第104話 いろいろと報告

「早く! 新しいぇぇ!!」


 その瞬間、何のことか理解できなかったが、ベルナさんの手に握られていたそれを見て。…がっくりと膝の力が抜けた。

 トーラがおれを見て首をひねっている。


 団長とビラ爺が歩いてくる。


「おぅ! ソーヤ! お帰り! …まぁ、ベルナのことは気にするな。」


「よく無事で帰ってきたの。待ってたぞぃ。ところでソーヤ、そいつはストライプウルフか? よく使役テイム出来たのぅ。」


 幌馬車が追いつく。おれの姿を見て…


「ソーヤさんどうしたんですか? 走りすぎて疲れたんですか?」


「お世話になります、領都ラドから来たジーンです。」


「ジーンの小僧か! いっぱしになったもんじゃのぅ。歓迎するぞぃ。」


「団長のザッカールだ。話は聞いている、家も用意してある。早速だが案内しよう。」


 がっくりとうなだれたおれを放置して、大人たちは戻っていった。ただ一人を除いて。

 はいはい… わかりましたよ。


「ベルナさん… たわしを。」


 ベルナさんからたわしを受け取ると、すぐに付与をする。


「レベルが上がったので、これで、三カ月は持ちます。」


「ソーヤありがとうね。」


 そう言って、スキップしながら戻っていった。


「「ソーヤ、大丈夫?」じょうぶ?」


 優しいのは君たちだけだな。


「ソーヤ、その子触っていい?」


 子供たちの手がワキワキしているよ。そうか… おれはトーラ以下か…


「乱暴に触らないでね。この牙…わかるよね。トーラ! 暴れたりするなよ! いいな。」


 キャン!


「みんな、いいってさ。」


「やわらかーい」「ふわふわだよ」


 やっと少し落ち着いてきた。


「みんな、行こうか。」


「「「「「「「「「 はーい! 」」」」」」」」


 ようやく帰ってきたと思ったら、あの仕打ち。心がいっぺんに10本折れた気がするよ。


「そうだ、バラーピカはどうなった?」


「げんきー…だと思う …ピカちゃんは少し元気がないの。」


「そうかぁ、ちょっと心配だね。コッケルは?」


「ヒヨコが増えた!」


「他に何か変わったことあった?」


「行商のおじさんがお金持ってきたけど、団長がいらないって言ってた。その代わりお酒もってこいって言ってた。おかーさんたちには内緒だって。」


「お酒呑んで、ジャッケの皮の取り合いで喧嘩してたよ。」


 団長…何やってんの。


「あとね、柵を新しくしたの。広くなったって言ってたの。」


「そうかぁ… そんな大人だめなひとたちに負けなかった君たちには

 お土産があります。ほしい人!」


「「「「「「「「「 はーい! 」」」」」」」」


「じゃあ、ビラ爺のおうちに行こうか。」


 子供たちと一緒にぞろぞろとビラ爺の家に向かう。途中でバルゴさんがこっちに向かって走ってきた。


「ソーヤ! 荷物! 荷物!」


 いけね!サクラさんとジーンさんの荷物、マジックバックに入れっぱなしだよ。


「ごめん、お土産後にしていい? 荷物渡してくる。あとトーラお願い。」


「「「「「「「「「 いいよー! 」」」」」」」」



 バルゴさんの後に付いて、サクラさんたちの新しい家に向かう。

 さすがに新しい家だと目立っているなぁ。


「すみません。すっかり忘れてました。皆さんの過ぎて…」


「悪かった悪かった、ソーヤ。だからへそ曲げないでくれ。」


「で、どこに下ろしますか? どこに置くか言って貰えればその場所に出し直します。」


 ひょいひょいひょいとマジックバックから取り出して並べる。


「これとこれは、私の部屋に こっちです。」


 マジックバックに戻して、再配置。


「こいつとこいつとこいつは俺の部屋で、こっちだ。」


 次々に指定の場所に運んで置いてくる。引越し業でも始めるかな?

 一通り取り出し置いた。最後に…


「サクラさん、ジーンさん。これ僕からの引っ越し祝いです。夜は冷えますから草床があれば多少違うと思います。ベッドにおいてもいいかもしれないです。」


 そう言って、草床を2畳取り出す。


「真新しい草床。こんな高価ものを…」


「ある方のはからいで格安で入手しました。使ってください。こんなところですかね? そうだ、僕の背負子とシーマは?」


「シーマちゃんは幌馬車で寝ています。背負子も置いてあります。」


「わかりました。ビラ爺。お願いがあるんですけど。」


「なんじゃ?」


鬼兎オーガラビットの解体お願いしたいんです。全部で三匹なんですけど、とりあえず一匹だけ。内臓を仔狼たちの餌にするので。お願いできますか?」


「わかった。まかしておけ。団長の家の裏に出しておいてくれ。」


「あと、団長。あります。」


「お… おぅ。ソーヤ… おぇ、凄みが出てきたな。今からか?」


「なるべく早い方がいいと思います。」


「わ…わかった、家に行こう。」


 背負子を持って、団長の家に行く。裏庭に鬼兎オーガラビットを出してから家に入るとさっそくマジックバックから女神像を取り出す。


「これなんですけど。」


「随分豪華な箱だな。中身は?」


「これです。」


 そう言って正面の扉を開ける。


「こ…こいつは…」


「そうです。清浄たわしの女神像です。領都ラドや他の村にも置かれるのですが。最初に彫られたのを頂いてきました。できればみんなが集まるところにおいていただきたいのです。」


「わかった。思わず拝みそうになった。これがおぇに加護を与えている神様なんだな。」


「そうです。それと次にこれです。団長は女神様の眷属の話を聞いたことありますか?」


そう言って、テーブルの上に保存箱を置いて蓋を開ける。


「これはスライムか。女神の眷属のスライム…おとぎ話で聞いたことはあるが…」


「事実です。領都ラドでの瘴気汚染の話を聞いていますか? あの時に瘴気に耐えられなかったスライムたちを浄化しました。その時の一体です。

 騎士団の研究所で管理する予定でしたが、ローベルト様から、私が管理するようにと渡されました。」


「ローベルト様が自らか…」


「はい、そうです。スライムと僕の力を合わせると、瘴気の浄化ができるようになりました。団長の左目なんですけど。瘴気汚染でやられたんですよね。7年前に。」


「ああ…そうだ。ヘベル大森林の奥で瘴気汚染されたポイズンフロッグにやられた。だが、7年も前のことだ。今さら瘴気浄化しても治るとは思えん。」


「でも、試してみるというのは?」


「すまんな。信用してない訳じゃないが、…正直に言うと怖いんだよ。結果的に絶対に治らないと言う事実を突き付けられるのがな。」


「わかりました。無理にとは言いません。あと一つ僕のスキルで鑑定ができるようになりました。どこまで出来るのかはまだ調べている最中ですけど。魔力MP消費が激しくて、一日に何回も使えるものじゃないので。」


「鑑定…だと? スキルも鑑定できるのか?」


「試したら出来ました。でも今は本人の了解を得ずに勝手にするのは控えています。」

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