第84話 本気のベンリル
案内された倉庫には、元の世界の畳とも違う独特のいい香りのする草床が積まれていた。
サイズは1畳、3尺6尺の中京間定型だ。
「1枚おいくらですか?」
「ここにある40枚、ある商会が購入予定だったんだけど、なんか悪いことしてたみたいで商会丸ごと潰れちゃって、引き取り手が無くて困ってたんだよ。普通なら1枚小銀貨12枚なんだけど、小銀貨9枚でどうだい?」
あちゃ…やっぱりそれぐらいするよね。せめてビラ爺の分だけでも買って帰るか…
「どうしました? ソーヤさん。」
「いえ、やっぱり高価だなと思って… これからどんどん寒くなる時期なんで、これがあれば底冷えが抑えられていいなと思ったんですけど…
「そう言う事なら、お任せください。 おかみさん。ここにあるのを全部引き取るのであれば、おいくらになりますか?」
え? 40枚全部? どう考えても無理でしょ。売れる当てあるの?
「ええぇ? 全部かい? うちは助かるけど…そうだねぇ。小銀貨7枚、全部で280枚でどうだい?」
「見たところ材料代だけなら小銀貨4~5枚ですよね。作業費分含め6枚として、240でどうでしょう?」
「240だと、うちもギリギリだからねぇ… 全て買い取ってくれるなら、掛売無の即金で250枚。これ以下だと潰れちゃうよ。」
「わかりました。これを…
イサーグ工房を後にする。
「ベンリルさん。全部買うのは良いですけど、売却先に心当たりあるんですか?」
「いいえ、売却はしませんよ。実はソーヤさんには
「え? 僕、
「ものすごく貢献されたじゃないですか。」
ウーゴの詐欺を暴き、被害拡大を防いだこと。
ウーゴーの詐欺行為の発覚で行商人に不信の目が集まったが、算術台のおかげで信用失墜を防げたこと。
カストルの不正であちこちの商会や工房が被害を受けていたが、その不正を暴いたことで、ローベルト様から補償が受けられるようになったこと。
さらに今回のソーロバンの登録。
これらすべてが、
そんな深い考えがあったわけじゃない。すべてやりたいようにやっただけなんだけどなぁ…。
「あと算術台の使用ライセンス料ですが、
そんなことになっているなんて…… 気を取り直して夕方まで買い物をしまくる。
ベンリルさんが
まずは陶器のジョッキとお皿、スープボウルなどの食器類。
冬物の服もちろん中古、洗うだけでいいし。いざとなったら樽にぶち込んでスライムくんが大活躍するだけだし。
下着はさすがに新品。またあのお店、リストを渡したのでたぶん大丈夫。明日受け取りに行くだけでいいはず。
下着のお店の並びにある衣料品店で、布、糸、針もろもろ。
雑貨店で、紙、鉛筆、画材一式、ロープ各種。
ローク・ドージョー食品商会にも立ち寄る、メコーとメコー酒、ソルイ汁(醤油)、発酵ソルイのミーソ(味噌)、コーブ、ツオーブシ(鰹節)、腸詰、土鍋などいろいろな調理器具。
褒章の予算を使い切って、お土産を買いまくった。
夕方そのままイサーグ工房に行き、無事に入金が終わっていたので、草床をすべて
「ベンリルさん。今日は1日ありがとうございました。」
「いえ、こちらこそお役に立てて良かったですよ。では私はファニル家具工房に寄り、試作品を受け取って
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「アマート。4日後に使徒様は
「はい。ローベルト様。残念ですが。」
「無理に引き留めるわけにはいかんな。
「ローク家、ドージョー家から、サーブロの遺産については使徒様にすべて渡すことにしたと話がありました。」
「確かに彼らに負担を押し付け、管理を任せてしまうのは危険が大きい。特にあの日記だ。内容についてはどうなのだ?」
「現在、ドージョー家の娘が使徒様と共に翻訳中です。日記の後年から遡る形で翻訳をしております。一部ですがこれを。」
ローベルトは一読して深いため息をつく。全くあの
「アマート、使徒様が
「人選は終了しております。彼には
「そうか、今後も翻訳した日記は随時こちらに届けさせろ。王都の宰相にもこの翻訳した内容を送るのだ。おそらく帝国や他種族とも連携を取り聖公国に対応することになるだろう。」
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宿に戻ると、部屋にサクラさんが訪ねてきた。そういえば翻訳全然進んでいないな。今日はちょっと頑張ってみるか。
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「サーブロの日記」
私はデモシナーと共にラドニへ向かっていた。目的はメコーの栽培をお願いするためだ。ラドニは数年前から開拓を始めた場所で、ギーラド湖の豊富な水と周辺には湿地帯があり、
それにつけてもギーラド湖は豊かだ、ジャッケなんかは前の世界の鮭に似ている。いや鱒かな? こちらでも、船上からスプーンを落としたら…先日依頼したあれが間に合っていれば、あっちで趣味にしていた釣りができたのに。
ラドニでの用事を済ませ、帰宅すると息子が先日別館の料亭に風変わりな集団が訪れたと言ってきた。店に入るや否や「使徒様はどこにおられる!」といきなり騒ぎ出したそうだ。私がしばらく旅に出ていることを聞くと「また来る」と言って去っていったそうだ。料理も口にせずに…
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