第99話 ホルモン

 泊まる家を用意してくれた村長一家にサクラさんが声をかけに行く。

 騎士団の方たちもテーブルや椅子を持って集まってくる、テーブルに自前のお皿を準備している。

 ジーンさんも家から大鍋を抱えて出てくる。


「ソーヤさん、漬け込んであるのが中に置いてあるのでお願いします。」


 鍋を覗くと…ハラミやいろいろな部位が入ったもつ煮込み! さすがはプロ、さっともう一品用意するなんて。しかもこの時期だから温かい料理は最高だよ!

 すぐにタレに漬け込んでいるモツを取って戻る。


「ソーヤさん、俺の調理器具の箱、荷台に出してくれませんか? 角を鉄で補強してある黒い箱です。最低限の道具しか取り出してなかったんで。」


 しまった。先に気が付けばよかった。


「すぐに出します。調味料は足りてますか? 僕が買ってきたものも出しておきますから足りなかったら使ってください。」


 荷台に黒い箱と買ってきた調味料の入った箱を置く。トングも出しておかないと。


「ソーヤ君、夕食に誘ってくれて感謝する。このところずっと携行糧食ばかりで士気も落ちて気になり始めたところだ。クワルで少し他の食事と思ってたが、鬼兎オーガラビットの対処の話もあって、思案していたところだよ。」


「僕もお礼もできずに領都ラドを発ってしまったので、ここで出会えてよかったです。お肉は充分あるはずですからいっぱい食べてください。あと、お酒に合う物もあるんですけど… さすがに任務中にお酒はまずいですよね。」


「酒か…  

 

 日頃の君たちの努力で巡回予定も前倒しで進んでいる。明日予定していた鬼兎オーガラビット討伐も、彼が排除してくれたので確認作業のみとなった。

 そこで明日は一日休養日とする。酒も解禁する。

 ただし、一人二杯までだ! 以上!」


 騎士団員の喜ぶ声が聞こえてきた。


「お肉は充分ありますので、用意してある木製トングで自分で焼いてお好みの焼き加減で! たれも種類がありますから! では、 ニ・ク・パ! 始めます!! 」


「「「「「「「 お~~!! 」」」」」」」


 ワイワイガヤガヤとBBQコンロの周りに群がって焼き始める。ジュージューと音を立てて肉が焼けていく。滴る脂が熾火の上に落てジュッ!という音と共に香ばしい煙となって、焼いた肉に薄衣のように纏われる。


 仔狼たちは、満腹になったようで寝てしまった。この騒ぎの中でも起きない。


 おれは、どんどん肉を焼いて、空のお皿を持っている騎士団員たちのお皿に乗せていく。焼き奉行状態。

 そろそろだな… ホルモン! 最初はマルチョウから、開いてあるからコテッチャンか? 鉄板の穴のある方で焼く。開いてあるからくるりと丸まってしまう。トングで焼き加減を確認。そろそろかな? トングでつまんでそのまま口に放り込む。やわらかでこってりした脂が口いっぱいに広がる。下味も抜群!


「ソーヤ、何食べてるの? 他の肉と違うみたいだけど」


 ギダイさんが話しかけてきた。何の肉か教えずにとりあえず食べてもらう。


「! 柔らかくて、ぷりぷりしてて、脂が口いっぱいに… 旨いな。独り占めする気かい? これ、絶対に酒に合う奴だよな。」


「ギダイ。酒に合うと聞こえたが?」


 もう一名ご案内です。焼きあがったのをお皿に乗せる。ロイージさんもためらわずに口に入れる。


「しまった! 一人二杯までなんてつまらないこと言うんじゃなかった!」


 おれが焼いているコンロの周りに騎士団員が次々にやってくる。ちょっと待って、まだおれも一つしか口にしていないんだから。


 自分の分と村長一家の分だけ残して、今度はシマチョウ。ジーンさんの鋭い感で濃いめの味つけにしてある。今度は鉄板側で焼く。いい感じだ、試しに一口…歯ごたえがあってあっさりだけど濃いタレのおかげでこれも酒に合う。どんどん焼いていく。

 待ちきれないロイージさんとギダイさんが一口。


「! こっちはしっかりとした噛み応え。タレが絶妙に絡んで…これも間違いなく酒に合う味だ!」


「美味い! なんで一人二杯などと…」


 それを聞いた騎士団員が次々に手を伸ばして、あっという間になくなってしまった。


「ソーヤ、そこに残してあるのを独り占めする気じゃないだろうね。」


「ギダイさん、ひどいな。これはお世話になった村長さんのご一家用に残してあるんだよ。(おれの分もあるけど)」


「ソーヤ、そろそろ何の肉か教えてよ。」


「そこの鍋の中身と一緒です。鬼兎オーガラビットの内臓。新鮮なうちに下処理すればこんなに美味しくなるんです。」


 内臓と聞いて一瞬顔をしかめた騎士団員もいたけど、おおむね受け入れてくれた、正直もっと癖があるかと思ったけど、元々癖がないのか? たわしのせいか?

 内臓の味に目覚めた騎士団員は、ジーンさんのつくっていた煮込みのほうに次々に突進していく。

 さて、残りを焼いて村長さんのところに行こう。焼き上げたホルモンを皿に盛りつけて、村長さんのいるテーブルに向かう。村長さんはもうすでに赤ら顔。


「お世話になります、村長さん。開拓団ラドサのソーヤと言います。今後もお伺いすることがあると思いますので、よろしくお願いします。これ、さっき騎士団の方たちに好評だった、鬼兎オーガラビットの内臓を焼いたものです。お酒はもちろんメコーにも合います。」


「これはこれはご丁寧に、内臓ですか…懐かしいです。子供のころ冷害で作物が少なかったころ、何度か口にしましたよ。」


そう言って一口… 目が大きく見開かれる。


「これが内臓焼きですか? 記憶にある味と全然違います。こんなに美味しい物では無かった、もっと癖があって食べづらかったような… これなら確かに、お酒にも合います。」


「下処理さえしっかりすれば、美味しく料理出来ます。手間がかかりますけれど。」


「その下処理の方法、あとで教えていただけませんか?」


 サクラさんも村長の家族もパクパク食べている。良かった、口に合って。本当はレバーやハツなんかも試したかったんだけど、仔狼あいつらの飯用にしちゃったからなぁ… 他の部位は量も無かったので煮込みに入っている。


 そろそろ〆のあれの出番だな。ジーンさんのところに行き話をする。


「最後に、ヤーキソーバーにしませんか? 麺は買ってきてありますから。」


 そう言って、幌馬車の荷台に麺を取り出す。


 ジーンさんの鉄板パフォーマンスが始まる。村長の子供たちもジーンさんのコテさばきに目を輝かしている。騎士団員の皆さんはよだれを拭きなさい!

 宴が終了すると、騎士団員がテキパキと片付けを始める。


「ロイージさん、騎士団の皆さんは開拓団ラドサまで行くのですか?」


「我々はドゥラ方面の街道整備をするので、開拓団ラドサにはいきません。」


「そうですか、もしよろしければ手紙を預かりますけど?」

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