第93話 合流

 二人組の荷馬車はもうすでに村を出発して、領都ラド方面に向かったそうだ。領都ラド方面から来たのに、アンジ村で荷を下ろすことも新たに積むことも無く戻っていくなんてバレバレだな。おそらくドゥラ村までの間で新たな追跡者が入れ替わり現れるだろう。(時々鑑定してみるかな?)

 そんな会話をジーンさんとしているうちに、サクラさんも準備を整えて出てくる。三人で村長に挨拶をして出発をした。


 追跡の魔道具はあえて外さない。どのみちドゥラ村までは一本道。外してしまえばあいつらに気づかれてしまい、より巧妙な仕掛けをしてくるだろう。だから気が付かない振りをして油断してもらう。


 途中の野営地で長めの休憩をする。さっさと先に進んだ方が良さそうな気がするけど… 野営地には一頭曳きの荷馬車が一両、徒歩の行商人が2名休憩をしている。


 馬に水を与えながらジーンさんと話をする。


「ソーヤさん、ここで休憩をしているうちの誰かが入れ替わりの追跡者でしょう。もう目星はついていますので、あまり見ないでください。」


 鑑定しようと思ったのに…


 そんな会話をしていると、二頭曳きの幌馬車が野営地に到着する。こっちの幌馬車より一回り小さい。降りてきた御者が荷台を確認して渋い顔をしている。一頭曳きの荷馬車に向かい何かを話していたが、がっくりした感じで今度はこちらに向かってくる。


「すみません。馬の飲み水を分けてもらえませんか? 水樽に穴が開いてしまって…このままではドゥラに着く前に馬がへばっちまいそうで…」


 そりゃ大変だな… この野営地には近くに水場がないからなぁ…


「ソーヤさん、あっちの馬たちに水を与えてくれませんか? 私は彼と交渉しますので…」


 え? お金取るつもり? 足元みすぎていない? そう思ったが喉を乾かした馬たちがかわいそうだ、さっさと水持っていこう。


 馬たちは、桶に顔を突っ込んで飲んでいるよ。しっかり飲めよ。そう思いながら二頭の首元をなでてやる。

 その間に二人の徒歩の行商人たちと一頭曳きの荷馬車がそれぞれ野営地を出発していった。野営地に残っているのはおれたちだけになった。


 水を与え終えて幌馬車に戻ると、ジーンさんとさっきの御者が話をしている。


「…うまく合流出来ましたね。あいつらも出発したようですし。」


「間に合って良かった。村についてしまうと何かと監視の目がありそうだったから。」


「え? 知り合いだったの? ということは… 斥候隊員?」


「ナジルと言います。あなたもこれからの予定を聞いておいてください。」


 長めの休憩をしたのは、ここで合流するためだった。そしてこれからの行動予定ののすり合わせをする。


「ドゥラで荷馬車ごと入れ替わります。荷物ですが、一時的にソーヤさんのマジックバックで保管できますか?」


「量的には全く問題ないです。」


「先ほどまで居た一頭曳きの荷馬車ですが、服装は違いますが御者はアンジまで徒歩で来ていた行商人です。

 行商人のうち一人はその御者がアンジで背負ってきた背負子を持っていましたよ、荷解きされていませんでしたのですぐに判りました。」

 

 嘘ぉ… 全く分からなかったよ。


「明日の早朝ドゥラを出発する時に、ナジルにこっちの馬車に乗ってトロテ方面に向かってもらいます。

 ソーヤさんはナジルと一緒に出発してもらって、途中で積み荷をマジックバックに入れてから追跡者が通過するのを待って、クワルに向かってきてほしいのです。長距離の移動で負担をかけてしまいますがお願いできますか?」


「問題ないです。でも、ジーンさんとサクラさんは大丈夫ですか?」


「お嬢には荷台に隠れてもらう予定です、空荷の馬車ですから途中の野営地でも休憩をせずに一気にクワルまで行けるでしょう。クワルには第二中隊の分隊が待機しているはずなので、到着してしまえば監視者が居ても捕縛できます。」


「追跡者の通過を待たずに、街道から外れた草原や藪の中を進んだ方が見つからずに速く合流できそうですけど。」


「それは、あまりお勧めできません。魔獣はいないでしょうけど、鬼兎オーガラビットやストライプウルフに出くわしたら危険ですので。隠れる場合も街道から離れても100mぐらいにしておいてください。」


「あまり遅くならないうちに出発しましょう。怪しまれたら面倒なことになりますから」


 そうナジルさんが言うので、二両で連なってドゥラ村へ向かう。

 おかしい、荷馬車はともかく先に出発した行商人の姿が見えない。一本道でそろそろ追いついてもいいはずなのに、彼ら二人ともアンジ村方向に向かったのか? 


 ドゥラ村に到着。ここでも村長に挨拶をして積み荷の一部を下ろす。ナジルさんの積み荷は全部この村で下ろしていた。村の宿屋の入り口で徒歩だったはずの行商人がこちらを伺っていた。荷馬車も宿の横に停まっている、一応荷馬車の特徴を覚えておく。

 ジーンさんが、荷台の後ろ側の幌を開け残った荷物が見えるようにする。馬を厩に入繋ぎ、幌馬車を二両並べて停める。


 ここでも、村長宅の隣の空き家に泊まることになった。ナジルさんは空になった荷台で夜を明かすようだ。


 夕食をとり、サクラさんも交えて3人で明日の予定を確認する。サクラさんは、おれが別行動になることを知りジーンさんを責める。


「そうは言ってもお嬢。このままあいつらを開拓団ラドサに引き寄せてしまうわけにもいかないんです。」


「サクラさん、開拓団ラドサのみんなに迷惑かけるくらいなら、日記を餌に僕は奴らをおびき寄せて、西の草原を抜けて砂漠の蛮族ゼルキア国まで行きます。」


「・・・そんな・・・」


「サクラさん、よく聞いてください。

 なんです。あなたに危険が及ばないなら、春になってから僕がもう一度、領都ラドを訪れればいいだけなんです。

 きつい言い方をしますが、はサクラさん、あなたなんです。あなたの命を引き換えにされたら…ゴーロウさんも、ナツコさんも聖典派やつらの要求を…」


「ソーヤさん、それぐらいにしてください。お嬢もそのことは解っているでしょうから。」


 うなだれて寝室に戻るサクラさんを見送り、ジーンさんに昼間聞いたストライプウルフの事を聞く。知らない生き物といきなり対峙することになる危険性は理解しているつもりだ。

 ウルフってことは狼系…ならば、群れで狩りをするのかと思っていたがそうではないと言う、基本的に一頭のメスを中心にした家族が単位になるらしい。

 春先に繁殖期を迎え、晩夏に出産。そこまではつがいとして行動するが、乳離れをした今の時期はオスは去り、子供に狩りを教えている最中だと。子供が混じっているとはいえ、それでも囲まれたら面倒なことになりそうだ。

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