第71話 眷属たち

 次は北東下水路の末端のマンホールに移動する。移動途中にリボークさんが話している声が聞こえた。


「最初に入った時は臭くてたまらなかったけど、奥に進んでいったら臭くなくなったよな。鼻が慣れたのかな?」


「リボーク、おれもそう思ったけど彼がブラシで擦った後は一気に匂いが減ったような気がするんだよな。」


 そう言いながら、おれの方をちらりと見る。


 ん? デッキブラシにそんな効果あったっけ? そういえば、トイレ掃除の時も匂いが減ったような気が… …いまさらだな。


「マールオさん、リボークさんたちの会話を小耳に挟んだんですけど、僕が先に入って掃除をしてしまった方が匂いが少なくなるかもしれません。まずいですか?」


「匂いが減るのは嬉しいが、最初に安全確認をしないと。君に何かあったらこの作戦自体が瓦解してしまう。…そうだな、私が入って確認した直後なら。」


 北東のマンホールでミーティング。

「侵入の順番を変える。最初におれが入った後にソーヤ君に入って先に掃除をしてもらう。その後の進む順番は先ほどと同じとする。手順が変わるので、もたつかない様に。」


 最初の笛の合図があり、水の魔道具による放水が始まりどんどん水が流し込まれる。その間に手ぬぐいで口と鼻を覆って備える。

 二度目の笛で、最初にマールオさんが入る、続いておれ…さっそくデッキブラシで掃除しまくる。

 次々に分隊員が入り込んでまた下水路を進んでいく。



 --------------

 わしたちは、管理局の受付を済ませ、納品倉庫に行く。管理局員が数名、カストルの野郎もいるな。


「工房主のファニルです。納品した物に不具合があるとお聞きしたのですが。」


「これだ! この不良品の山、どう責任を取るつもりだ!」


 いきなり喧嘩腰? 誰だこいつ? 


「すみません、お名前伺えますか?」


「!… 練兵所教官のキーレルだ!! ササクレで怪我をする! 駒がちゃんと入らない! 大きさもバラバラ! この不良品の山! すべて交換してもらおう! 当然今後の発注に関しては…」


「キーレルさん、発注の権限は私どもにあります。越権行為は控えてください。」


「お…おう… すまなかった。ラベス。」


「ラベスさん、とりあえずその品物確認させてもらえるかい?」


 わしは一台を受け取り確認する。と言っても一目瞭然でうちの品物じゃない。こんな適当な仕事なんかするものか。もちろん裏面の焼き印も入ってない。


「この品、わしらの品物じゃないですよ。」


「ファニルさん、無責任なこと言いますねー。あなたから納品されたものですよー。からねー。」


 よし! と言ったな言質を取ったぞ! ベンリルと視線を合わせこう言い返す。


「そうじゃな、カストルさん。わしとベンリルと3人で確認して封印までしたんだったな。」


商業組合トレードギルドで3人で確認いたしましたよね。こちらにカストル氏の受け取りの控えもあります。」


「ん? 受け取りが商業組合トレードギルドだと? が?」


 ラベスが言う。


「と…当日になってー ファ…ファニル工房から納品場所変更の申し出があったんですー」


「わしは前日に管理局から納品場所の変更を聞いたんじゃが? まぁ、そんなことはどうでもいい。これは、わしらが造った品物じゃないのは確かじゃ」


「言い逃れをするなですー! ファニル工房が造った品物で間違いないですー!」



 --------------

 順調に進んでいく、今の所この水路にも汚染スライムはいない。

 マールオさんが止まれと合図をする。5m先にそいつが居た。床だけでなく壁にもへばりついている。


 [タスケテ…] [タスケテ…] [タスケテ…]


 え? 何か言った? 周りを見るが分隊の面々は話をしている形跡はない。


 [タスケテ…シトサマ…] [シトサマ…] […サマ…]


 もしかして、スライムか? スライムの声か? 他のみんなには聞こえていないようだ。マールオさんは、腰に付けた袋から先ほど巻いていた粉末を取り出そうとする。


「マールオさん、ちょっと待ってください。試してみたいことがあるんです。その粉を撒くのはちょっと待ってもらえますか?」


「試したい事? 隊長からはソーヤ君の判断を優先しろとは言われているが… 危険と感じたらすぐに離れるんだぞ。」


 おれは頷くと、デッキブラシを前に突き出し床を擦りながら、汚染スライムに近づく。デッキブラシがスライムに近づくと淡い光を放ち始める。

 そのままスライムにデッキブラシが触れる。スライムが淡い光に包まれて焦げ茶色がどんどん薄くなっていく。そして、薄い水色の塊に変化する。次々にスライムに触れていくと同じように変化していく。


 [シトサマ…アリガトウ…] […アリガトウ…] [サマ…アリガトウ…]


「リボーク三等騎士、魔物鑑定のスキルで確認してみてくれ!」


「はっ! ・・・ マールオ二等騎士殿、通常のスライムになっていると思われます。私のスキルではこれ以上の確認ができません。」


「ソーヤ君、そのスライムを回収できるか? 回収できるなら頼む。大至急騎士団の鑑定士に鑑定させたい。壺を持ってこい! 急げ!」


 [君を調べたいそうだ。一緒に来てくれるかい?]


 言葉に出さずに念じてみる。


 [シトサマ…ガ…ノゾム…ナラ…]


「ソーヤ君、これを」


 マールオさんから手渡された壺を横にしてスライムの手前に置く。すると1匹のスライムが自ら壺に入り込む。


 その壺を抱えると、マールオさんに手渡す。


「リボーク三等騎士、地上持ち帰れ、至急鑑定士に確認を!」


 リボークさんは復唱すると一番近い出口から地上に上がった。


「ここで待機する。警戒を怠るな!」




 --------------

「言い逃れなんてしてねぇ。ただ事実として、わしらの製品じゃないと言っただけの事。何なら証拠もある。」


「証拠なんてあるものですかー! 往生際が悪いですー! 認めなさいー!」


「カストルさん、往生際が悪いのはあんただよ。ベンリル、例のアレを。」


 ベンリルは、持参してきた鞄から、台帳の副本を取り出す。


「これは、製造の番号が記載された台帳の副本だ。原本は保管してある。中身を確認してみてくれ。」


ベンリルは親方が言い終わるのを待って、ラベスに手渡す。


「製造番号ー! そんな話聞いてないですー! 適当なこと言って誤魔化すんじゃないですー!」


「聞いていないも何も、にとっとと帰っちまったあんたが悪いんだが?」


と言って、ニヤリとしてやる。


「管理局員をはめるようなことをするような輩ですー! こいつの言う事なんか聞く必要は無いですー!」


「カストル。少し。」


そう言うと、ラベスは中身を確認し始めた。

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