第46話 その仕掛け

 無事、商業組合トレードギルドでの登録が終わった。

 その足で騎士団駐屯所を目指す。

 門番・・・見たことある人だな。あの人だ、ウーゴ連れてきた時に横のレンガ作りの建物の前で見かけた人だ。


「すみません。ロイージさんに商業組合トレードギルドに行った後に連絡してくれって言われてたんですけど。」


「ソーヤ様ですね、伺ってます。こちらにどうぞ。」


 先ほどまで聴取をしてた部屋に通される。ロイージさんはおれを見て書類と格闘していた手を休め、手招きする。


「ロイージさん、無事に登録してきました。

 それで、新たに見本を作ってもらえたので一組お渡ししておきます。」 


 ロイージさんの机の上に、先ほどファニルさんに作ってもらった ”石入れ計算機” 改め ”算術台” を置く。


「だいぶ見た目が変わったな。石ではなくて木駒か、木駒の置き場所もある。段も3段… 駒の置いている所を使えば4段、4桁の計算も出来るのか。

 これは凄い、画期的だ。」


「ファニル家具工房で作ってもらいました、作り方ももう解っているでしょうから数を揃えるのも大丈夫だと思いますよ。でも、。」


 そう念を押してから辞して宿に戻った。


 --------------


 宿に戻るとすぐ夕食。

 あ… ロイージさんに宿がいつまで居ていいのか聞いてくるの忘れた。

 もう5日目。聴取も終わったし、出ていかなきゃ不味いよね。

 ブーツに隠してあった最後の銀貨も使ってしまった。弱ったぞ。



 今日の夕食は ”鍋” だった。コッケル、ジャッケ、シュプリが入った寄せ鍋。

 最後の締めにメコーを入れて雑炊。体の芯から温まる。安心する味だったよ。


 食後、部屋に戻るとゴーロウさんが訪ねてきた。食材の移動が終わり明日の朝から調査開始が出来ると言う。

 立ち会うのは、ゴーロウさん、ナツコさん、サクラさんの3人のみ。

 一応改装に当たった親方も呼んではいるが、外で待たせておくという事だった。


 風呂に入り、お肌をにしてから、新しく買ってきた下着に身を包んで寝た。

 深夜……だめだ気になって寝れない! 新しい下着のゴワゴワ感がおれの安眠を妨げてくる。

 寝れないなら、あの壁の事を考えながら……… いつの間にか、寝入っていた。


 --------------


 6日日、朝風呂を浴びてすっきりしてから朝食。和風のTHE朝定食だった。


 そして、調査開始。ゴーロウさん達とあの食糧庫に行く。目的の正面の壁の前に立ち観察する。


 やはりちょっと変だ、右側の壁に近づいて壁面を観察する。

 こちらは何もない。左側は… やはり何もない。

 正面の壁だけ妙に新しく見える。でも中央部にはくっきりと何本かの筋が見えた。

 縦横6本、ちょうどそれが正方形をかたどっているような感じでだ。

 その中央だけに凹み。この前見たとおりだ。


「ゴーロウさん、この壁だけ新しく見えるのですけど、作り替えたんですか?」


「改装工事の時にですか? 作り直してはいないはずだと思いますけど。

 改装を担当した方が、そろそろお見えになっている頃だと思いますので、ちょっと当時のお話を伺ってまいります。」


 そう言うと、ゴーロウさんは話を聞きに行った。その間、他の部分も丹念に調べる。


 気が付いたのは、新しく見える部分は正面だけでは無かった。左右の壁にも所々新しく見える部分があった。

 あちこち見て回っていると、やはり何カ所か新しく作り直されたような部分がある。


 ゴーロウさんが戻ってきた。


「改装を担当した方にお伺いしてきました。

 作り直した場所はないそうです。ただ…」


「ただ? なんですか?」


「あちこちに変な模様があって、食糧庫にはふさわしくないと思ったので、削って落そ…」


「え? 削った!! なんてこと… なんてことしてくれたんだよぉぉ…」


「いえ。削り落そうとしたのですが、工期もギリギリでしたので塗装で隠したと言う事です。」


「塗装…だって? 色がおかしかったのは、塗装のせいか…」


 危なかったよ。

 ファニルさんみたいな職人気質しょくにんかたぎの人だったら、たぶん完全に削り落して作り直してたよ。でも塗装か…


 右の壁の新しく見える部分を手でこすってみた。さすがに落ちないな。しみこむタイプの塗装だったら落としようがないな。



『…よ…ごれ…な…ら…おとせ…る…よ…』


 だ!

 清浄たわしの女神様、汚れじゃなくて塗料なんだよなぁ。


『…もん…だ…いな…いよ……よご…れ…と…』


『…おも…え…ばお…とせ…る…よ…』


 ちょ、ちょっと待って。汚れと思えば落とせるだって?

 すればきれいに出来るって事か?


『…そう…だ…よ…がんば…って…ね…』


『…つ…かれ…たか…ら…また…ね…』


 なんて気が利くなんだ!


 清浄たわしの女神様! ありがとう!



 さて、何とかできそうな感じはしてきた。

 だけど、このスキルをこの3人に知られて大丈夫だろうか・・・不安だ。


「ゴーロウさん。

 たぶん僕のスキルを使えばなんとか出来るかもしれませんが、ですが正直見せてしまって良いのかどうか迷っています。

 これから見ることを一切口外しないと約束していただけますか?

 それが無理なら…」


「もちろん口外しないと、約束させていただきます。」


 おぅ…即答だよ。先日の件で一抹の不安はあるけれど、ならば覚悟決めてやってみますか。


 バケツに水を用意して持ってきたら。右手を突き出して。


 "たわし召喚!!”


 まず右の壁の色がおかしい部分を・・・


 ゴシゴシ!ゴシ!


 少し落ちてきたかな?


 ゴシ!ゴシ!ゴシ! 何か見えてきた、当たりっぽい。何が書いてあるのかな?


【最後に押せ】 と 【自壊する】 と 【左回り】 


 ここまで読めるが、他にもあるかな?

 とりあえずこの周囲だけやってみるか。


 止まりませんでした。

 結局気になって、右の壁全面の汚れを落としてしまいました。


 ここまで来たら、次は左側だ! 美味しいのは最後に食べる主義なんで。


 ゴシ!ゴシ!ゴシ!ゴシ!・・・


【注意】【数字を並べろ】【協力しろ】【正面の壁】


 最後は正面だ! ゴシ!ゴシ!ゴシ!ゴシ!ゴシ!ゴシ!ゴシ!ゴシ!


 見えてきたぞ・・・ これ、漢数字だ!


 正面の壁に浮き出て来たもの、【壱】から【弐拾肆】までの漢数字がバラバラに配置されている。


 どこかで見た気が…? あっ! スライドパズルだよ!!


【壱】の場所がどこになるかだけど… 右上の線の外に【始】が書いてある。


 壁を洗う事3時間。ようやく全貌が見えた。

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