第88話 土産物
ちょうどお湯も沸いたようだ。ゴーロウさんは鍋に塩を入れると、キュパスの足を一本切り取ってゆっくりと沸騰したお湯の中に入れていく。タコの足がくるくるっと丸まり赤く色づいてくる。タイミングを見計らって取り出して、切り分ける。
「では試食してみましょう。」
料理人二人が口を開く
「弾力が… というより、硬いですね。薄切りにしてみたらどうでしょう?」
「味は悪くありませんね。オーデンに入れて煮込んだら美味しいかもしれません。」
「もっと柔らか… そういえば、茹でる前に叩いているのを見た気が…」
「叩いていた… 確かに筋肉繊維が強靭そうですから、茹でる前に叩いてほぐしたほうが良さそうです。あと茹でる時も塩だけではなく… 少しだけ酢を入れてみますか。」
厨房内に ダン!ダン!ダン! とタコを叩く音が響く。
「これでもう一度茹でてみましょう。」
今度は塩と酢が入ったお湯で同じように茹でる。
同じように切り分けて試食をする。
「先ほどと全然違う。柔らかく適度な弾力がある。旨味も出てきている」
「これなら、薄切りにしてサーシミーでも行けそうです。」
「美味しいです。御爺様」
「あ…美味い。何もつけていないのに旨味がしっかりある。タコメシ…キュパスの炊き込みにしたら美味しいかも。」
一瞬、ゴーロウさんの目が光った気がする。
「ソーヤ様ありがとうございます。これなら食材としてローク・ドージョー食品商会で仕入れをしてもいいかもしれません。では早速試作をしましょう。サクラ、今日はもう寝なさい。」
おれとサクラさんはお役御免。明日の朝ご飯で出てくるのかな?
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23日目、朝からゼシトが訪ねてきた。今日は休日だという。急いで朝食を終え二人で土産物を物色しに
最初は、あの下着屋に注文しておいた品を取りに行く。男二人で踏み込む勇気はゼシトにもなかったようだ。さっさと受け取って
「頼まれたものはすべて買ってあるけど、いざお土産となると何を選べばいいのか見当がつかないので、ゼシトが来てくれて助かったよ。」
「頼まれた物って、ソーヤは何を買ったの?」
「作物の種とか、さっき受け取った下着とか冬用の古着、布や針、工具や農具、あと食材や酒も買った。チビ達には算術台を用意したし、団長たちには買ってある酒で問題ないと思うんだけど…ね…」
「そうだな、親父たちには酒でいいし、チビ達に算術台というのもいいと思う。あとは、おふくろたち女性陣のお土産か… 確かに難題だな。」
そういえば、水仕事で
「ソーヤ、腹減ってない? 悩んでてもしょうがないし、噴水広場の屋台に行こうぜ。喰ってたら何か思いつくかもしれないしさ。」
「だね。そうしようか。」
事件が解決して噴水広場も元の活気を取り戻しつつある。屋台も出て賑わいも出てきている。ジーンさんの屋台は出てないな。まだ具合悪いのかな?
「タイヤーキ喰いたかったんだよね。おぉ…あるある、何味にしようかな? ソーヤのおすすめは何?」
「シンプルにチーゼか、ジャッケ&マーヨウ、ハムチーゼもいいかな? 甘いのならキパンブが意外とお勧めだよ。」
「さすが! ドージョーに泊まっているだけあって詳しいね。ジャッケ&マーヨウにしてみるかな? おっちゃん! ジャッケ&マーヨウ1個」
「僕はキパンブにしてみるかな? キパンブ1個お願いします」
「あいよ! ジャッケ&マーヨウとキパンブ! おまちぃ!」
売れ筋なのか、すぐに焼いてくれて出来上がる。お金を払ってかじりながら…おっ!キパンブの甘さがたまらない。頭使い過ぎかな?
「うめぇ、ジャッケ&マーヨウ。これが毎日食えたらいいのになぁ。練兵場から抜け出すわけにいかないけどさ。」
毎日? そっか難しく考えること無かった。
「ゼシト! その一言で決まった!」
「え? 何が決まったの?」
「お土産だよ。お土産に甘味!タイヤーキの焼き型とか買って帰る。紡ぎ仕事の合間の休憩で食べれたら喜んでくれると思う。そうと決まれば、行こう!ローク・ドージョー食品商会!」
二人でローク・ドージョー食品商会の扉を開ける。いたいた。ドルナルドさんのいる窓口に向かう。
「あれ? ソーヤさん何か買い忘れですか?」
「そうなんです。買い忘れというか追加で買っていこうと思いまして。甘味を作れるように、タイヤーキの焼き型を買って帰ろうと…ありますか?」
「焼き型ですか…ちょっと待っててください。確認してきます。」
「ソーヤさん、申し訳ないです。在庫が無くなってしまいました。今朝までは数があったんですけど、先ほど帝国から来られた商会の方がすべて買い取ってしまわれて…次の入荷が五日後になってしまうんです。」
あちゃぁ、残念…
「そうですか…残念です。明後日には帰ってしまうので…また今度、
「ソーヤ、ごめん。のんびり食ってた俺が悪かった。」
「ゼシトのせいじゃないです。そもそもタイヤーキを食べなければ思いつきもしなかったですから。」
「ソーヤさん? 甘味のお土産ですか? それならばちょうどいいものがありますよ。ちょっと待っててください…… ……これです。星砂糖というお菓子です。最近帝国から入荷してきたものなんですけど、女性に、特に妙齢のお姉さま方に人気なんです。」
ドルナルドさんが持ってきたものは…壺に入った金平糖だった。
もちろん購入しました。壺入りのまま二つ。
「ゼシト、ありがとう。みんなのびっくりする顔が浮かんできたよ。あともう一カ所寄りたいところあるんだけどいいかな?」
「もちろん付き合うよ。」
今度はファニル家具工房に向かう。
「親方~! いますか~?」
「おぅ。待ってたぞヒヨッコ! 今日はあの娘じゃないのか?」
「親方、なんか誤解を招く言い方しないでくださいよ。で、渡したい物って何ですか?」
「そうじゃった。ちょっと待て… …これだ。あの女神像をむき出しのままじゃ申し訳ねぇ気がしてな。いま持って来てるか? 納めてみろ。」
親方が持ってきたのは、エボーニという木で作られた重厚な箱だった。正面の開き戸を開けて、空いた扉をスライドしてしまい込む。
真ん中にちょうど女神像がおさまる台座が造ってある。
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