第55話 失踪の理由

 10日目、宿を出て冒険者協会ギルドにやってきた。【受注・完了】のカウンターにまっすぐ向かう、つもりが今日はものすごく混雑している。


「そうか、今日はが居ないから混雑しているのか」


 この前と全く違って、ホールに人があふれ活気がある。


「おめぇ! 今おれが選んでる最中だ!横から割り込むんじゃねぇ!」


「てめぇはさっさと選べ! 後がつっかえてんだよ!!」


 うわぁ、この状態…行きたくねぇな… どうせ、今日は報酬の受け取りだけだからちょっと待ってるか…… 落ち着いたころを狙ってカウンターに。



「すみません、先日の超過作業の報酬を受け取りに来ました。」


 と言って、カードを提示する。


「少々お待ちを」


 銀貨5枚を載せたトレーを持って戻ってきた。多くない?


「超過作業分の報酬、割増含め銀貨3枚。作業指示の不手際に対する冒険者協会ギルドからの規定の賠償金が銀貨2枚となります。」


「え? 賠償金ですか?」


「ご不満なら、このまま受取りを拒否していただき、王都の冒険者協会ギルド本部に裁定を申し立てていただいても構いません。なお、本部に申し立てしていただいても、規約に則り、貴方が不利になることは一切ないとお伝えいたします。」


 うわぁ、なんかめんどくさいことになっている。


「大丈夫です。このまま受け取らせていただきます。」


「では、こちらの受け取り確認書を御一読の上、署名をお願いいたします。」


 …文面は……大丈夫そうだな。

 署名をして銀貨を受け取る。こんなに貰っていいのか? と思いながら冒険者協会ギルドを後にした。そうだ、また靴の中に1枚隠しておこう。


 今日はじっくり翻訳作業に取り掛かれるかな? そう考えながら宿に戻る。


--------------

 戻ると、ゴーロウさんがアマートさんと相談した結果を伝えてきた。


「ソーヤ様、翻訳の件ですが曾祖父の日記の最後からとして頂けないでしょうか。」


「なぜレシピ集を残したのか、失踪した原因は何だったのか、それについて何か手掛かりになるような記述があれば重点的にお願いしたいと思います。」


「わかりました。ちょうど1冊目も終わりましたので本日からその方針で翻訳します。サクラさんの時間は空いていますか? 開いているようなら早速始めようと思うのですが。」


「サクラには、翻訳の書き写し・清書を優先させるように話をしております。いつでもお声をおかけください。サクラ。始めるそうだから準備をしてきなさい。では、ソーヤ様、お部屋でお待ちください。」


 部屋に戻ってしばらくすると日記とノートを携えサクラさんがやってきた。

 座卓に座り翻訳作業を始める。日記をパラパラと確認すると、…どうやらこれが最後に書いた日記らしい。


「ここが最後に書いた日記のようです。始めましょうか。」


「はい、ソーヤ様」



 --------------

「サーブロの日記」


【最終ページ】

 日記を書くのも今日で最後になる。召喚・分離した道具たちはあの部屋にすべて置いてある。息子や弟子たちに料理の基本はすべて伝えた。あとは彼らが創意工夫を持ってこの世界の料理を発展させてくれると信じている。


 種は撒き終わった。たとえあいつらが邪魔をしてもこの世界の料理は発展していくはずだ。


 長男には、あの部屋の入り口を開けるためのカギも預け、転生者を調べる方法も伝えた。あいつらに利用されない様に自壊の仕掛けも施した。間違った方法や無理やり開けたらすべては失われる。願わくば、次に現れる転生者に解放してもらいたいものだ。


 さて、この日記もそろそろ書き終えてここから旅立つとしよう。あいつらが来る前に。 そして探しに行こう。


 カレーに足りないもの。ターメリックとコリアンダーはどこにあるのだ!



 --------------

 なんだって? サーブロさんは誰かから狙われてた? 料理の発展を妨害されていた? あいつらって、誰だ?

 その日記の内容に、サクラさんと二人でしばらく呆然としてた。

 我に返り、他にあいつらの記述が無いかページをめくって調べる。あった!


 --------------

「サーブロの日記」


 いよいよ、あいつら聖典派の連中が本性を現した。前もって一部だけ記したダミーのレシピを置いてあった別邸に押し入ってきた。情報も多少は漏れていたようだ。

 前もって辺境伯に相談していたおかげで、タイミングよく巡回していた騎士団により撃退された。

 辺境伯は捕らえられなかったことを悔やんでいたようだが、幸いにも怪我人もなく建物の被害も無かった事が何よりだ。

 しかし急がなくてはならない。レシピ集を早く書き上げなければ。



 --------------

「聖典派」? それに狙われてたのか? 何が目的だったんだ? …その「聖典派」は今も居るのか? 今も居るとしたら…… そう考えると背筋が寒くなった。

 すぐにゴーロウさんたちと話をしなければ、このままレシピ集の発見を公表したら危険かもしれない。今ならば、発見されたことを知っている人物は限られている。

 


「ゴーロウさん、日記の件でとんでもないことがわかりました。サーブロさんはある集団から狙われていたようです。アマートさんやミツーキーさんにも伝えておかないとまずいかもしれません。」


「…なんですと! 狙われていた? ですって? 確かに皆で話をする必要がありそうです。今夜にでもここに来てもらいます。」



 --------------

 夕食後、おれの部屋にみんなが集まり翻訳した内容を話す。


「…今日翻訳した内容は以上です。何か心当たりとかありませんか?」


 ミツーキーさんが口を開く。


「聖典派ですか…確か今は国を興して、聖公国になっていますね。確か使 ”聖典” をの法だと言っていますね、あと、かの国には…信者と奴隷しかいないと聞いたことがあります。」


 何、そのやばそうな国。


「ある意味、レシピ集も日記も使徒サーブロさんの残した ”聖典” だから迂闊に発見を公表して知られたら…」


 思わずそんな言葉が、おれの口をついて出た。


 しかしミツーキーさんが続ける


「かつては聖典派の巡礼と称して、信徒を増やすためこの国にも訪れていましたが、今は聖公国と、王国や帝国は基本的に国交がありません。すぐに何か起こる可能性は少ないでしょう。」


 アマートさんが口を開く。


「そういえば曾祖父が失踪した頃から、この国を訪れなくなったと聞いたことが…」


 サーブロさんを抹殺するために追いかけていったのだろうか?


 遠くないうちに、レシピ集・日記が発見されたことは表ざたになるだろう。逆に隠しているとかえって危ないかもしれない。

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