに移し替えて、ジョッキクーラーの空いたスペースに入れておく。

 子供たちもせっせと料理を運んでくる。


「ソーヤ~! 火が起きたよ~!」


 ガルゴ君が呼ぶので。BBQコンロのところに行き、焼けた薪を崩してコンロの底に敷き詰め、鉄板を置く。


「よし準備完了、 みんなー! ありがとう! これから美味しい飲み物を用意します! コップもって集まれー!」


「「「「「「「「「 はーい! 」」」」」」」」」


「みんな自分のコップは用意した?」


 コクコク頷く。ジョッキクーラーから水差しを取り出して、マジックバックから濃縮果実水を取り出して水差しに入れ混ぜる。白に水玉柄の陶器… 乳酸飲料のあれ見たいだ。

 子供たちが差し出すコップに注いで回る。


「お手伝いありがとー! 飲んでくださーい!」


「おいしい!」「甘いのよ!」「冷たい!」「うめー!」「くだものだ!」


「いっぱい飲みすぎちゃうと、美味しいご飯食べれなくなるから注意してね!」


「「「「「「「「「 はーい! 」」」」」」」」」




 そろそろ解体も終わってるはずだ。ビラ爺の所に行くとちょうど終わった所だった。


「ビラ爺ありがとう。」


「なんの、朝飯前じゃ。おっとそろそろ晩飯じゃがな。」


 解体が終わった鬼兎オーガラビットマジックバックに入れて。ビラ爺に話す。


「明日から解体教えてもらえないかな? どうしても自分の手で解体しないといけないのがあるんだ。」


「かまわんぞ、元々、領都ラドに行く前に教えるつもりじゃったし。で、何を解体するつもりなんじゃ?」


「……これなんだ。」


 マジックバックから親狼の死体を取り出す。


「こいつは… あいつらの親か?」


「そうです。命を奪ったのは、僕じゃないんですけど、仔狼あいつらの親の毛皮あれば安心するんじゃないかと思って。」


「そうじゃの。でも今日見ていた限り、おぬしにはかなり慣れていたように見えたんじゃが?」


「本音を言うと、いきなり親を失ってしまったあいつらが不憫で…」


「猟師としては失格じゃが、それもおぬしの良いところじゃからな。わかった。」


 マジックバックに親狼をしまい、ビラ爺と一緒に一度家に戻る。




 家に入ると、おれの気配を感じたのかトーラとシーマが部屋のドアの隙間から覗いていた。


「ただいま。そうそう、ビラ爺に先に渡しておくね。はい、腰の薬。領都ラドで一番腕のいい薬師のところで買ってきた。あとこれ…」


 そう言って草床を取り出す。


「草床っていうんだけど、ベッドの乾草ほしくさの下に敷けば床から上がってくる寒さも少なくなると思う。冷えるのが腰にはよくないって薬師に聞いたから。」


「ソーヤ。ありがとうな。」


「あと、ここのテーブルとイス変えていい? お世話になった家具職人さんからいただいたものなんだけど」


「かまわんぞ。だいぶガタがきておるから、ちょうどよかったわい。」


「ビラ爺… 薬があるからって無理しちゃ駄目だからね。」


「わかっとるわい。ちょっと着替えてくる。」


 振り返るその横顔に光るものが見えた気がする。ささっとテーブルとイスを親方からもらったものと入れ替える。


「さて、 トーラ! シーマ! ご飯を食べに行くぞ。」


 キャン! キャフ!


 ビラ爺も着替えてきたので、揃って食堂に向かう。



 食堂に着くとさっそくジーンさんに鬼兎オーガラビットの肉を渡して捌いてもらう。スライスされた肉がトレーに積みあがる。半分ほどは漬けだれの入ったボウルに入れて混ぜ込んでおく。

 最後に、下茹でしたマルチョウのぶつ切り、シマチョウのたれ付けを食堂のテーブルに持っていく。


 食堂にはみんなが揃っていた。


「みんな揃ったようだな。例の件を片付けて、ようやくソーヤが開拓団ラドサに帰ってきた。しかも新たな仲間を連れてだ。で、ソーヤが戻ってくるときにみんな宛の手紙を預かってきたようだ。今から配る。呼ばれたら取りに来てくれ。最初は…ルーミア、これは…サリダ、次は…ベルデ、こいつは…ベルナ、そして…バルゴ ……」


 次々に手紙を受け取っていく。結構な量があったな。みんな開封して読んでいる。目に涙を浮かべる人、ニヤついている人… ちゃんと届けましたよ領都ラドの皆さん。

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