閑話4 騎士団 ロイージ分隊

 おれの名前はロイージ、一応ラド騎士団第二中隊で分隊長を務めている。

 今日、元上官のザックさんから手紙が久しぶりに来た・・・「懐かしいな」なんて思ったら。行商人の告発かよ!なに仕事を増やしてくれてんの!


 ラドの騎士団は大きく四つの中隊と、事務方の管理局に分かれている。


 第一中隊、構成人員は58名(定員60名)。貴族の子弟などが集められて対外行事などに参加する。実働部隊ではない。騎士団で最もお気楽な奴らだ。


 第三中隊(斥候隊)は第二中隊うち第一中隊おきらくどもなどから、スキルや経験などからで構成、構成人員は50名ぐらい。

 実際何人いるか自体が秘密なんだとか。平時は諜報活動やなんかに従事している。

 一般人に紛れるとまず見分けがつかん。現隊長の名前も顔も知らん。領民たちに名前と顔が知られているのは、前隊長のビラルさんと前副隊長のアリーシアさんぐらいだ。


 輸送中隊、輸送を専門に行っている。俺たち騎士団の活動の生命線だ。構成人員は60名。そのうちの10名は、連絡要員として日々あちこちと忙しく稼働。輸送隊は10名ごとに5分隊に分割、マジックバック2個を配備。1分隊あたり最大8トンもの物資を輸送できる。平時は周辺都市や王都とのを担っている。


 そして最後がおれたち第二中隊、隊長以外は基本的に平民で構成されている。まれに世襲貴族の子弟や一代貴族なんかが来るわけだが、大体その後は大半が斥候隊に引き抜かれちまう。

 毎日やることは盛りだくさん。討伐、領内の治安維持、犯罪の調査、施設の巡回整備など多岐にわたる。

 第一中隊おきらくどもからは【雑用中隊】なんて揶揄されているがな。

 構成人員は630名。30分隊に分かれ、1分隊は、分隊長1名と20名の騎士で構成されている。


 で冒頭に戻る。


 俺らが当番の時に、面倒くさくて厄介なことが持ち上がった。

 ラドサから来たソーヤと言う若者が、ザックさんから息子のギダイに宛てた手紙を預かってきた。…しかし内容がとんでもなかった。


『ビルロ商会のウーゴという商人が不正行為で取引相手の住民を騙していた、しかも数年にわたって行われてた可能性が高い。

 今回たまたま未然に防がれたが、ラドクリフ辺境伯領の第3開拓団の代表として、正式に告発する。

 おそらく当該人物による不正行為の被害は、辺境伯領の各所で発生していると推測される。追加調査も実施してほしい。』


 よりによって、告発状。それによると被害者はラドサの住人も含まれる。おれの元の仲間たちやリサーナも被害者だ。


 思わず頭に血が上りそうになったが、冷静を装い


「ギダイ三等騎士。に報告。指示を仰げ。」


 と命令した。ギダイが隊長に指示を受け戻ってくるまで、ウーゴを拘束・・・いやウーゴとソーヤという若者をとりあえず聴取室に連れて行く、ちょうど出てきたリボーク三等騎士に門番を一時的に交代してもらうことにした。


 おそらく、被害者たちと関係が深い人物が多いおれの分隊は。この告発状が受理されても調査には加われないだろう。はらわたが煮えくり返る。


 しばらくすると、ギダイと一緒にマールオが来た。マールオが目で合図をしてきたので連れてきた二人に聞こえないように話をする。


「…ロイージ……隊長より伝言だ。

 ”正式に受理だ、お前が指揮を執り迅速に調査を行え。期限は2週間。正式な命令書は明日手渡す。” 以上だ。」


「なんだと? 俺がか? 開拓団ラドサにいるリサーナも被害者で思いっきり関係者なんだが…」


「そう言うな。今の第2中隊でザックさんと縁がない分隊長なんて、ロイズぐらいしかいねぇ。

 そもそもお前がその程度で調査を曲げるようなことをしない奴だと隊長も信用しているんだ。気張りな!

 それとの使用許可を取ってきた、調査実施の間は使用してかまわないそうだ。告発状届けた若い男の方頼んだぞ。おれは、こっちをやる。」


 というと、彼らに見えないように悪い笑顔をした。


 か・・・元副隊長・・・ザックさんの執務室か。


「ソーヤ君、一緒に来てくれ。ギダイも来い。あとは任せた。マールオ。」


 ソーヤ君は緊張しているみたいだな。おれも昔あの部屋に呼び出された時はガチガチに緊張していたっけ。


 部屋に着くと、調査を騎士団として正式に行うことを告げ、連絡先を確認した。

 そうか、来たばかりで宿も取っていなかったのか。悪いことしたな。

 ザックさんも、凄くこのソーヤ君のことを気に入っているみたいだ、わざわざ手紙に「ソーヤをよろしく」なんて書いてあったからな。

 どうせ騎士団の支払いだ、あそこに泊まってもらうか。


領都ラドから出ない限りは問題まない。

宿するから、その時だけ予定を開けておいてくれ。私からの話は以上だ。ギダイ三等騎士、宿に案内して差し上げろ。」


 そういえばギダイもあの手紙を読んで、だいぶ心配していたな。調査が始まってしまえばラドサの事を聞いている暇もなさそうだしな。


「ギダイ三等騎士!を宿に案内した時点で、貴殿の本日の任務は終了とする。…聞きたい話もあるだろうからな。」


 ニヤッと笑いながらそう言ってやると。奴も気が付いたみたいだな。

 勘違いするなよ。今日だけだからな。今日一日ぐらいは羽を伸ばさしてやる、明日からはこき使ってやるがな。

 表情を戻して。一言


「以上!解散!」


 二人が出ていくと、改めてこの部屋の中を見回す。


「ここは本当に変っていないな、あの頃のままだ。違うのはザック副隊長が居ない事か・・・」


 俺は誰に聞かせるともなく。独りごちた。



 --------------


 騎士団第2中隊 隊長執務室


 あのウーゴという小悪党、ようやく尻尾を出したな。

 あちこちの村から請願があったが、証拠も無しではこちらも動けず思案していたところだ。


「マールオ! 当番の分隊長に連絡。”正式に受理だ、お前が指揮を執り迅速に調査を行え。期限は2週間。正式な命令書は明日手渡す。” 以上だ!」


 ザック…さすが元おれの右腕だ、調査指揮はロイズ分隊に任せたし…ん? 今日のローテーション…… ロイージ分隊だったか!

 しまった、あいつはザックの元部下、しかもラドサには妹も…そういえばさっき報告に来たのは、確かザックの息子!!

 いやだめだ、一度命令を出しておいて今更変更など出来ん。ロイージを信頼するしかないのか… くっ…胃が…胃薬はどこだ!

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