第56話 マブダチ?

 聖公国、やっかいな相手だ。狂信者の集まりだと断言したいくらいだ。

 そして、そいつらから隠すべきは…サーブロさんが使徒としてこの世界に来た経緯などが書かれている「日記の存在」、レシピ集と材料・素材の記録は公開しても構わない。むしろ、公開して「日記の存在」から目をそらす。


「ゴーロウさん、最初にお話をした時に確かこうおっしゃってましたよね

『存在していたのなら、するつもりです。』と、

 ならば使ではない使徒。サーブロさんが使徒という証拠の日記以外は全部公開してしまってはどうでしょうか?

 。大量の情報で情報を隠し、万が一の時のダミーとして。どうでしょうか?」


「確かに、元々レシピは公開するつもりでしたし、日記の存在は聖公国にとって脅威でしょう。なるべく早く、すべてのレシピを商業組合トレードギルドを通して公開してしまいましょう。アマートそれでいいかな?」


「時間をかけ模索すれば違う方法もあるとは思いますが、対策としてはそれがよさそうですね。。」


 こうして、翌日からゴーロウさんとアマートさんによる商業組合トレードギルドへのレシピ登録作業が始まった。あの膨大な量。手間がかかりそうだな。


「そうなると、やはり… ソーヤさん、この前話した商会の保管庫に ”サーブロ・ドージョーが造った” 料理と全く関係ないものも、早めに確認していただきたいですね。」


 そうだ、それもあったな。ただ、表ざたにはなっていない、日本語で書かれた”聖典に匹敵する”ものでもないから、少しは余裕があると思うけど。


「なるべく早めにお伺いしますね、ミツーキーさん」



 --------------

 11日目、朝から日記の翻訳作業を続けていると、ゼシトさんが訪ねてきた。練兵所の訓練がお休みだそうだ。あ…算数教室忘れてた。


「ソーヤ君、忙しそうなところごめんね。この前言ってた算術を教えてもらう件だけど、今日いいかな?」


「いいですよ。約束ですから、こっち上がってきてください。」


「え? 算術ですか? ソーヤ様、私もご一緒していいですか?」


 うーん、さすがにダメとは言えないな。ちょうど算術台も二組あるし


「いいですよ。」


「こ……こちらの…女性は? ど…どなたですか?」


 そういえばこの二人顔合わせるの初めてだったか。


「ここの宿のお孫さん、サクラ・ドージョーさんです。サクラさん、こちらの方はゼシトさん、開拓団ラドサの団長の息子さんで、騎士団練兵所で訓練中です」


 紹介したけど、ゼシトさん顔が真っ赤だよ。今日は算術の勉強なんだからね。と思いつつも、二人の目の前に算術台を出す。軽く使い方を説明してゼシトさんが苦手の繰り上がり算を根気よく教える。

 2時間もすると、練兵所の座学で下地ができていた分、ゼシトさんも算術台なしでも2桁の暗算ができるようになっていた。よかった、苦手意識は完全になくなったみたいだ。


 では、ここからステップアップ! 掛け算だ! 手書きで九九の表を紙に書いて、二人に覚えてもらう。いきなり掛け算、ゼシトさんも苦戦している。サクラさんは案外余裕っぽい。


「ソーヤ、このクックだけど表を丸ごと覚えるのがしんどいよ、何かいい方法無い?」


 呼び捨て!砕けた口調、なんか ”ダチ” って感じでうれしい。こっちの年齢的には同世代で男の初めての友人? でいいよね。開拓団ラドサでは子供か大人、はっきり言って同世代なんていなかった。


「数字で覚えるよりも、言葉で覚えたほうが速いよ。例えばここ ”ににんがし(4)、にさんがろく(6)こんな感じでね。ここの列から僕が先に言うから、そのあとに言葉に出して覚えてみて。いくよ、ににんがし…」


 夕方まで続けると、さすがに喉も痛くなってくるな。でもおかげで二人ともだいたい覚えたようだ。会話の途中でいきなり、4×8は? と言ってもちゃんと答えられた。


「あとは、練兵所に戻ってからこの表を見て繰り返して覚えてね。」


「ソーヤ、ありがとう。すごく自信がついたよ。僕からもお返ししたいけど、まだ見習いだし、練兵所だから…そのうちに…で、いい?」


「お返しとか気にしなくていいよ。そうだ、なら今度休みの時に買い物手伝って貰えるとありがたいかな? 開拓団ラドサのみんなへのお土産選びをね。」


「わかった、次の休みの時に。今日はありがとう。ソーヤ!」



 --------------

「すみません、ソーヤ様。実は、この九九クックですが、我が家とローク家にも伝わっております。」


「え? もしかして秘伝とかの? 教えたらまずかった?」


「いいえ、表だけで…言葉で覚えるというのはありませんでした。御爺様に聞いてみますが、表と覚え方をまとめて、商業組合トレードギルドに登録されてはいかがですか?」


「でも、今はレシピの登録で大変じゃないかな? 商業組合トレードギルドも。」


 というか、そもそも ”ただの知識を” 商業組合トレードギルドに登録するのは、ちょっと違う気がするんだよね。


「そうですね。でも一応、御爺様には聞いておきます。御食事の準備がありますので失礼します。」



--------------

 夕食後、風呂から上がってくるとなんだか奥の厨房が騒がしい。

 気になったのでちょっと覗いてみたら。あれが出来上がって届いたようだ、アマートさんが数名の料理人に教えている。


 出来上がったんだ。タイ焼きの焼き型 5連Ver ・・・


「おや? ソーヤ様、どうしました?」


「アマートさん、焼き型出来上がってきたんですね。」


「ええ、これで一つ一つ焼くよりもかなり時間が短縮できます。ただ、焼き型に合わせて屋台と魔導コンロも改良しないといけなかったですけど。」


 確かに5連だと、普通の調理用のコンロでは火があたらない所だらけになっちゃうよね。


「これで、明日の新レシピの発表会にも間に合いました。」


「新レシピの発表会? ですか?」


「ええ、今回大量に登録しましたので、そのうちの幾つかを商業組合トレードギルドのホールと、噴水広場で格安で提供することにしたんです。商業組合トレードギルドのホールには、兄とナツコが、私は噴水広場でこれのお披露目です。」


「へぇ~、お祭りみたいで楽しそうだな。時間作って試食に行きますね。お勧めは何ですか? あ…やっぱりいいです。明日の楽しみに取っておきます。」


 あれ? あの噴水広場のおっちゃんも練習してる。ものすごく真剣な目をしてる。……ちょっと待てよ…おっちゃんサクラさんの事知っててあんなこと言ったのか?

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