第90話 発つソーヤ、たわしを残す。

 24日目、食堂に降りると昨日までの喧騒が嘘のように、帝国から来たウカーリ商会の人たちが朝早くに出発したかららしい。

 キュパスも定期的にローク・ドージョー食品商会で仕入れることが決まった。帝国の南海の島の特産品だと言ってた、生は無理だけど、下処理をして時間遅延のマジックバックがあれば鮮度も問題ないみたいだし。


 朝食の時に、ゴーロウさんに風呂の掃除の件を話した。


「昨夜、風呂場と洗濯場の掃除をしておきました。驚かない様に従業員の方々に伝えてください。」


「ありがとうございますソーヤ様。ところで明日の出発ですが、荷馬車などご用意されておりますか? もしよろしければ…」


「いいえ? 用意していないです。荷物はマジックバックですから、西街道を徒歩で行くつもりですので、途中の村々で休めば、野営の必要も無いですし。」


「そうでしたか… もしよろしければ、西街道を進む予定の荷馬車があるのですが。冒険者の護衛を探しておりましたので、ご紹介しようと思っていたのですが…」


「それなら帰るついでですから受けてもいいですよ。冒険者協会ギルドに指名依頼して置くように伝えてくれれば、この後あとで顔を出すつもりなので、では出かけてきます。」


「わかりました。伝えておきます。」


 そう言って、ゴーロウさんは微笑んだ。



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 商業組合トレードギルドに来た。ベンリルさんを呼んでもらう。


「ベンリルさん、お忙しいところすみません。明日、開拓団ラドサに帰るのでご挨拶に来ました。」


「ソーヤさん、わざわざご丁寧にありがとうございます。

 そうそう、ソーロバンですが商業組合ここでも使い始めているんですが、とんでもなく便利なものですね。もうすでに大手商会からはひっきりなしに問い合わせが来ております。皆帳簿付けに苦労しておりましたから。

 あと算術台ですが、先日帝国の商会があちらでの独占販売の契約をしていきました。王国だけでなく、帝国からもライセンス料がどんどん入ってきますよ。そのうちにソーロバンも売り出して…」


 ベンリルさん… 完全に目が逝ってませんか…


「そ…そうですか…」


 思わず顔が引きつってしまった。領都ラドだけですでに銀貨40枚を超えているのに、さらに王都や帝国までとか… その上ソーロバンまで… ちょっと怖くなってきた。でも、ローク・ドージョー食品商会に依頼した調査費用の問題は完全になくなったな。


「そのうちにまた来ます。その時はよろしくお願いします。」


「こちらこそ。次はどんなものが飛び出るか期待してますよ。」


 ハードル上げないでよ… 次は、冒険者協会ギルドか。



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 冒険者協会ギルドに来ると、いつものご相談カウンターにあの人がいた。


「こんにちは、デリダさん。明日、開拓団ラドサに帰るのでご挨拶に来ました。」


「ソーヤ様、先日は…」


「様付け禁止です。」


「ソーヤさん、ありがとうございました。ギルマスのお部屋にどうぞ。」


 部屋に入り、あのソファーに注意して座ると


「ジラルドさん。お世話になりました。明日、開拓団ラドサに帰るのでご挨拶に来ました。」


「そうですか、領都ラドに住んでいただけるとよかったのですが、そうもいきませんよね。いろいろとありがとうございました。冒険者協会ギルドを代表してお礼申し上げます。」


「いえ、やれることをやっただけですので。そうだ、開拓団ラドサには西街道を進んで帰るのですが、護衛の指名依頼が来ていませんか?」


「ちょっと待ってください。デリダ、確認してきてください。開拓団ラドサに戻るなら、この手紙をザックに渡してください。お願いできますか?」


「はい、構いませんよ。もし他にも開拓団ラドサに持っていく手紙があればまとめて持っていきますけど?」


 デリダさんが戻ってきた。


「これですね、荷馬車の護衛依頼。西街道を進んで開拓団ラドサまでになっていますね。珍しいですね、この時期に片道の護衛なんて。しかも前金で食事つき? 相場通りだから問題は無いと思いますけど。」


「知人からの紹介ですので、そのまま受けます… そうだ、報告はどうすれば?」


「前金の依頼ですから、ここでサインしていただいて、完了後に先方のサインを貰ったら期限までに提出してください。巡回の騎士団や行商人に渡すか、こちらに来た時に提出していただければ。期限は1年間ですので。」


「わかりました。いろいろとお世話になりました。手紙ですが明日の朝の出発前までに持ってきていただければ開拓団ラドサに届けますので。」


 護衛の依頼を受け冒険者協会ギルドを後にした。




 後は、騎士団と道中の食事の準備だけど… 食事は護衛の依頼主が用意するって言ってたな。足はいつの間にか噴水広場に向かっていた。とある屋台を探すが無い。ジーンさんまだ体調悪いのかな? いたら挨拶しておこうと思ったんだけどな。



 騎士団の駐屯地に向かう。うっかりしてたアポなしだ。今日の門番の人は知らない人だった。ロイージさんたちはまだ村々を調査して回っているらしい。マールオさんは領都ラドにはいるが任務で出払っているそうだ。開拓団ラドサに帰ることを伝言してもらうことにして宿に戻った。


 明日は西門で護衛依頼者と合流して出発。いよいよこの宿ともお別れ。次に領都ラドに来るのはいつになるのかな?


 早めに夕食を済ませ部屋に戻る…ふと思い出した。うっかり種をマジックバックに仕舞ってたけど…やっちまったかな? 鑑定したら問題なかった。種は生き物扱いじゃないのか? 発酵食品も? そういうもんだと思うことにした。


 を作ってから寝ることにした。



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 25日目、早朝に起き背負子に保存箱を積む。昨日分離したも鑑定しておく。部屋を見回し忘れ物を確認。昨夜届いた開拓団ラドサのみんなへの手紙も持った。


「お世話になりました。ありがとうございます。」


 誰もいない部屋に向かってお辞儀をする。


 受付に行くと、ゴーロウさんとナツコさんが居た。


「お世話になりました。また領都ラドに来た時には、よろしくお願いします。あとこれなんですけど、良かったら使ってください。」


 そう言って懐から ”たわし” を取り出し、作ってもらった偽装袋から ”デッキブラシ” を取り出す。


「これ僕のスキルで造り出したものです。たわしは半年ぐらい、デッキブラシは一か月ぐらい効果を発揮するはずです。効果が切れても普通の物よりはきれいになると思います。使っていただければ嬉しいです。」


「なんと… そんなものを頂いてもよろしいのでしょうか…」


「お世話になったお礼です。是非受け取ってください。ではお元気で。」


「またお越しになるのをお待ちしております。あの部屋は、ソーヤ様のお部屋として常に開けておきますので。。」







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 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 第4章 これにて終了です。


 色々と詰め込み過ぎて、プロットの時点より、だいぶ領都(ラド)滞在が長くなってしまいました。


 ここまで書き続けてこれたのは読んでいただいた方々のおかげです。


 次章から、ようやくソーヤもラドサに向けて出発です。


 毎日更新が少々辛くなってきましたが、頑張って書いていきますので、今後もよろしくお願いいたします。

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