第72話 破綻
ラベスは台帳の中身を確認していく。隣にいた管理局員に
「あの書類を持ってきてくれ。」
しばらくすると管理局員が書類ファイルも持って戻ってきた。
ペラペラとファイルの紙をめくり、あるページに目を落とすと台帳の記載と照らし合わせる。
「ファニルさん、ベンリルさん、この台帳に書いてある番号には間違いが無いのですね。」
「もちろん間違いはない。誰かが意図的に抜き取ったり、入れ替えたりしない限りだがな。」
「なるほど。別室に移動してお話ししましょう。カストル。君も来るのだ。」
「わ…わたしはー、べ…別の用事がありますー、い…急ぎの仕事なのですー」
「つべこべ言うな、来い!」
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「どうした? リボーク三等騎士。」
「報告いたします。マールオ二等騎士よりこのスライムの鑑定を…」
「待て、スライムの鑑定だと? どういうことだ? 汚染スライムではないのか?」
リボークは先ほどソーヤがスライムに対してやったことを話す。
「リボーク三等騎士、この事を知っているのは、マールオ分隊の隊員だけだな。他には話していないな。」
「はい。マクシル中隊長殿!」
「伝令! 至急鑑定士をこちらによこせ! 急げ!」
「リボーク三等騎士、もう一度最初から順を追って話をしてくれ。」
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管理局の会議室に移動する。途中ラベスが先ほどファイルを持ってきた管理局員に耳打ちをする。その管理局員は事務棟の奥に向かっていった。
「さて、改めて話をしましょう。」
「まず事実確認です。キーレル教官。算術台を使った講義は昨日が初めてですか?」
「本当は一昨日から使う予定だったが、例の騒ぎで講義が中止になったからな。昨日が最初だ。見本は以前に見ていたから問題は無いと思っていたんだが。」
「算術台は封印された箱から取り出したものですか?」
「いや? すでに開封してあった大箱に入ってたものを使ったが? そこに置いてあるそれだ。」
「わかりました。では、こちらの封印が未開封の箱を開けて確認しましょう。」
「わざわざ新しい箱を開けることは無いですー、すでに取り出した算術台に問題が有ったのですからー」
「確かに、すでに開けてあった算術台に問題が有ったことは間違いない。だが、未開封の箱の中身も同じか確認せねば、正しい判断ができないのでは? カストルそう思わないか?」
カストルは急に黙り込みきょろきょろと周囲を伺っている。
「では、封印を解いて…その前に、この封印の確認だったな。このサインは、ファニルさん・ベンリルさん・カストル君間違いないですか?」
「うむ。間違いない。」
「ええ。間違いありません。」
「・・・・・・」
「どうしたカストル? お前のサインか確認しているのだが?」
「は…はいー。私のですー。」
ラベスは封印を切って、箱を開け蓋の裏を確認する。
「ふむ。箱の番号は14番ですか。」
蓋の裏のファニル工房の焼き印と番号の焼き印が見えるようにテーブルの上に置く。
「焼き印とかー! 番号とかー! そんな話聞いていないですー!」
「開封して確認したじゃろ!」
「聞いてないー! 聞いてないですー!」
「黙れ! カストル! 余計な発言をしたらその時点で拘束する。」
ラベス氏がそういった時、会議室のドアが開き数名の軽装の騎士が入ってくる。最後にもう一人目つきの鋭い男が…
「これは、ジャルティ様。てっきり監査官が来るものとばかり…」
現れたのは、ローベルトの家宰のジャルティだった。
「コービー監査官は急に体調を崩したらしくてな。仕方なく私が立ち会うことになった。カストル君だったか? 君の従兄は急に体調を崩したようだ。心配ない。騎士団の医局で診てもらっているからな。では、続けてくれ。」
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マクシルがリボークの話を聞き終わりしばらくすると騎士団の鑑定士が到着した。
「早速ですまないが、このスライムを鑑定してくれ。可能な限りなるべく詳細に。」
「はっ! 鑑定いたします。・・・・・ ・・・・ ・・・」
「報告いたします。このスライムの個体ですが… 通常のスライムではなく、瘴気耐性を持っております。あと…ありえない事ですが…【#&の眷属】という称号が付いています。魔物に眷属の称号が付いているなどということは今まで…あと、人に対する害はありません。以上です。」
「うむ、ご苦労。このスライムについては騎士団で管理する。研究所で飼育・保全の手配を。
リボーク三等騎士、マールオ二等騎士に伝達。汚染スライムの浄化を確認、ソーヤ氏の安全を全力で確保しつつ、ソーヤ氏に汚染スライムの対応を一任せよ。以上。急げ!」
リボークは復唱すると急いで戻っていった。
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「わかりましたジャルティ様。では、続けるとしよう。蓋の箱の裏の焼き印と番号はみな確認したな。では、取り出す… こんなにきっちり詰めてあるのか?」
最後、若干棒読みのようだったが、ラベスが驚いて見せる。
「わしらの品は、寸法をきっちり測って製作しておる。当然、箱のサイズもきっちり10個入るように造ってある。手伝うか?」
「いえ、ファニルさんは当事者です。手を触れないように。キーレル教官。手伝っていただけますか?」
「あ…ああ。わかった。」
すべて取り出すと、箱の底に目をやったラベスが棒読みセリフで。
「この紙はなんだぁ?」
と言って紙を取り出す。ファニルとベンリルは下を向いて笑いをこらえるのに必死だった。その姿を見たカストルが
「こいつら目をそらしているですー! やましいことがあるのですー!」
「カストル! 黙れ! 先ほど言ったはずだ。 カストルの拘束を!」
そこには椅子に縛られ、さるぐつわをされたカストルの姿があった。
「紙に書いてあるのは… 製造番号表? 箱の番号? 算術台の裏面に焼き印?」
ラベスがそう言うと、キーレル教官が算術台の裏を見る。
「あった。工房の焼き印と番号… ---144?」
「こちらの紙にも書いてあります。この箱に入っている算術台の製造番号は… ---141 から ---150 です。 全部ありますか?」
キーレルが次々に算術台の裏の焼き印と番号を確認する。
「ある。全部そろっている。確かにファニル工房製で間違いないようだ。だが…ではあの不良品の山は?」
「は…発言よろしいでしょうカ?」
口を開いたのは、カストルに算術台の整理を押し付けられたうちの一人だった。頷くラベスを見て話し始める。
「納品された算術台は封印のされたものト、されていない物の2種類の箱で届いていましタ。その整理をカストルさんに命じられて整理しましタ。」
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