第52話 肩の荷? 違います鞄の荷です。

 とりあえず、窓口で銀貨1枚。明日には追加分の査定額も決定するそうなので、時間がある時に受け取りに来てください、と言われた。冒険者カードの口座に入れてもらうこともできたけど、とにかく手持ちが少ないので現金で受け取ることにした。


 しかし、寒い、このままでは風邪をひいてしま…たわしで乾燥だ!どこか死角になる場所で召喚して乾燥しよう。


 駄目だ、死角になる場所がない。そうだ! マジックバックから取り出す体で召喚すれば! マジックバックに手を入れて、抜き出すタイミングで…


 "たわし召喚!”


 ”乾燥”と念じながら、あちこち擦る。


 え? カウンターの中から視線を感じる。


 やらかした、たわしで乾燥させるなんて、人前でやってしまったら…そりゃ注目浴びるよね。しまい込むふりをしながら送還。平静を装って、鳴らない口笛を吹きながら冒険者協会ギルドから出る。急いで宿に帰りました。



 --------------

 宿に帰ると伝言があった。ビルロ会頭が戻ってきたので、明日会いたいとのことだった。団長とも話が付いたみたいだな。でも、何をおいてもとりあえず風呂、冷え切ったよ。

 明日、ビルロ会頭と会って、荷物を返せば、おれの領都ラドでのお仕事は終わりだけど、翻訳のお仕事がだいぶ残っている。あと10日間はこっちにいて日銭稼ぐのもいいかな?


 湯船につかっていると、ちょっと気になった。風呂場の床が汚れているのが気になる。目線が低くなるから余計に気になる。宿の従業員がちゃんと掃除はしているのだろうけど。 ”たわし” で擦るにはさすがに広すぎるよな。



『…だいじょうぶだよ…神力戻ってきたから追加しちゃうよ…』


 おぉう。だ! 清浄たわしの女神様、ずいぶんとよくなってません?


『…ソーヤの…おかげ…だよ‥』


『…残してきた…たわしをみんなが…拝んでくれているから…』


『…力が…戻ってきたよ…すごいでしょ…えっへん…』


 なぜドヤったん? 清浄たわしの女神様


『だから…ソーヤのスキル…ばあじょんあっぷん…だよ…』


『いいよ…みてごらん…』


 NAME: ソーヤ  状態:健康

 LV:  04  

 体力HP : 22/22

 魔力MP : 14/14


 スキル 【たわし】    洗浄(L4)  脱水(L3)  乾燥(L2)

  分離(L1)  付与(L1)

 スキル 【柄付きたわし】 洗浄(L2)  消毒(L1)  滅菌(L1)

 スキル 【デッキブラシ】 洗浄(L1)  

 スキル 【&%$い】 10#%&$ 

 加護  【清浄たわしの女神の加護】 【転生神の気まぐれ】


 ・・・・デッキブラシですか。確かにたわしよりは効率あがりそうだけど。なんかコレジャナイ感が。


『…召喚には、3MP…消費するよ…気を付けてね…』


『…あと…ソーヤに…でも…またこんど…にする…またね…』


 何言いかけたの? 気になるじゃないか!


 まぁ、いいか今は目の前の気になる洗い場の床だな。


 "デッキブラシ召喚!”


 ゴシゴシゴシ! ゴシゴシ! ゴシゴシ! ゴシゴシゴシ!


 すげー落ちる! 汚れ落ちまくりだよ!!  へっぶし!!


 調子に乗って、素っ裸で掃除するもんじゃないですね。完全に冷え切りました。

 しかし、置いてきた ”たわし” を拝まれたから神力増加とか。もっとほかの方法あるんじゃないの?



 --------------

 夕飯後に、部屋に戻ってサクラさんと二人っきりで……翻訳作業。

 やましいことなんか、バラーピカの毛1本ほども思ってないからね。


 --------------

 9日目、朝食後お茶を飲んでまったりしている所にビルロ会頭がやってきた。


「先日は、まことに御迷惑おかけ致しました。ザッカール様よりこれを預かってまいりました。」


 内容を確認する、予定通りの内容だ。あと、相談に乗ってやれだって? 何の相談だ? これは事前に話していない内容だな。


「確認いたしました。では、ビルロさん納品場所をご指示ください」


「ご案内いたします。」


 領都ラドの西門に近いビルロ商会まで来た。裏の倉庫に出してほしいそうだ。


「ここにお願いします。」


「わかりました、では。」


 おれは、マジックバックから次々に ”にゅるん” と取り出す。荷馬車の分だから大した量ではない。すぐに倉庫に出す作業は終わった。


「で、団長からはもう一つ指示がありました。相談とは何でしょうか?」


「実は…」


 今回のウーゴの件で各村々を回って、被害金額を含めた賠償金を支払うことになっているそうだ、が、ウーゴのおかげでその金額自体が正しいか疑いの目で見られてしまう。計算した金額を口頭で伝えても信用されない事が容易に予測できる。


 そこで、ラドサで見かけた石入れ計算機で視覚的に説明して何とか説得できないかと考えたそうだ。


「でも石入れ計算機より、銀貨を積み上げ計算したほうが早いですよね?」


「私もそうしたいのですが、人というのは目の前に現金があると…こんなこと言える立場では無いのですが。」


 行く先々でお金に目がくらんだ人たちの要求が膨らみ、過大に賠償を続けたら支払いが大きくなりすぎて商会が危うい状態になってしまう。

 理屈は解る。でも、そんな奴を雇って商会の顔として行商に出していたあなたにも責任はありますよ。


「そこであの石入れ計算機を各村の代表の方にお渡しして、今後の取引でお使い頂ければと、そう考えた次第なんです。もちろんソーヤ様にも使用料をお支払いも致しますし、各村からはその代金をとることも致しません。」


無償で配るか。あれを使えれば騙されるのも少なくなるかも。


「ビルロさん、実はあの石入れ計算機なんですけど。 ”算術台” として商業組合トレードギルドに登録してあります。ライセンスをお支払いいただければ自由に利用できるはずです。」


商業組合トレードギルドに登録…。なんと、すでにそこまで準備して頂いているとは…」


 別にビルロさんの為にしたわけじゃないんですけど。


 さっそく商業組合トレードギルドに二人で向かう。おれまで行かなくてもいいよね…。


 商業組合トレードギルドでベンリルさんを呼んで3人で話をする。


「ビルロ会頭。今回の事件、私ども商業組合トレードギルドでも危惧をしておりました。無償で各村の配るというのは良い方法かもしれません。工房もご紹介いたしましょう。協力させていただきます。」


 ビルロさんは、窓口でライセンス料を支払いその足で、ファニル家具工房に作成の依頼をしに行ってしまった。


 おれのお仕事はここで終わり。と思い部屋を出ようとしたところでベンリルさんから呼び止められた。

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