第103話 ただいま!
何がスイッチになったのか、煽ったおれもいまひとつ分かっていないが、それっぽい言葉を弄して、ジーンさんの料理魂に火をつけたのは間違いない。美味しいのを期待しています。
あとはお任せして、久しぶりにサクラさんとサーブロさんの日記の翻訳をする。
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「サーブロの日記」
先日は別館が完成した。
この前は「新しい茶碗蒸し」と言って試食させられたが思わず笑ってしまった。砂糖で甘く味付けしてあるのは良いが、中の具材は今までと変わらずコッケルやシュプリ…さすがにあれには参った。
砂糖を使うことで原価も上がり、味付けと食材のバランスが… まだまだ鍛える必要がありそうだ。
甘いというだけで高級という認識は一朝一夕にはとても解消しそうも無い。あと帳簿を付けさせて、原価・食材の管理についても叩き込んでおく必要がある。
原価を考えた食材の見直しをアドバイスしたが気が付くだろうか? シンプルに何も入れない。キパンブを潰したものを混ぜる。あるいは食感の変化を楽しめるような食材…果実とか…大いに悩んで結果につなげてもらいたい。
彼らからすれば、そもそもの知識がずるいと言われてしまいそうだが。そこは我慢してもらいたいものだ。
いよいよ明日からは、こちらの大改装工事が始まる。「割烹旅館 道場」として生まれ変わるのだ。秘密の研究場所も造っておこう。
しかし、我ながらこの年で秘密という言葉に心ときめいてしまうとは。
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だよね、転生する前の知識とかちとずるいかもね。チートだけに… などとつまらないことを考えていた間に、ジーンさんの料理が出来上がった。
見せてもらおうか ”ロシーマフウ” の
「美味い! カリ、フワ、トロ、ジュワーが全部あるよ! 3倍じゃないよ4倍だよ!」
「ジーンさん、これすごいです。 ”ロシーマフウ” ってすべての具材が一つになっていて、それでも口の中でそれぞれの美味しさが主張して最後に調和して消えていきます。飲み込むのがもったいないくらい」
「自分でもこんなに劇的に変るなんて思っても… でも何よりお嬢に喜んでいただけて嬉しいです。」
さすがジーンさん。いついかなる時でも、お嬢ファースト。
なんだかんだで大満足の夕食になった。ジーンさんから鉄板と魔導コンロを譲ってと言われたけど。もちろんOKですよ。
これを使いこなせるのは
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翌朝は白メコー、目玉焼き、野菜炒め、みそ汁 と言った簡単な料理。今までと味が違うとサクラさんが気が付く… 鉄板で目玉焼きと野菜炒めを作ったそうだ。
とんでもない
食後にトーラとシーマの朝ごはん。トーラは相変わらずのガツガツ。シーマは味わうようにゆっくり… 夕飯以降の分は
厩から馬連れてきて幌馬車につなげる。トーラとシーマに驚くかと思っていたが、お馬さんは結構図太い神経をしていた。
「サクラさん、シーマは荷台に乗せますので面倒見ていただけますか?」
もちろん二つ返事で了解してもらう。
「サクラねぇちゃん、ソーヤ兄ちゃん、また遊びに来てねぇ!」
デニー君。もちろんだよ。でもたぶんおれだけだと思うけど。
クワルを出て北に向かう。おれの隣でトーラも並走している。
驚くほど順調だ。というより今までトラブルがありすぎた。これが普通だよね。クワルから先には野営地などの施設は無いので、バソナ川と支流の合流する場所の近くの平原で休憩。草の背丈が低いのでここなら
サクラさんとシーマも降りてくる。ジーンさんは馬に水を与えている。
ニコニコ顔でサクラさんが近づいてくる、昨日隠した袋を持ってきた。何が入ってるの? おれとトーラが首をひねる。サクラさんが袋に手を入れて取り出したのは…ボール?
「おい! トーラ、興奮するな! こらぁ! トーラ!!!!」
一喝してようやく落ち着いた。サクラさんの手に持っているボールを視線が追っている。サクラさんもそれに気が付いて、右に左に…
「サクラさん、デニー君から聞いたんですね。」
「そうです。昨日トーラちゃんと遊んでたなんてずるいです。」
「わかりました。 トーラ! 縄を変えるけど暴れるなよ。呼んだらちゃんと帰ってくるんだぞ。じゃないとご飯は無しにするからな!」
キャン!
「じゃあ、サクラさん。トーラの相手お願いしますね」
そう言って、縄を付け替えサクラさんにお願いする。そのあいだにおれはシーマの傷の確認をする。
「シーマ、おいで。怪我の具合見せて。」
まだ少し足を引きずっているがちゃんと歩けている。傷の化膿も無く傷口もほとんど塞がりかけている。野生の回復力侮れないな。
そのあいだもサクラさんとトーラはボール投げに夢中になっている。おい!トーラ。お前やっぱりおれの時と態度違うだろ。尻尾を振る速度が全然違うぞ!
「おーい! そろそろ出発するぞー!」
ジーンさんが声をかけてきたので遊びの時間は終了。トーラの縄を付け替える。サクラさんとシーマは幌馬車に。再び走り出す。
しばらく走り、緩い上り坂を上がると、丸太橋が見えてきた。帰ってきた。もう少しだ。おれの走る速度も自然と上がる。
「おーい!!」
声を出しながら大きく手を振る。あ…いかんまたやらかす所だった。ゆっくりとスピードを落としてトーラの縄を短く持つ。団長とかだったらいきなりトーラに切りかかってきそうだし。
バルゴさんの姿か消える。相変わらず足が速いな。
だんだん近づくごとに人影も増えていく。ガルゴ君、マルコ君、エリザちゃん、ルシアナちゃん、ジェス君、ハンザ君、マリサちゃん、アマル君。子供たち勢ぞろいだ。
ゆっくり歩いていると、幌馬車も追いついてきた。
大人たちも集まってくる。ザリオさん、リサーナさん、ギーズさん、カルレさん、ガースさん、サリダさん、ダルベさん、ミゲルさん、ジェンヌさん、ベルデさん、マリーダさん、バルゴさん、ルーミアさん、ビラ爺、団長、ベルナさん…
帰ってきた。帰ってきたんだ。おれの居場所に!!
たった一か月なのに、もうずいぶんと長い間…何年も…そんな気がする。
ベルナさんが物凄い勢いで、こっちに走りながら叫ぶ。
「ソーヤァ!! 早く!」
「早く! 新しい たわし 出してぇぇ!!」
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