第38話 デ…デートじゃないです!

 いろいろ考えていたら、随分と長湯をしてしまったようだ。

 ちっとも食事に来ない俺を心配して、ゴーロウさんが風呂まで様子を見に来た。


「ソーヤ様、いかがされましたか?」


 いけね、心配させちゃったみたいだ。


「あ~大丈夫です。ちょっと考えごとしていたんで。そろそろあがりますのから。」


 装飾に偽装してある日本語。

 もしも文字が読めても、元の時代の人物名までしらないと解けない暗号。

 神様と出会ったあの場所での説明だと、転生者自体がそんなに多くこちらに来ていない。それは、たぶんサーブロさんも知っていたと思う。

 解いてもらわなくてもいい。と思っていたような節もある。


「じゃあ、何の目的で?」


 まぁいいや、しばらくこの宿にいるんだし、ゆっくり考えよう。

 やりたい事もたくさんあるし、頼まれた買い物もしなくちゃいけないし。夕飯だ。今日は何かな?


 晩御飯。なんとお寿司だった。

 握りずし〔ジャッケ・茹でシュプリ(エビ)・ラカリマ(いか)〕の三種盛、中身にちらし寿司のおいなりさん、野菜、肉、キノコの太巻き。

 みそ汁はシュプリの頭で出汁を取っているらしく、赤いシュプリの頭がお椀の蓋の隙間からこっちをのぞいてた。

 そんなにこっち見るなよ。ちゃんと美味しく食べてあげるから。


 布団に入るとついつい考えてしまう。

 駄目だ。寝れなくなっちゃう。おやすみなさい。



 --------------

 3日目は朝からドタバタだった。


 まずは食事の最中にビルロ会頭が飛び込んできた。おれが食事中にもかかわらず一方的に話す・・・たまらず、


「食事中ですので、あとで部屋で話しましょう。」


 と言ったら、自分の非礼さを詫び。あとで訪ねてくると約束する。


 食事を終え、部屋に戻ってしばらくすると、ナツコさんがビルロ会頭を案内してきた。座卓にお茶まで入れてくれて。痒いところに手が届きまくっている感じです。

 ナツコさんが退室したら、畳でおでこが擦り切れるそうなドリル土下座。


 ラドサでの件・・・にまず謝罪。

 次にウーゴの犯罪行為について、騎士団の捜査に全面的に協力しているをしてきた。

 ラドサ側が受けた被害の全容確認をしている事を告げた。

 ほぼ満点だね。


 おれは、謝罪を受け取り、団長から預かってきた手紙をビルロさんに手渡す。


 迷わず封を開け、内容を確認したビルロさんは


「とりあえず、現状判明した2年前までの被害の賠償支払いと謝罪のために、早速さっそくラドサに向かわせていただきます。

 それ以前の被害については、現在商会を挙げて確認中ですので判明次第対応いたします。ラドサ以外でも同様の行為をしていたか確認もしています。」


 その後こちらの対応の話をした。


 団長からの指示では。

 ビルロさんがラドサに赴き、ビルロさんが戻ってきた時点でする。但し、納品場所は領都ラド内に限る。と伝えた。



 とりあえず、おれの役目の第一段階は終わった。一仕事終了。で、行き詰っている暗号解読は一時保留して領都ラドの見学に出ることにした。

 買い物もしたいし、頼まれごともあるし。


 受付に行き、外出してくることを告げると。


「ソーヤ様、ご案内はいかがいたしましょうか?」


 とゴーロウさんが言ってきた。

 確かに、領都ラド地理も何もわからない。案内してくれる人がいると助かるけど。お願いするか。


「助かります。領都ラドは初めてで、どこにどんなお店があるか知らないので。でも、宿のお仕事は大丈夫ですか?」


「いいえ、問題ありません。ちょうど手の空いている者もおりますので。

 サクラ。ソーヤ様を今日一日ご案内して差し上げなさい。」


「ハーイ!」


 と元気な返事と共に、14、5歳の少女が受付奥の部屋から出てきた。


「孫娘のサクラです。今日一日、ソーヤ様のご案内係として同行させますので、よろしくお願いいたします。」


「サクラです。よろしくお願いいたします。」


 ゴーロウさんの孫・・・6代目か。きれいな挨拶の姿勢だなぁ。


 宿を出ると、領都ラドの台所。『市場』を見に行くことにした。ラドクリフ辺境領の農産物が集まってくる場所だ。

 開拓団のみんなに聞いた限りでは、現状ラドサの農産物の種類はそんなに多くない。必需の穀物と、手間のかからない野菜関係。今の農地で多品種の栽培をしたら、あの人数ではとても手も回らない。なので、


 ① 手間がかからず

 ② 収量が多く

 ③ 売れる物


 この難題をクリアするために農産物の調査をしないとね。見つけたら、栽培方法なんかも聞いておきたい。出来ることなら種とかも購入しておきたい。


 そんなことを考えながら、領都ラドの市場をめぐる。

 見つけた! 白いカボチャっぽいやつ。確か、カボチャは夏の収穫して何か月か保存できるはず。栄養もあって、秋~冬の備蓄食料になる。たぶん行けるはず。何しろこの時期に市場に出ているのが証拠だ。露天商に声をかける。


「おじさん、?」


「ソーヤ様、キパンプです。うちでもお料理によく使います。」


 横からサクラさんが耳打ちする


「おめぇ、キパンプも知らないんか? どこのおぼっちゃまだよ。

 彼女まで連れてきてデートなら、来る場所がちげーよ。がっはっはっ。」


 と言って笑った。


 おう。やらかした。自分でもわかってます。だから常識が無いって言われるんだよね。でもねデートじゃないし、案内してもらってるだけだから。

 そんなことを考えながら横のサクラさんを見たら、顔が真っ赤。

 まさか、そのつもりだったの?

 おれ、そんなつもりないですからぁ。


 なんて思いながら、市場を回って見つけた作付けできそうな農産物。

 キパンプ・乾燥コトン(トウモロコシ)。

 種は、キパンプ・マトーマ・コトン・キュンバ(きゅうり)を入手。持ち帰って春から栽培してみるか。



 --------------

 とりあえず、農産物の調査こんなところかな? 次は夏に来て調べたいな。

 もちろん見つけたら、ちゃんと種は買うよ。


 さて次は非常に重要な自分の用事、とにかく服、というか下着が足りない。たわしのおかげで毎日きれいだけどさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る