第80話 暴かれた悪事

「不正発覚の発端は、教官のキーレル氏が練兵場の座学にて使用した算術台に不良品が見つかった事です。キーレル氏の署名入りの正式調査依頼書が発行され、納品物の再確認と共に関係者一同を集め状況を調査を行った結果、当該管理局員の不正行為が判明いたしました。」


 ラベスさんはローベルト辺境伯に書類を手渡し、続けて話す


「最初の資料ですが、一方は商業組合トレードギルドより提出された算術台に刻印された製造番号の一覧、もう一方は騎士団の納品倉庫に保管してある算術台の製造番号の一覧です。

 騎士団で管理されている算術台の番号は半数しか揃っておりません。


 本来の発注数400組、騎士団において確認している数量は、ファニル家具工房の刻印入り200組と、刻印の無い不良品が200組。


 ファニル家具工房で製作された400組は、一括で騎士団納品倉庫の納入する契約でしたが、前日に商業組合トレードギルドにて受け渡しへと変更されておりました。

 こちらは変更指示書の控えです。本来はしかるべきところに保管されているものが、カストルの私物に紛れ込んでおりました。


 次に、こちらがカストルの発行した受領確認書です。サインは本人の筆跡であると確認が取れております。商業組合トレードギルドと納品倉庫の2か所、別々に発行されております。


 商業組合トレードギルドでの納品状況を聞き取り調査したところ、受取り後に騎士団方面に曲がる路地と反対側に荷馬車が曲がったとの証言がありました。

 その方向にカストルと懇意にしているというパークリー工房があったため、昨日深夜に当該工房の捜索を行い、不明分の算術台のうち150組を発見。押収いたしました。


 また、商業組合トレードギルドのベンリル氏から ”横流し品の取り扱いをしている可能性がある” と指摘・証拠を提示されたパッチモ商会についても同夜に捜索、20組を発見しました。すでに10組は売却されておりました。


 残りの20組については行方がつかめておりませんが、カストルの自宅など、未捜索の場所に隠匿されている可能性が極めて高いです。


 パークリー工房の工房主、パッチモ商会の商会長の事情聴取の結果はお手元の調書に書かれているとおりです。」


「ふむ、今後の納入予定の200組をパークリー工房に正規手順を踏まずに発注、しかも予算超過の小銀貨8枚で発注すると…

 そして、納品後には一組当たり小銀貨5枚をリベートの要求… 次回発注の確約と共に同様のリベートの要求…


 すり替えた150組は、指示した日時に指定数をパッチモ商会に搬入…

 その際、パッチモ商会は仕入れの代金として1組につき、小銀貨12枚をカストルに支払うことになっているな。


 こんなに派手にやっていて、なぜ監査課は動かなかったのだ? いくらでも余罪がありそうなものだが?」


 家令のジャルティが答える。


「ローベルト様。申し訳ありません。実は監査課にコービー・サークーシュという人物がおり、その者がカストルに対する告発を隠ぺい、巧妙に握り潰しておりました。この者も捕縛しております。」


「サークーシュの一族か… やはりあの時に切っておくべきだったな…


 この際だ! 徹底的に締め上げろ! マクシル! アマート! 方法は任せる。


 しかし、このすべての件に【使徒様】が関与されて… なんとお礼を申し上げればよいのか…」


「ローベルト様、お礼など不要です。ですがお願いがいくつかあるのですが聞き届けていただけますでしょうか?」


「なんでしょうか?」


「一つは帝国に存在したとされる使徒達のことです。

 彼らも聖典派やつらに目を付けられてなかったか知りたいのです。彼らの一般的な史実や、表に出せない事情とかを調べたいのです。知っていれば聖典派やつらが仕掛けてきた時の対処の役に立つと。


 もう一つは…

 既にご存知だと思いますがサーブロさんの日記についてです。今翻訳をしている最中ですが、ドージョー一族からもお話があると思います。日記が存在することで、あの人たちが聖典派やつらから狙われる可能性があります。守っていただけないでしょうか?


 あと、最後に一つ。

 【使徒様】というのはやめていただけませんか? 普通に呼び捨てでかまいません。」


「帝国の使徒の調査ですか。できうる限りの情報を集めましょう。あとドージョー一族の件ですが、もとより彼らは私が守るべき辺境領の住民です。聖典派やつらには王国として対処いたします。これ以上好き勝手にはさせません。最後の一つは…わかりま…わかったよ。


「ローベルト様、そろそろよろしいでしょうか。」


 ローベルトが頷くと


「では、本日の報告会議はこれまでとします。マクシル、アマートは私と共に来るように。サークーシュの一族を追い込む話し合いです。他の者は職務に戻るように。ただし、使徒さ… のことは他言無用とします。以上。

 ソーヤ君…はもう少々お待ちください、彫刻のスキルを持った者が参りますので。」


 なんだか微妙に言いずらそうだけど、我慢してください。おれも様付けされてずっとぞわぞわしていたんですから。




 --------------

 ドアがノックされて、ローベルト様から呼ばれた3人のスキル所持者が執事と共に入ってくる。

 あれ? 見知った顔が…というより昨日呑んだ面子が一人混じってる。


「ローベルト様、3名のスキル所持者の方々を御案内いたしました。」


「ヴィンチェント石材工房 レナード・ダ・ヴィンチェント です。」


「ピカン絵画工房 パーブロ・ピカン です。」


「ファニル家具工房見習いの… ミケラ です。」


「急な呼び出しですまなかった。よく来てくれた。来てもらったのは… とある像の製作を依頼したいからだ。今後の領都ラドのシンボルとしてふさわしいものを作ってもらいたい。

 これから見本を見せるが驚かない様に。また本日見たことは一切他言無用だ。それでは、ソーヤ君お願いする。」


 円卓の中央で、壺を横にしてスライムに出てきてもらう。


「「「ス・・スライム?」」」


 [じゃあスライムくん。またお願い。少し長くなるかもしれないけど頑張って]


 […ワカリマシタ…シトサマ…]


 円卓の上のスライムが徐々に盛り上がり女神の姿に変化していく。変化し終わると まるでガラスの彫刻の様だ。3人は思わず拝んでいる。執事さんは目を白黒させている。


「拝むのは後にしてくれ、この像・絵画を造ってもらいたい。石像は噴水広場のモニュメントにする。絵は、公邸の入り口ロビーに飾る。木像については各村に送りしかるべき場所に設置する。費用、期限については後日相談する。」


 そうローベルト様が言うと、3人は円卓に近寄りいろんな角度から眺めスケッチを始める。ミケラが道具袋から角材とノミを取り出す。

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