第58話 不穏な気配
「親方、最後に確認です。おそらく受け取りに来るのは間違いなくカストル本人だと思います。おそらく興味は製品の精度とかではなく、単純に数があるかどうかだけです。なので、
①全部出さない、特に箱の一番下の算術台は絶対に出さない事
②なるべく裏面の焼き印も見せない事
③一箱確認したら残りは上蓋だけ開けて数えさせる事
たぶんこれでかなり効果がある思います。あとは、数え終わったら例のあれを施して、引き渡し後に台帳の副本をベンリルさんに預けておいてください。」
「じゃあ、サクラさん、帰りましょう。」
「はい。」
こうして宿に戻る。タイヤーキ? もちろん親方の所に全部おいてきましたよ。試食と今日のお披露目で、食べ過ぎたので当分は見たく……アマートさんごめんなさい。
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「彼がそうか?」
広場から死角になる路地の陰からソーヤを見ている二人の男。
「はい、ローベルト様。」
「若いな…。彼が本当にあのサーブロの遺産の謎を解いたのか?」
「はい、間違いなく。運よく
「で、彼は使徒なのか?」
「いまだ彼の口から、明確な肯定も否定も…。ですので一応、最初に現れたとされている
「そうか明言はしていないか…それで、出てきたものがレシピ集と素材の記録と日記か。実にやっかいだな。80年前と同じことが起こるやもしれん。」
「ですが、彼はわずかな情報だけで、日記の持つ危険性に気が付きました。かなり頭も回るようです。80年前と同じような状況に早々陥るとは思えません。」
「だが、このタイミングで非公式ではあるが、聖公国使者の来訪。
「は、ローベルト様。」
そう返事をすると、あの屋台の店主に視線を送り、彼も軽くうなずいた。
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13日目 今日は親方が
なんだか昨日帰ってきてから機嫌悪くない? 午前中は翻訳作業だよ。今の所あいつらの記述はまだ出てきていない。
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ほんとマジムカつくしー、解雇とか意味わかんないしー。
叔父さんも今日は仕事だからって、全っ然!話聞いてくれないしー。
でもー、今日は彼が誘ってくれてから気分がいいしー。
パリビナは、意中の彼との待ち合わせ場所に急ぐ。しばらく待つ…だいぶ待つ…
「ごめん、パリビナ。急に大商いの商談が入ってしまった…本当にごめん!」
絵にかいたような優男、身なりも一目で金持ちだとわかる。
「ううん、ちょっとしか待ってないからー、ジーロットは気にしないでいいしー。」
「よかった。遅れたせいで君に嫌われたらどうしようかと思ってた。」
「じゃあ、行こうか、まだ演劇は始まっていないはずだし、特等席の個室を抑えてあるから急ごう。」
そういって、パリビナの手を取って歩き出す。
「お金持ちの上にー、いい男なんてー、この程度で
「ん? 何か言った? パリビナ?」
「ううん、なんでもないしー。」
二人で演劇を見る。幕も降りて、余韻に浸るパリビナに上目遣いで優男が切り出す。
「実は君に受け取ってもらいたいものがあるんだけど。」
「ジーロット…なーにー?」
「これだけど…」
と言って、中央に魔石が埋め込まれた黒いプレートを差し出す。
「これ、 ”幸福を呼ぶ魔道具” と言われる物なんだけど、受け取ってもらえるかな? 君に
「私にー? くれるのー?」
「そうだよパリビナ。この前、理不尽な理由で解雇されたって聞いて、あちこちの伝手を使って手に入れたんだ。実は今日遅れたのも、これを手に入れる為だったんだ。どうかな? 受け取ってくれないかな?」
お金持ちでー、ちょろいしー。逃がしたら駄目だと思うしー。
「ジーロットありがとー。でもー、いまさら解雇取り消せないしー。」
「大丈夫だよ。理不尽だと思ったその気持ちを込めて、水に投げ込むんだ。水に流すって言うじゃないか。でも、他人に見られたら効果が無くなっちゃうから注意してね。」
「パリビナ、超うれしいぃしー!」
そういってジーロットに抱き着いた。
「ごめん、そろそろ仕事に戻らないと。じゃあパリビナ、また2日後に同じ場所で!」
そう言うと、ジーロットは帰っていった。薄ら笑いを浮辺て…
「これで、あのじじいと眼鏡ばばあに復讐できそうだしー」
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「サーブロの日記」
少々まずいことになったようだ、先日帝国の友人に送った、聖典を読んだ個人的な感想の内容が聖典派に漏れたらしい。
友人の元に届く前に開封された形跡があったそうだ、騎士団輸送隊の秘匿便でその連絡があった。
今までは、彼らとの関係も表向きは穏やかなものだったが、今後はそうはいかないだろう。いつ暴挙に出てもおかしくない。辺境伯にもこの話をしておこう。しかし、聖典の内容があんな
あと別邸の隠し部屋、調理場のあれも、急がなければならなくなったようだ。こんな時期に頭の痛いことだ。
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夜中、フードを目深にかぶったパリビナは噴水広場にやってきた。これをこの噴水に投げ込んでしまえば…水に入れると願いが叶うという魔道具。
「これで、あのじじいと眼鏡ばばあもおしまいだしー、いい気味だしー。」
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夜中に、異様な魔力を感じ、ジーンは跳び起きた。
「なんだ? この嫌な感じは。噴水広場の方か?」
暗がりの中、自室の木窓を少し開け、噴水広場の方を見る。
「あれは誰だ? こんな時間に…」
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「思い知ればいいしー!!」
そうパリビナは呟くと、噴水の真ん中めがけて魔道具を投げる。
魔道具が水に触れた瞬間、触れた水がごぼごぼと音を立てて、見た目でもわかるような瘴気を放ち始めた。
「え?これ、なにー?」
そう言って、パリビナはその場で昏倒した。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
第3章 「ソーヤ 領都ラドに行く」 編 はここまでとなります。
閑話を挟んで 第4章 です。
領都(ラド)となります。 いろいろと巻き込まれる…?
本業が切羽詰まってきました。3/17夕方に閑話更新して3/22までは定期更新が出来そうですが、年度末までは不安定になるかもしれません。ご容赦ください。
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