第44話 証拠と役目

 5日目、朝食後に食堂で待っていると、ギダイさんが迎えに来た。

 騎士団駐屯地に到着すると、この前の部屋に案内される。

 しばらくするとロイージ二等騎士が書類挟みを小脇に抱え入ってきた。


「ソーヤ君、今日は君に聞きたいことがいくつかある。」


 ロイージ二等騎士からの聴取(尋問)が始まった。

 でも、の尋問(お・は・な・し)と比べたら全然怖くないよ。


「こちらで聴取した、ウーゴの証言なんだか。」


 書類挟みから、ウーゴの調書を取り出し話し始めた。


開拓団ラドサ到着早々に

 ”今までの取引に納得がいかないとザッカール氏が言い出して、いきなり拘束された。” 

 ”持っていた手帳から、昔の取引明細を奪われ荷物も奪われた。”

 と言っているんだが、これは事実か?」


 ウーゴ何言ってんの? そんな穴だらけの言訳でなんとかなると思っているのかな?


「すべて、事実と異なります。

 荷物は確かに僕が預かっていますが、ここに来るまでに逃亡させないようにするために考えた方策です。」


「今、ビルロ商会の会頭が出向いているはずです。

 経緯の説明と謝罪をして、団長ザッカールさん開拓団みんなが納得すれば、僕宛の団長ザッカールさんからの指示書を持って帰ってきます。

 その時点で商会の指定する場所に納品することになっています。」


「そうか、でその荷物はどこに隠している?

 最初にここを訪ねた時には持っていなかったようだが」


「その荷物ならすべてにあります」


 と言い、マジックバックをぽんぽんと叩く。


マジックバック持ちだったのか。

 しかし ”奪われた” というウーゴの証言を否定できるものではないな。」


 そうか、ならばとがあったことのマジックバックから取り出す。


「この明細は、間違いなくの物です。証明できます。」


「ほう? だと証明できる? どうやって?」


「ここに開拓団みんなが買った物が書いてあります。

 〔塩ジャッケ10本購入 銀貨5枚〕

 ウーゴ氏によれば、ラドサを訪れる前に、ラドニで仕入れたと言ってました。

 ラドニでの取引を確認してみてください。」


「次に、ここに書いてある

 〔マトーマチョプ 6壺 銀貨24枚〕

 〔ウスッタ 6壺 銀貨30枚〕

 〔マーゴ油 12樽  銀貨36枚〕

 ですが、ローク・ドージョー食品商会から仕入れたとウーゴ自身が言ってました。

 問い合わせればすぐに判る筈です。」


「なるほど… ギダイ至急確認してこい。

 それではギダイが戻ってくるまで、少し休憩としよう。」


 え? 商会まで聞きに行ったの?


「心配しなくても時間はそんなにかからん、すでに関係書類はビルロ商会から提出されている。ラドニの件は出向いて確認しなければならないがなあ。」


 どうしてこういつも見透かされる? 顔に出やすいの? おれ。


「少し雑談をしよう。ラドサの事を聞かせてもらいたい…」


 え? バルゴさんと幼馴染で、しかも七年前は一緒に戦った?

 リサーナさんのお兄さんだって?

 それだと、思いっきり関係者が調査することになるけどいいの?

 どうしてこんなに関係者が多いんだ?

 びっくりしていたらギダイさんが戻ってきた。


「報告いたします。

 ビルロ商会とローク・ドージョー食品商会の取引を確認してまいりました。

 ここ二年間の取引において、先ほどの商品を仕入れたのは一月前だけでした。」


 ビンゴです。ウーゴの偽証が明らかです。


「ご苦労。ということはウーゴの証言はほぼ間違いなく偽証だな。

 もっとマールオに締め上げさせるか。」


「あと、今回の件でもう一つわからない事がある。

 どうしてウーゴの詐欺行為に気が付いた?」


 ラドサで子供たちに算術を教えてたことを話す。

 もう三桁の足し算引き算が出来るようになっていることも。


「信じられん。わずか数日教えただけでだと? エリザもハンザもなのか?」


「もちろん。その二人もそうですが、開拓団ラドサの子供たちは全員出来ますよ。」


「今回の件は。

 たまたま僕が商品の相場を覚えようと、地面に書いて計算してたらウーゴが提示した金額と違ってたので。

 子供たちと一緒に検算して証明したんです。

 団長ザッカールさんも明細貰わないで済ましてたのも、ここまで気が付かなかった原因の一つなんですけどね。」


「しかし、やはり信じられん。

 練兵所の座学であんなに苦労をしたのは… いったい…」


「これを使って教えました。」


 マジックバックから石入れ計算機を取り出し説明する。


「この溝に、石が入るのですけどちょうど10個で一杯になります。」


 石を6個入れて


「これで6、ここに8を足すと」


 石を8個取り出しテーブルに置き、それを石入れ計算機に入れていく。


「一杯になったので、これで10、残り4 で14。 こんな具合です。」


「木箱と石か・・・商業組合トレードギルドには登録してあるのか?」


「いいえ、してませんけど?」


「ここの聴取が終わったら、その足ですぐに登録してくるんだ。

 登録が終わったら教えてくれ。

 管理局の連中に練兵所の座学で使うように報告書を出しておく。これは凄い。」


 そんなに凄いのか? そろばんがあればそっちの方が便利なんだけど。


「最後にもう一度、荷物の件の確認なんだが。

 ビルロ商会に渡す荷物は騎士団が預かってもいいのだが、……安全を考えるなら騎士団で預かりたいというのが本音だ。

 どうする?」


「すみません、ビルロ商会に責任をもって渡すのが僕の役目しごとですので。」


「そうか、わかった。。

 この件の調査完了したら、後日ラドサに書簡が送られる。

 もし君が先にラドサに戻るようなら、ザックさんにそう伝言してくれ。

 今日は時間を取らせてすまなかったな。

 聴取は以上で終わりだ。協力感謝する、ありがとう。」


「ギダイ、ソーヤ氏を商業組合トレードギルドまで案内してやってくれ。」


 --------------


 聴取が終わり、ギダイさんが商業組合トレードギルドまで案内してくれた。


「さっきの石入れ計算機なんだが、余計に持っているかい?

 もしあれば、ゼシトに使わせてやりたいんだが。」


「すみません。持っているのはさっきのだけです。造ってもいいんですけど、何しろじぶん……不器用(ていDEX)ですから。

 自分で造ってたら何時までかかることにになるか、木工関係の職人さんに頼めればいいんですけど。」


 そんな話をしている間に、商業組合トレードギルドの到着。


「では、私はここで。窓口で登録の方法を教えてくれますので。」


 じゃぁ、ちゃっちゃと登録しちゃいますか。

 商業組合トレードギルドの扉を開け、ギルドホールの正面カウンターに向かった。

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