第101話 虎と縞と革袋

 幌馬車まで戻り首輪をつけることにした。

 食事が終わって、 ぐてぇっ としている所におれが近寄ると、急にシャキッとしてお座りをしている。

 あれだけ飯も食わせたからか? 出会った時とは大違いだなお前は。そういえば登録するのに名前が必要だったな。決めてあげるか。

 狼の体で虎縞模様… 本当に違和感あるな。お前は顔も虎模様だから…


「お前の名前は、トーラ! わかったか!」


 キャン!


「よし、返事が出来たな。お前にはいいものをやろう。これだ!」


 そう言って、首輪を付けてやる。嫌がらないな。随分素直になったじゃないか。ウリウリッ! 尻尾をバタバタ振っている。縄を首輪に結び直す。


「すげー! ぼ…ぼくがさわっても大丈夫?」


「触ってみるかい? トーラ! 分かってるな。噛付いたりしたら駄目だぞ!」


 キャン!


 恐る恐る…デニー君が触る。うん。大丈夫みたいだな。


「すごい! 思ってたのと違ってふわふわだ! ありがとうソーヤ兄ちゃん。」


「おっ! 初めて名前呼んでくれたな。どういたしまして、デニー君。」


 さて次は、怪我をしてた仔狼。お前の顔は虎っぽくない縞柄だな。そうだな…


「お前の名前は、シーマ! わかったか!」


 キャフ!


「よし、返事が出来たな。お前にもあとでいいものをやろう。今は怪我を直す方が先だ。傷口見るぞ。どれどれ…」


 うん、大丈夫化膿はしていないな。薬だけ塗っておくか。


「よし。よく我慢したな。今は休んでいるんだぞ。」


 サクラさん、手がワキワキしていません?


「サクラさん、トーラを走らせて来るので、シーマの面倒見ていてもらえますか?」


「はい! 任せてください!」


「デニー君。トーラと散歩に行くけどどうする? サクラさんと一緒にいるか?」


「ん~~… 散歩に行く!」


「サクラさんお願いします。よし、じゃぁいこう!」


「うん!」


 キャン!


 二人と一頭は走り始めた。村の入り口を出て、ドゥラ方面に10分ほど進む。背丈の低い草が生えている手ごろな野原はらっぱがあった。ここで訓練するか。

 マジックバックから、30mほどの縄を取り出して、首輪に付いている縄を結び変える。領都ラドで見つけた小さな革袋に周辺の草をちぎってパンパンに詰める。詰め終えるとトーラの目の前に出して


「トーラ! いいか、今からこれを投げる。拾って戻ってくるんだ。行くぞ、それ!」


 10mほど先に落ちそこに向かってトーラが走る。すぐに探し当てて戻ってくる。おれが手を出すと、口から手の上に革袋を載せる。


「いい子だ! ウリウリ!  デニー君。投げてみるか?」


「うん! やる!」


 デニー君に革袋を渡す。デニー君もトーラの目の前に出してから…


「えいっ!」


 15mぐらいか? トーラが走って探し当て咥えて戻ってくる。一時間ぐらいそんな事を繰り返して


「よし、そろそろ戻ろう。」


 短い縄に結び変えて、クワルに戻ろうと街道に向かうと、背負子を背負った行商人がドゥラ方向からやってきた。まさか…

 ストライプウルフを連れたおれたちを見ると、ビクッとして足早で村の方向に向かっていった。

 つかず離れずの距離で。村へ入っていったのを確認してから… ジーンさん? 怪しい奴となに立ち話してるんだよ。


「ちょうどよかった。ソーヤ君連絡があったよ。」


 連絡員だったの? なんでおれたちの姿見て慌ててたの?


「焦りましたよ。街道の途中で野獣が狩りをした跡があったし、ストライプウルフの使役獣なんて聞いていませんでしたから。」


「これから話をする。戻ってきてくれ。」


 疑って、ごめんなさい。でもちょうどいい時間だ。ザレイさんのお店に寄っていこう。


「ちょっとお店に寄ってから戻ります。」




「こんちわ! ザレイさんいますか?」


「おぅ。ちょうど出来上がったよ。その連れているのがあれか?」


「トーラです。 挨拶しろ!」


 キャン!


「凄いな、完全に言うこと聞いてるじゃないか。おっと忘れちゃいかんな…これだ。またクワルに来ることあったらよろしく頼むな。」


「はい。ありがとうございました。」




 家に戻り、幌馬車にトーラをつなぐ。デニー君は家に帰っていった。なぜかサクラさんと一緒にだけど…


「すみません、お待たせしました。」


「ナジルからの伝言です。追跡者2名はラドニまでおびき寄せて捕縛することになりました。トロテで追跡者2名の通過を確認したのちに、私ともう一人がドゥラ・クワルにそれぞれ連絡に。もう2名が追跡者の動向を探りつつ尾行中です。」


「ドゥラからはで連絡するのだな。」


 … 追跡粉と一緒でおれに教えてくれないやつだな。


「はい、もうすでにラドニに騎士団が向かっているはずです。奴らは袋のねずみです。」


「わかった。こちらには追跡者1名が向かってきたようだが、途中ストライプウルフに襲われて死亡した。遺体は彼が回収してきた。これで脅威は排除できたと考えていいのだな。」


「はい、違いなく。で、その襲撃したストライプウルフというのは、彼が連れている二頭ですか?」


「いや、彼が連れている二頭ではない。消息はが。」


「…そうですか。わかりました。私はこのまましばらくここに滞在して、ラドニでの捕縛作戦の結果連絡を…確認が取れ次第、開拓団ラドサに連絡に向かいます。」


「あの? 北周りの街道の方は大丈夫でしょうか? あちら側は村がなく野営地だけしかないですけど。」


「大丈夫です。数日前から第二中隊の別の分隊が野営地を抑えています。危険な野獣が徘徊しているという理由で封鎖していますから。」


「そうですか。」


「これで明日は安心して開拓団ラドサに向かえる。連絡ご苦労。」


「では、私は宿の滞在手続きをしてそのまま逗留・待機します。」


 そう言って連絡員は外に出ていった。


「そういえば、ドゥラの村長さんがジーンによろしくって言ってました。」


「そうですか… あのジジィ…」


 これも聞いちゃまずそうな… 


「僕はもう一頭の首輪をつけて、騎士団に使役獣登録してきますね。」


 そう言って外に出た。

 さてと… おい!トーラなんだその得意げな顔は。さてはシーマに首輪見せびらかしてやがるな!


 そんな風に見えたが… 気のせいかもしれない。


「シーマ、おいで。お前にもいいものだ。こいつを付けてあげよう。」


 シーマも首輪を嫌がる様子がない。頭いいよなこいつら。さっそくザレイさんにもらった登録用紙に書き込んで…と。騎士団の野営天幕に向かう。


「ロイージさん。いまお時間良いですか? 使役獣の登録したいんですけど。」


「あ…あぁ…ちょっと待ってくれ。どうぞ。」


 テーブルの上に何枚も書き損ねた紙が… お手紙書いていたのね。


「あの二頭の使役獣登録お願いします。登録料っていくらですか?」

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