第48話 解けた?

 揃ったところで謎解き最終段階、調理場へ向かう。ゴーロウさんがカギを開け皆で中に入る。


「こ…これは……」


 アマートさんが声を失う。


「あの木版の文字によると、この正面の壁、ここに何かが隠れています。」


「…ここに、伝説のレシピがあるのですか!」


 ミツーキーさん、伝説とかハードル上げないでください。


「レシピが有るかどうかはまだわかりません。ただ、サーブロさんが何かを残したのは間違いないと思います。」


 そう言っておれは、残りの9枚を揃え始めた。少ないのでわずか30分ほどで揃う。しかし、特に変わったことは起きていない。何か見落としが…。


「何か見落としたのか?指定通りに並び替えたはず。なにが足りないのか…」


 おれのつぶやきが聞こえたのだろうか、アマートさんが口を開く。


「この壁の模様。どこかで…見たことが……そうだ!木版だ!木版の裏にも似たような模様があったはず!」


「「「「「 !!! 」」」」」


 待てよ、この真ん中のへこみ、サイズがあの木版と……


「ゴーロウさん!!」


「わかりました。すぐにお持ちします!!」




 ゴーロウさんが木版を持ってきた。確かに最初見た時に何か書いてあるように見えた。掠れてて見えないと思っていたが。受け取って裏面を確認する。…掠れているが、何とか読めないことも無い。


【弐拾伍】


 これがラストピース!これを真ん中にはめ込めば! 上下を確認して、漢数字の面をこちらに向けてはめ込む。


『カチッ!カチッ!カチッ!カチッ!』


 どこかで音がした。


「ソーヤ、あそこ!あっちも!!」


 サクラさんが興奮して壁を指しながら声を上げる。


 左右の壁、【正面の壁】【数字を並べろ】【左回り】【最後に押せ】とヒントが書いてあった部分が2cmほどせり出している。これを押せばいいのか?


 順番に? 同時に? 押し込むのか? とりあえず一番近くの【左回り】を触ってみる。かるく押してみたが動きそうにない。間違った手順だと崩壊する…仕掛けがしてある。しばらく考える。


 サーブロさんならどう考える? 前提として転生者でないと、まずこの謎は解けない。解いて仕掛けを発見したとして、残された遺産の独り占めを許すだろうか? 許さないだろうな。


 (=転生者)が宿に泊まり、当主がそれをて、お願いする。とんでもなくハードルが高い。自然と関わる人物も多くなる。【協力しろ】のキーワードとなると…


「すみません。ゴーロウさん、アマートさん、ナツコさん、サクラさん。僕が声を掛けますので、4人で同時にこの出っ張りを押してもらえませんか?」


「いいですか、行きますよ。せーの!押してください!」


『カチリ!  ガコッ!パシュ!……ズズズズズ』


 良かった。正解みたいだ。最後のこの段階で間違えてしまったら、すべてが台無しになる可能性もあった。


 正面の漢数字の右側に1m幅ぐらいの穴が開いた。階段があるようだが、中は真っ暗で見えない。


「誰か!明かりをもってきてくれませんか?」


 今度はナツコさんが取りに行ってランタンを持ってきた。


 とうとうサーブロ・ドージョーの隠したものが何か判明する。ランタンを手に提げて階段を下りる。…地下室、この明かりだけじゃ暗すぎる。

 そう思ってたらサクラさんが壁を触る。天井が光り、部屋の全容がわかってきた。上の調理場と同じぐらいの広さだ。


「魔道具のパネルがありましたので、勝手に・・・すみません。」


 全然問題ないです!


 台の上のあちこちに調理道具が置かれ……もしかしてこれ、全部……サーブロさんが使ってた道具か?  みなそれぞれに、見て回っている。


「一番奥のあれは・・・。」


 おれは一番奥の調理台に、数十冊の本らしきものが棚に収まっているのを見つけた。


「皆さん! こっちです! これ観てください!」


「「「「「 レシピ! やはりあったのか! 」」」」」


 棚に収まっていたのはレシピと日記だった。


 レシピを手にしたゴーロウさんが、がっかりした口調でつぶやく。


「あの木版と同じ様な文字。…これでは読めない。」


 そう言われてアマートさんが手にした別のレシピ


「こっちは読める。2種類のレシピがあるのか?」


 おれも近づいて確認する。日本語版とこっちの言語版の2種類のレシピぺらぺらと中を見て確認する。


「ゴーロウさん、アマートさん。これ文字は違いますけど中身は同じです。」


 そばにあった日記を見てみる。最後のページに気になる一節が


『カレーに足りないもの。ターメリックとコリアンダーはどこにあるのだ!』


 と書き綴られていた。



 --------------

 調べた結果、8冊のレシピと同じく日本語版のレシピ、材料・素材の記録5冊、同じく日本語版5冊。日記が12冊は当然、日本語。あと何故こんなものが? 毛筆と硯。日記なんかは普通に鉛筆で書かれていたのに。


 調理道具はかなりの量。包丁だけでもすごい量、羽釜、銅鍋、圧力鍋やたい焼き器もあった。まだまだいろいろある。


「僕の仕事はここまでですね。あとは皆さんで話し合ってください。サーブロさんの遺産をどうするのか。」


 そういって、意気揚々と風呂へと向かった。


 いろいろとあっただろうけど、といいけどな。




 --------------


「あれ? ミツーキーさんどうしたんですか? お風呂ですか?」


「いえ、そうではなくて、あなたとちょっとお話がしたかったのです。」


「お風呂入りながらでいいですか? さすがに汗まみれでちょっと気持ちが悪いので。」


「かまいませんよ。曾祖父しょだいたちも、良く風呂場でお互いに語り合った…なんて言われていますから」


 湯船につかる。でもどうして ア゛ア゛ア゛ア゛・・・・と声が出てしまうのだろうか。 で、話をする。


「実はね、うちの商会の保管庫に ”サーブロ・ドージョーが造った” と言われている料理と全く関係ないものがあるんです。興味ありませんか?」


 あからさまだな。


「ミツーキーさん、それ…最初から断られると思っていませんよね。見てみたいですね。」


 と苦笑しながら答えると


「時間があったら、ぜひ訪ねてきてください。商会の者には話を通しておきますので。ではお先に。」


 と言って風呂から上がっていった。


「料理と全く関係ないもの…どんなものなんだろうなぁ。」


 と思いながら、また口までお湯に浸かってブクブクするおれだった。

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