第102話 腕か?道具か?

「ちょっと待ってくれ、使役獣登録は… あった。銀貨1枚だな。ん? ソーヤ君、確認するが冒険者登録の時に野獣使役テイマーの申請したかい?」


騎士団規則の冊子を調べていたロイージさんが聞いてきた。


野獣使役テイマーの申請? そんなのあったんですか? していないと…登録できないんですか?」


「いや、登録は出来る。ただなぁ… 協会ギルド外の場合は、正規の分隊長格以上の資格を持つ者、二名の署名が必要なんだ。おれの署名は良いとして、もう一名…必要になるな。」


「後日登録しても問題ないのでしょうか?」


「一応プレートと付随する書類の発行後、三カ月以内に登録すれば… しばらくは領都ラドに行くことも無いのだろう? 申請の用紙に日付が記載されちまってるからなぁ…」


「そうだ! 団長やビラ爺ではだめですか?」


「そう思ったが… ”正規” のって条件があってな。書類とプレートが一対になっているから。書類だけ書き換えればと言う訳にもなぁ…

 そもそも使役獣登録は必ずしなければという訳でもないが、他人に被害を与えた時や、盗難などで使役者とはぐれたりした時にな…」


「そうですか。」


「そうだ! 斥候隊の彼はどうだ? この作戦の陣頭指揮しているだろうからもしかしたら資格者かも知れんぞ。」


「わかりました。ちょっと聞いてきます。」




「ジーンさん。ちょっといいですか? 実はあの二頭の使役獣登録しようと思ったのですけど、冒険者登録の時に野獣使役テイマーの申請をしてなくて…

 協会ギルド外では正規の分隊長格以上の資格を持つ二名以上の署名が必要らしいのですけど、もしかしてその資格ってありますか?」


「分隊長格以上の資格を持つ者の確認署名ですか… 困りましたね。立場上、その資格が有るとも無いとも明かせないんですよ… ちょっと待ってください。」


 そう言って、ジーンさんは何かを書いて蝋封をした紙を渡してきた。


「これと一緒に出すように伝えてください。しかるべき人が署名を追記してくれるはずです。」


「本当ですか! ジーンさん! ありがとう!」




「ロイージさん、ソーヤです、いいですか?」


「どうぞ。」


「聞いてみたのですけど、あるともないとも言えないと言う事でした。でも、これと一緒に提出してもらえば人が署名してくれるそうです。」


「あぁ…なるほど。確かに斥候隊の身分を明かすわけにはいきませんからね。手続き上はかなりグレーですけど。いいでしょう、それで提出しましょう。では申請書二通と二頭分の登録料お預かりします。それと昨夜の話なんですが、この手紙を開拓団ラドサにお願いします。」


「はい。責任を持ってお届けます。」




「ただいま戻りました。ジーンさんありがとう。おかげで登録できそうです。」


「いいえ、よかったです。これでお嬢も…」


「え? サクラさんがどうしました?」


「いえ、なんでもないです…」


 ジーンさん…その誤魔化し方、覚えていますよ。あの時と一緒です。どうせおれたちはついでですよ。

 そんな事を思いつつ。明日の予定を確認する。


「明日なんですけど。いつごろ出発します? ゆっくり出ても日の傾く前には充分に間に合いそうですけど。」


「そうですねぇ… ただあまりギリギリでも、向こうでの暮らしの準備もありますから朝食後に一休みしてからでしょうか?」


「わかりました。」


「ただいまー! ソーヤさん、ジーンさん。」


「おかえりなさい、サクラさん」


「おかえりなさい。お嬢…どうしたんですか? そんなにうれしそうにして?」


「えへへヘ… 内緒ですぅー。」


 初めて見たな、こんなに子供っぽいサクラさんは。


「じゃぁ、トーラとシーマに、ご飯あげて来ちゃいますね。」


「ソーヤさん私も行きます! ちょっと待っててください。」


 サクラさんは、何かを入れた袋を持って寝室に行ってから戻ってきた。


「サクラさんはシーマのご飯持ってもらえますか?」


 シーマ用の細かくした方のボウルを手渡して幌馬車に向かう。二頭が毛布の上で身を寄せ合って寝ていたが、足音を聞いてトーラがさっと立ち上がって、また尻尾ブンブンだよ。お前さん、そんなに振ったら…ちぎれるぞ。


 食事前の儀式。一喝して姿勢を整えさせる。トーラの前にはおれが、シーマの前にはサクラさんが、それぞれご飯の入ったボウルを置く。二頭に視線を送り…


「まだだ! まだだぞ!  …よし!」


 二頭が食べ始める。相変わらずトーラはボウルに頭を突っ込んでガツガツ。シーマは一口一口を楽しむように食べている。

 水の入ってたボウルを洗って、新しい水を入れておく。おれたちも晩飯にしましょう。

 家に入ると、ジーンさんが難しい顔をしている。どうしたんだ?


「どうしたんですか? シーンさん。」


「あ…すみません、少し今夜の献立のことを考えていたんです。昨日ソーヤさんが用意したあの鉄板。

 あの厚みのおかげで具材を載せても温度が下がらなかったおかげでしょうか、今までにない会心のヤーキソーバーが出来たんです。もしかしてあの鉄板を使えば何度造っても納得のいかなかった ”ロシーマフウ” という別名が与えられたコノーミヤーキーが造れるのではないかと…

 ただそんな考えで、お嬢の口に入る物を作っていいものかと…」


 あー… それってあれだよね。広島風のあれだ。確かに鉄板が薄いとクレープ状の土台だけ先に火が入ってキャベツやタネに火が安定して通らない、フライパンでとかで別々に作ったらうまく一体化しない。いいでしょう。全力で応援いたします。


「ジーンさん、悩む前に作りましょう。サーブロさんも失敗を繰り返してレシピを作り上げてきたんですから。」


 そう言って、昨日の鉄板とは少し違う鉄板と蒸し焼きにするあの蓋をマジックバックから取り出す。


「あとは、火力の問題ですね。鉄板の温度が下がっても、一気にリカバリーできるだけの強力な火力。

 ローク・ドージョー食品商会の最新型魔導コンロ。これでどうです?ジーンさん」


「この鉄板。厚みも昨日の物と同じ。でも材質が少し違う様な。」


「そうです。昨日のは穴を開けるので鍛造でしたが、この鉄板は鋳造です。熱の保持力はこちらが上です。

 昨日の鉄板もそうですが、開拓団ラドサに着く前にお披露目になるとは思ってもいませんでしたよ。

 道具が良ければ料理が上手くなるわけでもありません、道具に振り回されるのではなく道具を生かすのものうちなんじゃないですか?」


「確かに… 道具を見極めるのも、道具を使いこなすのも腕のうちですか… やってみましょう。お借りしても。」


「どうぞ。思う存分お使いください。そして腕を振るって僕とサクラさんに美味しいものを食べさせてください。」


 かなり露骨なあおり方をしてしまった気がする。





 --------------

 何年も前にかっぱ橋道具街で買った、鋳鉄製のすき焼き鍋。


 すき焼きに、ステーキにと使い込んで、だいぶ育ったと思ったら… 

 入院中に… とある人物に洗剤で洗われいて、泣いたことがありました。

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