第95話 ストライプウルフ
『狩り場に近づいたら、まず風向きを確認すんじゃぞ…』
そんなビラ爺の言葉を思い出して、風向きを確認。
幸いなことに、おれの位置は風下。襲撃をしているストライプウルフたちに気づかれることは無さそうだ。背負子を下ろして藪の陰に身を潜め戦いを眺める。
ストライプウルフというだけあって、薄茶色の体に黒い虎の様な縞模様がある。トラ柄って確か迷彩効果があったよな。
「もしかして、追跡者じゃなくて普通に行商人だったら… 救った方がいいのかな…」
ストライプウルフはどうやら親子の様だ。2mを超える大きなやつが正面で注意を引きつけている、1mぐらいの小さな二頭が隙を見て背後から足に牙を立てようとしている。
小さな二頭が交互に襲い掛かり次々に位置を入れ替えている。二頭に注意が向きそうになると大きな一頭が牽制して注意をそらす。
一頭が、ふくらはぎに食らいついて傷を負わせる。
「さすがに、目の前で人が殺されちゃうのは… 助けるか…」
そう思っていたら、行商人は杖の頭の丸い握りの部分を捻じって取り外す。そこに付いていたのは鋭く尖った槍先の様な刃物。
仕込み杖! 間違いない、普通の行商人じゃない。今のうちに迂回して先に進もう。背負子を背負おうとした時
キャイン!
鳴き声が聞こえた。
もう一度襲われている追跡者を見る。足元からよたよたと離れていくストライプウルフ、後ろ脚に刺し傷がある。
追跡者はそのすきをついて、懐から小瓶を取り出して、中の液体を仕込み槍の槍先に垂らす。確かあれは
傷ついた小さなストライプウルフと追跡者の間に、大きなストライプウルフが割り込んで牙をむき出しにして唸っている。もう一頭の小さいストライプウルフは傷ついたストライプウルフのそばに行き、傷を舐めている。
追跡者は毒のついた仕込み槍を握って、勝利を確信したのか、歪んだ醜い笑いを顔に張り付けている。
「なんてぇ… 嫌な顔つきしやがるんだ…」
仕込み槍を突き出す追跡者、それをかわして食らいつこうとするストライプウルフ… 何回目かの攻防の後、4mぐらい離れて両者の動きがぴたりと止まる。
ざわざわ… と街道脇の藪を揺らしながら一陣の風が吹き抜けた時だった。
ストライプウルフが駆け出して追跡者めがけ跳びかかる。追跡者はそれに合わせて仕込み槍を突き出す。ストライプウルフの前足の付け根に刺さる。
しかし、勢いをつけていたストライプウルフの体躯を止めるまでには至らない。追跡者は慌てて両手で押し込むように仕込み杖を持つが、そのまま
仕込み槍が貫通したことで、追跡者の目の前にストライプウルフの牙があった。そのままストライプウルフは追跡者の首元に牙を立てる。毒が回り始めていたのか食い込みが浅いようだ。
追跡者は何とか逃れようともがいている。しかしストライプウルフも逃がすまいとして追跡者の上に傷ついていない前足を載せもう一度食らいつこうとする。
しかしそこまでだった、ストライプウルフの眼の光がスゥっと消え、どさりと追跡者の体の上に崩れ落ちた。パキリ… 何かが割れる音が聞こえた。
追跡者はもがいてストライプウルフの下から這い出てきた、だが急に苦しみだす。そのまま…苦悶の表情を貼り付けて… こと切れた。
「共倒れか…」
おれは藪から出て近寄った。怪我をしていない方の小さなストライプウルフが唸り声をあげ、おれを近付けまいと威嚇する。
ストライプウルフを警戒しながら追跡者を見ると、胸のあたりに紫色の染みが…
「そうか、自分の持ってた毒薬で…」
毒薬に注意して、懐を探る。あったプレートだ…『戦奴』と刻まれていた。
「やっぱり… でも、このまま放置して行方不明扱いだと…
そんなことを考えていたら、二頭の小さなストライプウルフは死んでしまった大きなストライプウルフの周りで、キューンキューンと鳴いている。
こっちも、どうしたもんか…
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俺は彼と別れたあと、馬には申し訳ないが軽くなった幌馬車をトロテに向かって全力で曳かせる。
しまった。また俺は抜けてた…
彼には宿に泊まっていたのが三人だと伝えるのを忘れていた。最悪の場合、彼は二人を相手にしなくてはならない。ミスの上にミスを重ねるなんて…
トロテに到着すると、騎士団権限で馬の交換をする。あいつらが空荷で追いかけてきても、これでかなり先行できるはずだ。
馬の交換の間に追跡の魔道具を確認しておく。
このタイプか…これなら方向がわかるだけで距離まではわからないはずだ。一気にラドニの街まで行って、捕縛体制を整えてしまった方がいいな。
この村にいた斥候隊員に状況を伝えて、奴らが通過後ドゥラとクワルに連絡員を送ってもらおう。間に合うかどうかはわからないが、このまま何もしないよりはましだ。
馬の交換が終わり斥候隊員にそれを指示をすると、俺はラドニを目指して馬車を走らせた。
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意を決して、追跡者の遺体を
「なんで…遺体なんか… ぃれなきゃいけないんだよ!」
次は、ストライプウルフなんだけど… 一歩おれが近づくと、怪我をしていない方のストライプウルフが威嚇をしてくる。
「敵意は無いんだよ。その仕込み槍だけ取らせて…」
落ちていた仕込み槍のカバーを持って近づく、槍先にカバーを付けてから
キャン!
急に刺さっていた杖が消えたのに驚いたのか一声吠えて後ずさりする。
ストライプウルフの死体をどうにかするにしても、血と土で… せめて、きれいにしてあげるか。
"たわし召喚!”をして、
イッ
噛付いたまま首を振って牙を食い込ませようとしているが… おれには全くダメージが無かった。
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