第97話 検分

「とりあえず、そのストライプウルフが人を襲わなければいいが…ソーヤ君、大丈夫なのか?」


「最初は僕にも敵意むき出しでした(噛付かれました)けど、途中で鬼兎オーガラビットの遭遇して倒した頃から従順になりましたよ。」


鬼兎オーガラビット? もしかして出没したのは野営地とクワルの間の草原か? 四匹で村の猟師じゃ手に負えないからと騎士団に討伐依頼があったのだが… 確か目撃報告だと、オスの角の真ん中あたり、二か所に十字模様があると言ってたが。」


「ちょっと待ってください? いま出します」


「待った待った! ソーヤ君、ここじゃなくて解体場で頼む。」


 今まで通過して来た村って、開拓団ラドサと違って色々設備が充実しているよな。人口も多いし… ロイージさんと解体場に向かうと、仔狼も後ろをテトテトと付いてくる。

 解体場は、壁こそないが立派な屋根と、梁から吊り下げられたフック、石畳の床で整備された建物だった。さっそく石畳の上にマジックバックから、にゅるるんと四匹の鬼兎オーガラビットを取り出して置く。


「このオスの角… 目撃報告通りに十字模様があるな。どうやらこいつで間違いないようだ。おれたちの出番は無くなったな。」


 検分をしていると、クワル村の猟師がやってきた。仔狼を見てビクッとして遠回りに近づいてくる。鬼兎オーガラビットを見て


「こいつだ、もう討伐してくださったのか、さすが騎士団の方たちだ。」


「いや、騎士団おれたちじゃなくて、彼が討伐してくれた。」


「なんと… しかし… 四匹とも首以外に傷一つない… すべて首筋に一撃で… とんでもない腕前ですな。でも、そうなると払下げしていただく訳には… いかなくなってしまいましたか…」


 どうやら、猟師は騎士団が討伐してきた鬼兎オーガラビットを払下げしてもらって、解体して売るつもりだったようだ。

 普通は騎士団もわざわざ持ち帰らずに近隣の村で売却してしまう。代金はもちろん騎士団の収入として処理されるのだけど。


「あのぉ… 四匹全部は駄目ですけど、解体していただけるならこのオスの角や牙、毛皮は格安でお譲りしますが? とりあえず肉だけほしいのです。あとそいつに食わせる分の内臓とかも。」


「本当ですか! 解体ぐらいなら、ぜひ! お願いします。」


 猟師と話をして角・毛皮・牙を合わせて、銀貨3枚で譲ることに。普通に売却すれば軽く銀貨12枚にはなる。猟師はほくほく顔で早速解体に取り掛かった。


「肉と内臓は、後で取りに来ます。大まかに分けて置いてくれればいいですから。

 …ロイージさん。ちょっと別のお話があります。ジーンさんも交えて話をしたいのですけど。」


 おい、仔狼!行くぞ! 涎を垂らすな! 食べるのはあとだ!




 到着していたジーンさんとサクラさんのいる家に向かう。ここでも村長さんが用意していてくれた。


「ジーンさん! サクラさん! お待たせしました。無事に到着しました!」


 家の中から、ドタドタ と足音が聞こえてくる。ドアが バァン! と開いてサクラさんが… ドアの前で固まる。やべぇ… 話していないよ。


 サクラさんがプルプル震えながら一言…

 

「…か …かわいぃ!! この仔どうしたんですか!」


 かわいいだと? 危険生物だよ。1m近い中型犬サイズだよ。こんなに牙も鋭いんだよ。何故そんな言葉が出てくるの? サクラさんの感性がよくわからないのだけど。


 ほら、ジーンさんも…って、生ぬるい目で見られているのは


 とりあえず背負子を幌馬車に乗せ、マジックバックから毛布と縄を取り出す。幌馬車の脇に毛布を敷いて、怪我をしている仔狼をそっと置く。眠っているようなので、木皿ボウルに水だけ出しておく、首に縄を結んで車輪に縛る。もう一頭の方にも同じように。


「いいか! 噛付いたり暴れたりしたら… わかってるな! 大人しくしてたら、うまいもの食わしてやる。わかったな!」


  キャウ!


 本当に理解しているのだろうか? サクラさんにはあまり近づかない様に念を押しておく。

 だけど… あの目…おれは知っているよ。カーラちゃんのバラーピカを見る目と同じだ。


「すみません、お待たせしました。人目のない落ち着いた場所で…お話を」




 騎士団の大型野営テントに向かう。中に入り椅子に座るとさっそく


「最初に追跡者ですが、合計で三人。予想通り聖典派やつらでした。トロテに向かった僕たちを追いかけてきたのは荷馬車に乗った二人組、道中の霧が濃かったので早めにこちらに向かうことにしました。草むらに隠れてやり過ごした時に人数を確認しました。」


「濃霧に紛れるのは良い判断だ。」


「途中で、昨日の道中の野営地で三人いたことを思い出したので、確認のため一度ドゥラに戻りました。」


「ナジルは人数を伝えなかったのか?」


「はい、早めに向かう判断の際にちょっとした話をしたんです。ナジルさんが噴水広場で屋台をやっていたことについてなんですけど。」


「ちょっと待ってくれ、ソーヤ君。彼はあの場所では常に変装をしていた、それに気が付いたのか?」


「それなんですジーンさん。ナジルさんの左手の爪の形が特徴的だったので…気になって聞いたんです。そうしたら、合流した野営地で奴らに話しかけていた時に手袋をしていなかったそうで、気が付かれていたらまずいという判断で…」


「そうか… 人数を伝えておくべきだった。おれのミスだ。」


「で、ソーヤ君はドゥラに戻って人数を確認したと言う事か。」


「はいそうです。その後、ここクワルに向かい野営地の前で追いつきました、尾行しつつ様子を伺っていたらストライプウルフの親子と戦闘になり、親狼と相打ちで死亡しました。これが聖典派やつらの武器と身分証明みたいなものです。」


「こいつは… 仕込み杖か。頭がはずせるようになっているのか。」


「ロイージさん、気を付けて下さい。槍先に毒がまだ残っています。」


「ソーヤ君、聖典派そいつの遺体はどうした? 埋めて来たのか?」


「そのことですが、気分的に最悪なんですけど…こいつに入っています。母狼の死体もここに…」


 そう言って、マジックバックを指さす。


「遺体もなしに行方不明としてしまったら、向かった方向に何かあると勘繰られるのも嫌でしたので、ちなみに死因は彼が持っていた毒の瓶が割れて、傷口に触れたからだと思います。ここに出してもいいですか? 」


「わかった、ちょっと待ってくれ簡易ベットを持ってくる。そこで検分しよう。」


 ロイージさんがテーブルを移動して簡易ベットを設置する。おれは遺体をずるりと出して乗せる。


「首に噛まれた痕があるな、傷自体は浅いな。足にも噛まれた痕があるな。こっちの歯形は小さいが深いな。」


「足の方の噛み傷は、僕が連れてきたあの仔狼の兄弟が噛付いた時に、首の傷は親狼が噛んだ痕ですが、毒が廻ったようで途中で力尽きました。」

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