第57話 仕込み

 12日目 朝から皆さんバタバタと慌ただしい。今日は商業組合トレードギルドのホールと噴水広場で、新しく登録されたレシピのお披露目。午前中はサクラさんと日記の翻訳作業だけど、気になってしまってあまり進まない。切りのいいところで。


「サクラさん。新レシピのお披露目見に行きませんか?」


「そうですね。是非ご一緒させてください。」


 宿を出ると、サクラさんが、ガシッっとおれの腕をつかみ……胸部武装に当たってますからぁ。


 噴水広場は大盛況だ、本当に何かのお祭りをやっているような感じで屋台が出ている。5店舗で店によって、種類を分けているみたいだ。お!ゴミ箱も設置されてるよ。


 甘いタイヤーキ 2種類

 赤豆あん ・ キパンプあん 共に甘さ控えめ。


 甘くないタイヤーキ 12種

 チーゼ ・ ジャッケ+マーヨウ ・ 炒り卵 +チーゼ ・

 ハム+チーゼ ・炒り卵 +ハム+チーゼ ・

 目玉焼き+腸詰+チーゼ ・ 野菜のクリーム煮 ・

 ひき肉のマトーマ煮+チーゼ ・ ヤーキソーバー ・

 ネポリタン ・ ケルル+ひき肉ミニカーツ ・ 刻み腸詰の炒め物


 おっ、いたいた、おっちゃんにはことがあるんだよね。


「おっちゃん! お客さんの反応どう?」


「おう、あんちゃんか、すげぇ売れてるぜ。仕込んできた分が無くなりそうな勢いだぜ。ガハハ!」


「……おっちゃん。この前、サクラさんの事。」


 ジト目で問い詰める。


「あん時なぁ……お嬢がなぁ……」


「ジーンさん!!」


「…ど、どうだっけなぁ~? 忘れちまったぁ~! ガハハ!」


 あなたたち、やっぱりグルだったんですね。


「まぁ、いいや。とりあえず、3種とも2個づつください。」


「はいよ…ちょうど焼き上がりだ。」


「おいくらですか?」


「アマートの旦那から、金は受け取るなって言われてるんだ。食べてみてくれ。」


 屋台脇に臨時のベンチが設置されている。そこに二人で座って食べ始める。


「サクラさん、どうぞ。 では… これ野菜のクリーム煮…美味い」


「私のは、炒り卵 +ハム+チーゼ、試食したときより生地も甘くなくて美味しい。」


 ニコニコ食べている姿見たら、問い詰める気も無くなっちゃった。


「どうです? お味の方は。」


 アマートさん!!後ろからこっそり近寄ってこないで。びっくりしたなぁ。


「美味しいです。中の具材と生地のバランスが絶妙です。」


「これなら、夏場の昼時の軽食にもってこいだと自負しているんですよ。今は冬ですから、そんなに売り上げが上がらないでしょうけど。」


「そうですね。手軽に食べられるのもいいですよね。」


 夏場を経験していないからよくわからないけど、おやつとして小腹を満たすにはちょうどいい感じかな?

 そうだ、これファニル親方の所にお土産で持っていこう。やっぱり銀貨2枚だけってのが気になっちゃうんだよな。

 そうして、各屋台をめぐり、全種類2個づつをマジックバックに詰め込んだ。


「サクラさん、僕はこの後お世話になった家具工房に行きますけど、どうしますか?」


「ご迷惑じゃなければ、ご一緒していいですか?」


 と言いながら、すでにおれの腕を…だから胸部武装がぁ…抱え込まないでぇ。


 --------------

 ファニル家具工房


 何とか400組、終わったな。問題はあのカストルってやろうが、何を仕掛けてくるのかなんだが、明日の納品場所を商業組合トレードギルドに変更してきたのも気になるな…何かうまい方法はないもんかな?


「親方~居ますか~? ソーヤです!」


「おう、ヒヨッコが何の用だ! お前…… デートでこんなところにか?」


「ち…違いますよ。 これ、お土産です。ローク・ドージョー食品商会が新しく登録した料理というか… ”タイヤーキ” と言います、とりあえず温かいうちに皆さんで一緒に食べませんか?」


「ちょうど騎士団の仕事も終わった所だ、おい!休憩するぞ!」


「「「わかりやしたー! 親方!」」」


「うめぇ。チーゼだ。」


「ネポリタン入りだ、腹にたまるな。」


「おれのは、練ったキパンプだ。甘くてうめー」


「じゃ、わしも貰うか。お!ジャッケとマーヨウか…この塩気がいいな。」


「騎士団の仕事って、もしかして、算術台ですか? 知り合いに ”値切らないでください” って言ったんですけど。」


「ああ、問題ない。その知り合いって、まさかってやろうじゃねえよな?」


「え? カストル?? あ、その人こっちにも来たんですか。この前は商業組合トレードギルドに行って、ライセンスを管理局に移譲しろって無理を言ってきたらしいんです。」


「そいつじゃねぇならいいさ、そのって野郎はとんでもねぇな。裏金作りの片棒を担がせようとしやがるし…

 もちろんそんなもん断ったが、今度は ”納品検査の時に何も起こらないといいですね” なんて脅しまでかけてきやがった。」


「なんです? そいつ…よく騎士団に入れましたね。」


「管理局の人間だからな、コネとそれなりに金勘定できれば入れちまうからな。そんなのが全部とは思わんけどな。」


「ただなぁ… 明日の納品でいずれにしても検査を受けにゃぁならん。」


「納品場所はどこですか?」


「もともと騎士団駐屯地の建屋だったんだけどな。急に商業組合トレードギルドで引き渡しに変更になっちまったんだ。」


「うわぁ、あからさまに怪しいですね。」


「で、何かいい方法が無いかと考えてたんだが、何も思い浮かばん。これから箱詰めして、そのまま商業組合トレードギルドに持っていくしかあるまい。」


 わざわざ商業組合トレードギルドに持っていくとすれば、そこから騎士団に運ぶまでに何かの仕込みをしてくるのかな? 運ぶ途中で何台か持ち去るとか…


「あの、いいですか?」


 サクラさん? どうしたの?


「うちの食品庫では、仕入れた日付を描いた箱に入れて、帳面にも日付と数と書いて食品の管理をしているんですけど…でも、食品じゃないからダメですね。」


 日付…ナンバリングと帳面…… ”ティン!!” と、きましたぁぁ! サクラさんナイス!


「そうか! 親方! この工房に、工房の焼き印と数字の焼き印ありませんか?」


「焼き印? あるにはあるが…そうか! 焼き印で工房のマークと番号打って台帳に書いておくのか!」


「親方、それだけじゃないです。 …ごにょごにょ…」


「なるほどなぁ… それやってみるか! おい、休憩終了だ。算術台をきっちり10組入る木箱作るぞ!」


「「「わかりやしたー! 親方!」」」

 

 きっちり10組入る箱・焼き印・製造番号……そのほかにあることを仕込む。


「親方、これで最後です。」


 最後の箱のふたを閉じる。これで40箱。準備は整った。

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