第50話 中身が問題だ

 アマートさんは結局人数分のチーゼタイヤーキを作った。みんなで試食。


 一口食べたサクラさん

「トロっと溶けたチーゼと生地のほのかな甘みが絶妙です。」


 尻尾を少しかじったナツコさん

「一口目が生地だけです。」


 豪快に頭からかじりついたゴーロウさん

「あつぅ。溶けたチーゼで口の中が火傷しそうです。」


 真ん中から割ってしげしげと中を見てから口に入れたアマートさん

「冷めてしまったせいか、せっかくのチーゼが硬くなっています、中に入れてある具材によってはいろいろ問題が有りそうですね。でも工夫の余地があり、砂糖を大量に使わなくても美味しいものが出来そうな気がします。」


「アマートさん。チーゼも、種類によっては固まりにくいのもあるでしょう、あと、例えば、ジャッケの身をほぐしたものと、マーヨウ(マヨネーズ)をあえた甘くないものを入れて軽食用にするとか、工夫はいっぱいできそうですよね。あとは、一度に何個か作れる型があれば焼きたてを提供できますし。」


「ジャッケとマーヨウ(マヨネーズ)!!!」


 ゴーロウさんはものすごい勢いで、焼きジャッケを作りほぐし身にする。そこにマーヨウを絡めて軽く混ぜアマートさんに


「アマート!これを中に入れてみてくれ!」


 爆誕しました。 ジャッケマーヨウ!


 今度これでおにぎり作ってもらうかな?


 後でサーブロさんのレシピを調べたら、載っていたそうです。おにぎりも……


 その後、次々に試作品が出来上がる。


 すでに火が入っている物ならとナツコさんがひらめき、ゴーロウさんと、ナツコさんも中の具材用に調理をしはじめ、旬の野菜のマトーマチョプ炒め入り、ネポリタン入り、ヤーキソーバー入り、ハンバグ入り・・・


 完全にこの3人のハートに火がついてしまったようだ


 「もう少し生地の甘味を抑えたほうが…」


 「中身の具材、あまり味が濃すぎてもバランスが崩れるな…」


 「魚の形なのに、中がお肉なんて、知らないで食べたらびっくりしちゃいますね…」


 次々に試作品が・・・そして、ひたすら食べることしかできないおれ・・・すっかり晩飯代わりに。



 --------------

 試食しすぎて、もうおなかいっぱいで苦しい。さっさと寝るかと部屋に戻って座卓を片付け布団を敷く、すると間髪入れずに誰かがドアをノック。

 開けたら、サーブロさんの日記とノートを抱えたサクラさんが居ました。正直怒涛の日々の連続で今日はもう休みたかった。だが、目を輝かせているサクラさん、さすがに勘弁と………断れなかった。


「すみません、疲れているので1時間だけでいいですか?」


「ご…ごめんなさい。ソーヤ様のご都合も考えずお疲れのところに押しかけてしまって。しつ…」


「いいですよ、1時間だけなら。どうぞ。」


 あまり無下にしても、お互い気まずくなるだけだし。


「すみません、お邪魔いたします。」


 手前のテーブルセットに座り翻訳作業を始める。



 --------------

「サーブロの日記」


 デモシナーと会えた事は本当に幸運だった。今日はようやく住む場所も決まりこうして日記をつけ始めた。


 まず、この世界に来ることになった出来事と、こちらに来てから今日までのことを記しておこう。


 あの白いコロシアムの様な場所で出会った老人はこう言っていた。


 あの日、閉店後の店のかたずけをしていた私は、売上金を狙った押し込み強盗と裏口を出たところで鉢合わせして、バールで頭を殴られて死んでしまったらしい。

 ようやく店も軌道に乗り始め、常連さんもそこそこ付き始めた矢先の出来事。非常に無念だ。


 その後、その老人と一緒にいた『料理の神』という人物から、使徒としてのスキルを授かった。

 授かったのは、「絶対味覚」「究極調理術」「調理器具召喚」「食材鑑定」の4つと、『料理神の加護』というものだった。

 中でも、「調理器具召喚」は、あの店にあった使い慣れた数々の道具を手元に呼び出せる、思い入れのある道具ばかりだったから、何とも嬉しくなってしまうスキルだ。


 包丁も、堺の名工の元に赴いてわざわざ打ってもらった銘品、鍋も京都まで行って手に入れた名工の逸品。当時、料理人仲間には『道具より先に腕磨け』と言われて、その通りだと反省しちょっと落ち込んだことも有ったな。


 その後、この世界に送り込まれた時にいきなり馬車の目の前に飛び出す形になったのにはちょっと文句を言いたいところだ。

 しかし、そのおかげで彼、「デモシナー・ローク」と出会えた。


 彼は、さまざまな地域で食材を探し商売をしていると言っていた。「様々な食材」この言葉にどれだけ心がときめいたことか。


 その時彼が仕入れて来た物の中に最高級の羅臼昆布にも劣らない「コーブ」と言う海藻の乾物があった。なぜそんなことがわかったかというと「食材鑑定」というスキルのおかげだ。


 その後、野営地で作った根菜の出汁煮ときんぴらで彼があんなにも感動してくれるとは。料理人として達成感・充実感、それはこの世界で始める新たな人生の門出にふさわしいものだった。転生させてくれたことを感謝します。


 ラドに着くまでに彼とはいろいろ話をした。私が神によって、この世界と別の場所から送り込まれたことも。そして、その目的はこの世界で料理の可能性を広げること、さまざまな人々に料理を、食事を心から楽しんでもらうことだと。その目的のために、デモシナーと二人で新たな商会を立ち上げる約束もした。


 そして今日、ようやくラドに到着した。しばらくはこのデモシナーの家でお世話になることになった。


 ・・・・ ・・・ ・・・ ・・・



 --------------

「サクラさん、すみませんが今日はここまでで。」


「あ・・・すみません。もうこんな時間。」


「明日は、先日 冒険者協会ギルドで受けた依頼がありますので。夕食後なら時間が作れますので。」


 サクラさんが退室したあと、布団の上に横になったら、あっという間に眠りに落ちた。



 --------------


 んー、こまりましたねー、近頃、監査課の目がきびしぃですー。前みたいに簡単に行かなくなりそうですねー。

 でもー、ロイージが報告してたあれー、報告書、盗み見したけどーいいですねー。お金の匂いがしますねー、手に入れたいですねー。ゴネてみますかー。




 --------------

 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 やっと50話に到達しました。

 これからもお読み頂ければ、うれしいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る