第53話 悪くない!

「なんでしょう、ベンリルさん。」


「実は、騎士団管理局の方がお見えになられて…、 ”算術台” のライセンスを騎士団管理局に移譲する手続きをしろと言われまして…、もちろんお断りいたしました。前例がないわけではないのですが、通常は権利を持つ方が死亡した場合などに限られているので、今回はあまりに唐突でして。」


 騎士団の管理局? そういえばロイージさんが練兵所の座学で使わせるように報告書だすとか言ってたな。でも、いきなり横取り? 意味が解らないな。


「断っていただいたのなら、問題ありません。今後もそのつもりはありませんし。でもなんでその話を僕に?」


「実は、今回お見えになった管理局のカストル氏なんですが、あまり…その良い噂を耳にしないので。念のためソーヤ様にお知らせしておこうと思いまして。」


「ありがとうございます。もしまた移譲しろと言ってきた時は、僕にはその気がないので断っていただいて構いませんので。でも…ご迷惑じゃありませんか?」


「問題ありません、商業組合トレードギルドの規則に則って対処するだけですので、お気になさらないでください。」


 ビルロ商会の荷物返却の報告もしないといけないし、ロイージさんに聞いてみるか。



 --------------


 これから、今夜はパーティだしー、今夜こそあの人を落とせるはずだしー、出かける準備で忙しいしー。だけどいきなり呼び出すなんて酷い仕打ちだしー。ギルマスもあの眼鏡年増も、叔父さんに言いつけて首にしてもらわなきゃ気が済まないんだしー。



「パリビナさん、今日、貴方に来ていただいたのは、解雇の通知をする為です。」


 はーぁ? 何言ってるの解雇ー? ギルマスは馬鹿なのー? 意味わからないしー。


「あなたが、冒険者協会ギルドの職員として雇用されてわずか半年。その間にあなたが担当した依頼について、依頼内容の取り違えが68件、期限の不通告などが32件、依頼者からの苦情が83件、が28件……」


 何言ってるのー? やってるしー。

 依頼内容は冒険者が確認してないのが悪いしー、期限は依頼見ればわかるしー、苦情になるようなことした冒険者が悪いんだしー。事故なんてドジ踏んだ冒険者が悪いんだしー。私は何も悪くないじゃない。


「貴方が出勤して受付を行った、ほぼすべての案件で問題が起きています。さらに貴方からの報告もありません。確か先月にも同じお話をしたはずですが?」


 そうかもー、先月はそんな話聞いた気がするしー。でも今月は何も起きてないはずだしー。


「貴方は気が付いていましたか? 先月後半から、貴方が受注窓口業務を行っている時に、貴方の窓口だけに。貴方が窓口にいる日は業務が滞ってしまっているのが現状です。」


 そんなこと知らないしー。たまたま冒険者が来なかっただけだしー、お休みしたかっただけだしー。


「昨日、貴方は1件の受注依頼を担当しましたね。」


 ほらー、受けている冒険者もいるしー、やっぱりたまたまだしー。みんな、お休みとかしたかっただけだしー。


「その依頼内容を覚えていますか?」


 たぶんー、噴水の掃除だった気がするしー。それがなにー? 意味わかんないしー。


「貴方は、噴水内のごみ拾いと、噴水内の清掃と取り違えて冒険者に説明しましたね。」


 なに言ってんのー? わけわかんないしー。も、も同じことだしー!


「その冒険者は、と言われたから、水を抜いていない噴水の中に入ってゴミを回収したそうです。からと。」


 だからなんなのー? 結局ゴミ回収したんだからいいじゃないのー。


「この季節に水の中に入って作業する危険性を考慮した上で決定した、を貴方は出したんですよ。」


「貴方の叔父上からも、お願いをされて雇用しましたが、これ以上、冒険者の命を危険にさらすような職員は不必要です。日頃の勤務態度も考慮した上で、本日をもって、あなたを解雇することを通告させていただきます。」


『私は何も悪くないしー!!!』




 --------------


 騎士団駐屯地にやってきた。今日の門番は知らない人だったが、訪問理由を告げたらすぐにあの部屋に案内された。


「ソーヤ君、無事に預かっていたビルロ商会の荷物の返却が終わったそうだね。」


「今朝、ビルロさん本人が訪ねてきて、団長から預かった手紙を渡されました。内容に問題が無かったので、団長と決めていた通りに、ビルロさんの望む場所に納品してきました。」


 で、聞いてみるか2つほど。


「ロイージさん、これで調査等も終わりですよね。」


「ああ、この件は報告書をまとめて、管理局と隊長に送付するだけだ。」


「お聞きしたいのですが。」


「何かな?」


「宿なんですけど、何時まで居てよいのでしょうか? 宿の方とお話をさせていただいて、しばらくは滞在しても構わないと言ってはいただいていますが。」


「最初に話した通り調査期間中。つまり2週間だな。」


「僕が気にすることではないのでしょうけど、余計なお金かかりませんか? 調査は終わりなのにまだ払うのは…大丈夫なんでしょうか?」


「はははっ!そんなことを気にしてたのか。もちろん問題ない。管理局の方は少しでも安く済ませたいだろうがな。」

「実はな、ウーゴの余罪が多すぎてラドサ以外の件はこれから本格的に調査する予定なんだよ。管理局が何か言ってきたら、調査中だと突き返してやるから。」


 良かった。とりあえず話はついてるみたいだ。


「あと、もう一つ…。」


「何かな?」


「管理局のカストルって方が、例の ”算術台“ のライセンスを騎士団の管理局によこせと商業組合トレードギルドに言ってきたらしいのですけど。何かご存知ですか?」


「くっ! あの集り屋、もう動いたのか… すまん、練兵所の座学では早速使う事にはなったんだが、”ファニル家具工房だけで作るのはおかしい。”と文句を言い出す奴が出てきてな。それが…カストルなんだよ。」


「ファニル親方も、他で誰が作っても何も言わないと思いますけど? ライセンス使用料さえ商業組合トレードギルドに納めればいいだけなんですから。」


「そうなんだがな、身内の恥になるからあまり言いたくはないが、カストルは騎士団からの発注を餌に袖の下を貰ってる、集ってるという噂があってな。」


 騎士団の中にも…ですか。

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