第77話 みんな笑顔

 風呂に入るついでに、今日着てたもの全部洗ってしまおう。そうだ、手ぬぐいも洗っておかないと。

 着替えを持ち部屋を出ようとすると。


 [シトサマ…ドコニイクノ…]


 [お風呂に入ってくるんだよ。おとなしく待ってて]


 [シトサマ…ワカッタ…マッテル…]


 身体を洗って、湯船に入る。さすがに今日は疲れたな。ほぼ丸一日下水道の中で掃除だもんな。それにしてもスライムがあんなに一杯いたなんて… でも【浄化】を貰っていたから助かった。おかげで瘴気被害を受けた人たちが助かったし。そういえば最後にスライムが言ってたな [清浄たわしの女神の力を使わなくてもスライムたちが浄化できる] って

 さて、洗濯…… やべぇ、そういえば魔力MPギリギリだったよな。洗濯は明日の朝にしよう…? スライムが浄化できるって言ってたな。洗濯もできるかも!


 風呂から上がると部屋に戻りさっそくスライムと念話で話す。


 [ただいま。ちょっと聞きたいんだけど、布を傷めずに汚れだけ取る事できる?]


 [シトサマ…デキルヨ…ジカン…カカルケド…]


 やっぱりできるのか。それならば!


 [この服をきれいにしてもらう事できるかな?]


 と言って、先ほど着替えた服を広げる。そうそう、手ぬぐいも。


 [ワカッタ…シトサマ…キレイニスル…デモ……ヌノハ…デキナイ…キュウシュウ…サレチャウ…]


 [手ぬぐいは吸収して無くなっちゃうのか…残念]


 [シトサマ…チガウ…ボク…キュウシュウ…サレチャウ…]


 え? どういうこと? スライムが布に吸収される?


 [わかった、手ぬぐいはやめておく。他の服お願いするね]


 おっと、そのまま上に乗せるんじゃなくて…

 バケツを借りて部屋に戻る。バケツの中に着替えたシャツとズボン・下着を入れて、スライムを壺から出しその上に乗せる。


 [じゃあ、お願いするね。]


 [マカセテ…シトサマ…]


 じわじわと布の隙間に入り込むスライム。なんだかずっと見てられそうな光景だ。


 いけね。そろそろ時間だ。



 --------------

 食堂に来ると、ファニル工房の面々、ベンリルさんがすでに待っていた。


「すみません、お待たせしてしまいましたね。」


「さっき来たばかりじゃ、そういえば工房の面子紹介していなかったな。

 細部までこだわるニトール(ペコリ)

 高級家具が得意なオツーカ(ペコリ)

 手先が器用な見習いのミケラ(ペコリ)

 ニトールとオツーカは、すぐに独立してもやっていける腕前じゃ。いつでも独立して構わんぞ!」


「親方~… まだまだ学ばないといけない事ばかりですから」

「そんな見捨てるようなこと言わないでくださいよ~…」


「なんじゃ、気概のない奴らじゃの。ミケラは飾り彫りだけなら一級品だが、当分無理じゃな、まだまだ基礎を叩き込まんとならん。」


「えぇ~… 親方ぁ… 今ここでそんなこと言わなくてもいいじゃないですかぁ。」


 そんな会話をしていたら、ゴーロウさんが飲み物の注文を取りに来た。


「え? ゴーロウ様が… わざわざしていただかなくても…」


 ベンリルさんが恐縮していると


「いえ、皆様は私どもの恩人であるソーヤ様がお招きになられた大切なお客様です。お飲み物はいかがいたしますか?」


 思わずみんなが身構える中


人数分お願いします。」


「かしこまりました。人数分ですね。」


 ニヤリとして、ゴーロウさんが厨房に向かう。


「ヒヨッコ! そのってなんじゃ?」


「冷えたエールです。ここでだけ通用するみたいなもんですよ。」


 と言って、おれはニヤリとする。

 久しぶりに言ったな、このフレーズ。


「冷えたエール? この寒い時期に? わざわざ冷たくする? 普通エールは常温じゃろ。そんな呑み方聞いたことがないぞ。」


 まぁ、呑んでみてから、その答えを出してもらおう。


 すぐに、冷えた陶器のジョッキに入ったエールと、塩ゆでソルイ(枝豆)が出てくる。ジョッキがそろったところで…


「皆さま、お疲れさまでした! 乾杯!!」


 おれがジョッキを掲げると、不思議そうな顔をして、みな真似をする。

 そして呑む。 ゴクゴク…ぷはぁ~~!


「ぷっは! なんじゃと!! 冷えたエールがこんなに美味いとは!!!」


「うめぇ。」「はぁぁ…うめー」「やばいっす」


「これは、凄い! さすがはカッポーリョカン・ドージョーです。」


「皆さん、では次に… この塩ゆでソルイを一口… そして… ゴク… ぷっはー!! 試してみてください。」


「なんじゃぁ! この悪魔の様な組み合わせは、あっという間にエールが無くなってしまったぞ!」


 まだまだこれからですよ、冷えたエールと言えばあれです。

 エールのおかわりを頼んで「あれ」を持ってきてもらうようにお願いする。


「親方、さっきのが悪魔ならこれは何になりますか?」


 テーブルの上に置かれた、まだ ”シューシュー” と音を立てている揚げたてのカラーゲ・・・ 一口、ガリケ(ニンニク)の風味と絶妙な塩気が口の中に広がり、熱い肉汁を纏ったカラーゲが喉を通る。それを一気に冷えたエールで流し込む。

 おれの真似をした親方を筆頭にみんなが… 


「「「「「 !!!!! 」」」」」


 親方が蕩けた表情で


「…熱々のカラーゲを追いかけて冷えたエールが喉を…まるで…天使の祝福を受けたような…この快感…なんという組み合わせ…」


 そうですよ、親方。

 ” 冷えたエール + 塩ゆでソルイ(枝豆) + 揚げたてのカラーゲ ”

 この組み合わせに勝てるのはそうそう存在しないよね。


 次々に出てくる料理。もちろん揚げ物だけじゃない。


 サーブロさんのレシピが見つかったことで再現された ”オーデン” それに合わせて酒も、ぬる燗のメコー酒。おでんだしの割酒にするとまたおつな味わい。

 ”オーデン” の中にあった、味のしみ込んだコッケルの卵… 誰かが二つ食べて…食べれなかった親方が吠えた。もちろん追加してもらって事なきを得たけど。


 最後に、〆のラーゥメン。まさか再現できているとは思わなかった。煮卵・チャーシューはわかるけど、メンマ… 確か発酵食品だったはず。ローク・ドージョー食品商会の全力を挙げて再現したらしい。この… メンマ一切れ… いくらになるんだ?


 ベンリルさんは、ラーゥメンのことはお披露目の時に知っていたみたい。でも、職員のくじ引きで外れを引いてしまって、血の涙を流したそうだ。

 でも今日はメンマもちゃんと入った完全版。食べることが出来てよかったねベンリルさん。


「いやぁ…呑んだ、喰った。こんなに美味い物、今までの人生で一番だ。」


「先日試食できなかった、ラーゥメン。生きててよかった…」


良かった。みんな笑顔だ。満足してもらえたみたいだ。

ゴーロウさんもうれしそうだ。

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