第73話 浄化
「その時の状況を説明してもらえるか? ゼナッタ君」
「5日前の夕方、カストルさんから私を含め3名が呼び出され納品された算術台の整理を命じられましタ。」
「日時を間違っていることは?」
「間違いありませン。その翌日にあの騒ぎが起こりましたのデ。」
「そうか。その時のカストル氏の指示内容はどんなものだった?」
ゼナッタは説明をした。納品された品物を整理しろと指示されたこと、その際に箱なのか中身なのか曖昧な指示だったこと。
封印されている箱は、勝手に開封してはまずいと判断し、同一サイズであったので1か所にまとめた事。
バラバラの大きさの封印されていない箱については、中身を積み上げたら崩れそうだったので他の倉庫から大きめの箱を持ってきてその中に仕舞ったこと。
「つまり、封印がされていない箱があったと言う事で間違いないな。」
「はい、そのとおりでス。」
「さてここに、納品物の受領書がある。これについてはカストルが納品倉庫にて受け取ったことが記載されている。
しかし、
ジャルティが口を開く。
「ほぅ。同じ品物の受領書が2通あると? 受け取り場所が違うものが。品物も焼き印ありと無の2種類。納品された箱も封印有と封印無の2種類あったと」
「これまでの証言と書類、物品を見る限り、そう言う事になります。ジャルティ様。」
「ラベス、納品倉庫以外で受領した場合のルールはどうなっておったかな?」
「はい、納品倉庫以外で受領した場合においては、速やかに受領者の責任において納品倉庫に搬入することになっております。」
「つまり、カストル君が受け取った荷物から目を離した隙に、何者かが入れ替えたと言う事になるのか。受領書を2回も発行している、これは管理責任が問われるな。」
「すみません。発言よろしいでしょうか。」
ベンリルが口を開く。
「どうぞ、ベンリルさん。」
「実は、昨日ある商会から、今回すり替えられた可能性のある算術台が売られていると報告が上がっております。
「ふむ、証拠品の横流しの可能性か。すまんが
で、カストル君についてだが、管理局の業務基準逸脱と今回の件について聞かねばならないことが多そうだな。しばらくは監査課の別棟のあの部屋に泊まってもらうことになるな。」
真っ青になってウーウー唸りながら首を振るカストルの姿があった。
「あとは実務の話し合いだな。私たちはこれで失礼するよ。ベンリル君、後で情報をまとめたものを頼む。」
と言って、ジャルティと、騎士たちは部屋を出ていった。カストルを掴んで引きずりながら。
「で、算術台なんだが練兵場でも焼き印入りのものを使っていいのだよな。」
「もちろんです、キーレル教官。数は足りますか?」
「必要なのは60個だが…あるか?」
「十分な量はあるはずです。封印された箱ごとお持ちください。ただし、中の紙については管理局までお戻しください。どの番号の物が練兵場で使われているのか確認しますので。ゼナッタ君、練兵場の教練室に6箱運んでください。」
「はい。わかりましタ。」
「では、わしらもそろそろ帰らせてもらってもいいかな?」
「お二人とも、お急ぎの用事が無ければ雑談をしませんか? ある人物についてなんですけど…。」
--------------
「中隊長より伝令。マールオ二等騎士に伝達。汚染スライムの浄化を確認、ソーヤ氏の安全を全力で確保しつつ、ソーヤ氏に汚染スライムの対応を一任せよ。以上。」
戻ってきたリボークさんは敬礼をして伝令内容を伝えた。
対応をおれに一任? だって? まぁ。やることは決まっている。あとはその方針を共有するだけ。
「マールオさん、ここから先は僕が先行します。管路の清掃をしつつ汚染スライムの浄化を試みます。」
先ほど浄化したスライムに念話で話す。
[君たち、仲間と意思疎通できるかい? 出来るならこの通路の出口に集まってもらうように伝えれないか?]
[シトサマ…マカセテ…ミンナ…ヨブ…]
大丈夫そうだ。よし一気に掃除をしながら進むぞ! 時折立ち止まって、地上からの放水を確認し進んでいく。
「ソーヤ君! あのスライムの量、いくら何でもあれはまずい。」
マールオさんが指さす方向。下水路の出口の床、壁にびっしりと汚染スライムが…
「大丈夫です。少し離れててください。」
そう言って、デッキブラシで床を擦りながら進んでいく。近づいていくとまたデッキブラシが淡い光を放ち始める。
さすがにこの数はちょっとしんどいかな? そうだ!
次々に浄化していく。
[…シトサマ…アリガトウ…] […ウワァァ…アリガトウ…] […サマ…] […シトサマ…]
次々にスライムたちの声が頭の中に響く。浄化しながら進んでいくと合流部の汚水水槽に到着。マールオさんたちがまた封鎖作業を始める。
[次は南東の水路に行くから、また出口で待ってて]
[シトサマ…マッテル…ミンナデ…]
封鎖が終了すると、一番近い出口から地上へ。出口にはマクシル中隊長が待っていた。マールオさんと何か話をしている。
「次の南東下水路の末端のマンホールに移動する。」
マールオさんの号令共に移動する。
「マールオさん、次の下水路もスライムと遭遇するまでは先ほどと同様に、遭遇後は同じように僕が先行します。」
「わかった。」
2度目の笛が鳴り下水路の中に入る。先ほどよりさらに速いペースで進んでいく。
ちらりとステータスを確認するが、まだ
合流部手前までくると、先ほどよりさらに多くのスライムが居た。デッキブラシと柄付きたわしを手にして進んでいく。淡い光と共に次々にスライムが浄化されていく。
[…シトサマ…アリガトウ…] […シトサマ…] […シトサマ…] […シトサマ…]
合流部の汚水水槽に到着。周囲にはもう汚染されたスライムはいない。残っているのは汚水水槽の中に浮かんでいるスライムたちだけ。
水槽の周囲をデッキブラシで擦る。水槽から上がってくるスライムたちを浄化する。ひたすら…ひたすら…
気が付くとあれだけ居た汚染スライムはすべて浄化されていた。残りは最終処理水槽とバソナ川へつながる水路だけだ。
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