第49話 用途不明の

「皆さん、お揃いでどうしたんですか?」


 風呂から戻ってくると、部屋の前で4人が待っていた。


「ソーヤ様、折り入ってお話がございます。」


 そうゴーロウさんがそう言うと、4人がそろって頭を下げた。


「ここではなんですから、中へどうぞ。」


 座卓に着くと、さっそくゴーロウさんが口を開く。


「ありがとうございました。これで一族内の不和が解決いたします。本当にありがとうございました。」


 別にお礼とかはいいんだけどな。


「謎を解いていただいたばかりで恐縮ですが、もう一つ、お願いを聞いていただけないでしょうか?」


 もう一つ? そろそろ、冒険者協会ギルドの仕事をしてお金稼がないとまずい状態なんですけど。というかもうすでに、ここを出たら行く当ても、お金もない…革袋の中の大銅貨5枚が全財産。一応ベルナさんから銀貨2枚預かってきてはいるんだけど、すでに使い道は決まっている。


「実は、騎士団の事情聴取とりしらべも終わり、そろそろ騎士団からこの宿の退去指示がありそうなので宿を移ろうかと思っていたんですけど。お金も心もとないですし…。」


 4人とも顔見合わせないでよ。だってそもそも、ここに泊まれるような身分じゃないんだもの。

 ロイージさんも言ってたよ。 ”一流ではないが、それなりの宿だ。” って。そんなお金持ってないし。


「宿を移るなどとおっしゃらないでください。ソーヤ様は我が一族の恩人です。このままいつまでも居ていただいて構いません。謎を解いて頂いた謝礼もお渡ししておりません。是非このままこの宿で・・・」


 え? 居ていいの? お金ないよ、おれ。まあ、領都ラドにいる間この宿が拠点にできるなら、願ったりかなったりなんだけどさ…。


「ご迷惑ではありませんか?」


「是非、是非! このままここに住まわれても一向に問題ありません。」


 いや、住まないよ。開拓団ラドサだからね。とりあえず寝る場所の問題はなんとかなるか。


「ありがとうございます。では領都ラドにいる間はここにお世話になります。で、もう一つのお願いというのは?」


「そうでした。今回発見された遺産の中で、わたくし共が読めない文字で書き記されたものが多数あります。それの翻訳をお願いできないでしょうか?」


 翻訳か……日記の事かな。日記は、かなり個人的なこと書いてあるかもしれないけど、おれが見ちゃっていいのかな?

 それにあの量を翻訳して書き写すの? そんなに長くいるわけにもいかないし、何よりも手書きがめんどくさい。腱鞘炎待ったなしだよ。読むだけなら…言ってみるか。


「すみません、領都ラドの滞在は伸ばしても、あと十数日です、11月の半ばには開拓団ラドサに戻るので…。ですが、僕が読むので、どなたかが書き写していただくと言う事であれば。協力は出来るかと。」


「もちろんです。こちらもソーヤ様に書き写すことまでお願いするつもりはありません。書き写すのは ”サクラ” に行わせますので。」


「わかりました。そう言う事であれば。ただ、普段は冒険者協会ギルドで依頼を受けるつもりですので、翻訳はその合間にということになりますけど。」


「では、夕食後の1・2時間、サクラをこの部屋に参らせますので。よろしくお願いいたします。」


「わかりました。こちらこそ、このまま宿泊できるので助かりました。」


 と、話が終わりかけの時に、アマートさんが口を開いた。


「ソーヤ様、アマートと申します。私からもお願いがございます。」


 え? 別件追加?


「実は、先ほど地下室より運び出した調理器具で用途がわからない物がございまして、それを何に使うのかご存じであればお教えいただきたいのです。」


 調理器具? 用途がわからない? もしかしてあれか?


「私で判ることなら、現物を見ないと何とも言えませんけど。」



 --------------

 ぞろぞろとまた元食糧庫に移動。


「これです。何かを焼くときに使うものなんでしょうが、魚の形をしていて、何に使うのかさっぱり…」


 やっぱりこれか。確かに、こんなもん見た事なんか無いよね。おれでさえ実物見たのは初めてだし。


「アマートさん、これ使ってみませんか? 面白いものが出来ますよ」


「ご存知ですか! で、どうやって、何が調理できるのですか!!」


 すごい喰いつき方だね。


「これを使って作るのは、イマーバンと同じ様な食べ物ですけど。実際調理したほうがわかりやすいと思います。僕は調理スキル持ってませんので。」


「魚の形のイマーバンみたいなもの? やります。やらせてください。」


「では、厨房に行きましょう。」




 厨房に行くと、早速アマートさんに生地を作ってもらう。おれじゃ無理だもの。こういうのはプロの手際にお任せ。


「これを開いて、加熱します。で、温まってきたらかるく油を引いて、片側に生地を流し込んでください。焼き加減とかお任せします。」


「そうか、開いて使うのか。」


 水を得たのように、それこそ流れるような手際で焼き始める。


「で、表面が乾く前に……中身のアンコ置いてないか。えっと、ゴーロウさん!チーゼ(チーズ)ありませんか?」


「チーゼなら…… 塊でよろしいですか?」


「えと、1枚3mmほどの厚さにしてから、刻んでください2枚分ぐらい。」


「こんな感じですね…… どうぞ。」


「アマートさん、今回の中身はこれです。中に入れてください。はみ出さない程度の量を均等に。」


「で、反対側にもタネを流し込んで、鉄板側の面が焼け始めたら、一気に型を閉じてください。」


「はい、では閉じます。」


「あとは焼き上がりを待ちます。焼き上げのタイミングはアマートさんに丸投げで。」


「うん、そろそろです。では開けます。」


 湯気が立ち上り、中から見事なタイヤキ(チーズタイヤキだけど)が。


「こんな感じで ”タイヤキ” が作れます。」


「「「「 !!! 」」」」


「これは、何とも…魚の形をしたお菓子ですか。 ”タイヤーキ” ですか…」


「今はこの型で1回に1つしか作れませんが、大きな鉄板でいくつも並べた型を作れば、いっぺんに作れます。あと中身はいろいろ工夫すれば。今回みたいにチーゼとか、甘いものだけではなくいろんな味が出来ると思います。」


「中身……イマーバンも変えればもっと安くできるはず!」


 アマートさんは何か思いついたようだ。

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