第76話 慰労会
そのスライムは、使徒様が近づいてくることに気が付いた。壺の片側に寄って重心を傾け揺らす。何度目かで倒して壺からズリッと出ると、そこはいろんな機材が並んだテーブルの上だった。
テーブルの端までくると、可能な限り体を伸ばしてテーブルの脚に巻き付きながらゆっくり降りていく。下まで降り切るとドアが開いて誰かが入ってきた。奥のテーブルで何かをしていたが、すぐにその人物が出ていく。そのあとを付いて…閉まりかけになっていたドアの隙間から廊下に出る。
[シトサマ…ハ…アッチニ…イル…]
廊下の隅をなるべく細くなりながらゆっくり進んでいく。
[モウスグ…シトサマノ…トコロ…]
ソーヤの焦った感情が伝わってくる。召喚もギリギリ、瘴気対策が出来ない… その思考を読み取ったスライムは念話で話しかける。
[…シトサマ…アノ…ヌノデ…フセゲルヨ…]
そう念話で伝えるとソーヤのいる部屋の前に着く。入れそうな場所を探す… わずかな隙間だがドアの下から入れそうだった。隙間に体を押し付けてじわじわと入っていく。
体が半分侵入できた頃にまた念話で話しかける。
[…シトサマ…ボクモ…テツダウ…]
何か言っているみたいだけど…
[シトサマ…モチアゲテ…]
持ち上げてもらって足の上に置かれる、薄く広く広がって瘴気を抑える。
[…シトサマモ…タワシ…ツカッテ…]
[…シトサマノ…ヤクニ…タテルナラ…ウレシイ…]
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マールオさんが持ってきたのは、下水路の時より小さめの壺だった。さっそくスライムに中に入ってもらう。ギリギリのサイズだな。
症状の重い被害者から順番に浄化をしていく。スライムを見て騒がれると困るので布の衝立で目隠しをしてもらう。
スライムを被害者のそばに置くとじわじわと広がり体を包む薄い膜になる。その上からたわしで擦ると… 一気に瘴気が抜けていく。
瘴気で呼吸器や、内臓が侵された人々を次々に… 途中ロイズさんが戻ってきてマクシル中隊長に耳打ちをする。
この人は…顔の右半分が… うつ伏せで目をつぶってもらい右を向いてもらう。スライムが膜状に広がりその上から、たわしで浄化。
浄化終了後、スライムが壺に入る前に目を開いてしまう。彼の目の前にはスライムが…
「ひぃ~~!! ス…ス…スラ…スラ…」
そこまでだった。跳び起きそうなところをマールオさんが軽く手刀を入れ意識を刈り取る。
マクシルさんが口を開く
「医術師、とりあえず患者を眠らせることは出来ないのか? このままでは治療が進まん。」
「すみません、配慮不足でした。
そこからは順調だった。残り100名ほどの治療が2時間かからずに終わった。すでに日もかなり傾いている。
[…メガミサマノ…チカラガ…ナクテモ…ボクタチデ…ジョウカ…デキルヨ…]
[そうなの? でも、もう大丈夫だから ありがとう]
「これで全員でしょうか?」
医術師が頷く。
中隊長の執務室に戻ってきた。
「ソーヤ君、すまないが明日はローベルト様への報告に立ち会ってもらえないだろうか? 今日はいろいろと今までの常識から逸脱していることが多すぎて、私の報告だけでは…
今日の出来事、当事者たちはすべて揃って報告すべきだと思っている。お願いできないだろうか。明日、宿に迎えの者を送る。」
もう逃げも隠れもしない。日記の翻訳のことも話をしておこう。そのほうが皆の安全も守られると思うし。
「わかりました。宿で待機しています。」
「では今日は、ここまでとする。マールオとロイズはしばらく待て。 以上解散。」
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こうしておれは駐屯地から宿に戻ることにした。
建屋を出ると、見慣れた顔が…
「あれ? 親方!! ベンリルさん!!
こんなところで、どうしたんですか?」
「くくくっ…くわはっはっ!」
「…ぶぷぷっ…ぷぷっ…」
「いきなり僕の顔見て笑い出すとか… なんですか?」
「すまんすまん。今日はな、例のあれの件で呼び出されたんだ。」
「その笑い方… 上手く行ったんですね!」
「あぁ・・ ヒヨッコの考えたとおりに…踊りまくった挙句、かってに舞台から転げ落ちて退場してったぜ。」
「ソーヤさんが、まさかラベスさんの知り合いだとは思いませんでしたけど。」
「え? ラベスさんも居たんですか?」
「ああ、なんでも算術台導入の担当官だったらしいぞ。」
なんかピンポイントすぎだ… でも助かったな。カストルの味方じゃなくてよかった。
でも懸念事項が片付いた。そうだ! 慰労会をしよう! お金にも余裕があるし。
「親方、ベンリルさん。慰労会しません? もちろん親方の所の職人さんも呼んで、いいところに伝手があるんですよ。そうしませんか?」
「そいつは良いなぁ。うちの若いもんもずっと算術台で忙しかったし。
ベンリル! まさか断らねぇよな?」
「もちろんです。ご一緒させていただきますよ。」
「じゃあ、皆さんが帰る通り道ですからこのまま予約しちゃいましょう。」
3人で駐屯地を後にする。
「ところでヒヨッコ、その持っている壺はなんだ?」
あ…しまった、スライム連れてきちゃった。
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「こんな高級なところで…」
「おい、慰労会… まさかここか? そういえばこの前一緒に来た…
あの娘… どこかで見たことがあると思ってたが…」
「ここには伝手があるんです。まかせてください。
ただいま戻りました~!」
入り口の引き戸を開けて、そう言いながら受付のゴーロウさんの元に。
「ゴーロウさん、急で申し訳ないんですけど、お世話になっている方々とここの料理を頂きたいのですが…お願いできますか?」
「もちろん
「えっと… 親方のところは4人でしたよね… 僕を含めて6名です。」
「
おや? ベンリルさん、先日はお披露目会のお手伝いありがとうございました。」
「あ…いえ… 素晴らしい新レシピのお披露目をお手伝いできて、こちらこそ光栄でした。
でも、あのレシピの数々… 本当に無償でよろしかったのでしょうか?」
「全く問題ありません。それが初代の意思でしたので。しばらく庭園脇の休憩所でお待ちください。」
「わしは、あいつら呼んでこないと…」
「待ってます。僕はお風呂に入ってきますので。ベンリルさんはどうします?」
「せっかくの機会なので、中を見学させてもらいたいと思います。ゴーロウ様よろしいでしょうか?」
「かまいませんよ、どうぞお食事のお時間までご覧になってください。」
スライムの入った壺と、
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