第37話 謎の木版
座卓の上に置かれた文字の書かれた木版を眺めていると、ゴーロウさんが口を開いた。
「ここに書かれているのは、曾祖父の世界の言葉だと伝わっております。」
「口伝ではここに書かれている言葉が、曾祖父サーブロの残した秘密のレシピ集のありかを示している。と言われており、ソーヤ様を試させていただいた判別法と共に伝わっておりました。
『料理大革命時代』以降、次々に新しいレシピが発明されましたが、ローク・ドージョー食品商会ではなかなか新しいレシピが生み出せず、商会の力も・・・今ではすっかり衰えてしまいました。
ですが残念なことに一族の中では、その存在するかも判らないレシピ集をめぐって、争いが頻発しております。」
幻の遺産争い?って事かな?
「これ以上一族同士で争うのは、曾祖父の目指した理想からかけ離れてしまうのは必至。
レシピ集が無くてもかまいません。せめて本当にあるのか、無いのか。それだけでも調べていただけないでしょうか。何卒よろしくお願い申し上げます。」
そう言うと、座卓から離れ、畳に頭を擦り付けるように・・・。
正直、非常に断りづらい。でも今一歩、積極的に関与する気にもなれない。
見つからなかった、あるいは無かったとして、そこまで一族で揉めてしまうと、無かったとを認める者は少ないと思う。
無い事を証明するというのは、悪魔の証明だし。解読することで、おれにも火の粉が飛んでくるのが容易に想像がつく。
しかし、助けてあげたい。おれしかできない。そんな思いもある。
「もし、レシピ集が見つかった場合、ゴーロウさんはどうするつもりなんですか?」
「もし存在していたのなら、すべてのレシピを無償公開するつもりです。
レシピを公開し、さまざまな人々が自由に美味しく料理を楽しめる。
それが曾祖父の望んだ本当の料理の在り方ではないかと思いますので。」
そう言うと、ゴーロウさんはまっすぐおれの目を見つめてきた。
【自由に美味しく料理を楽しめる。そんな料理の在り方。】
なんとなく、今のおれが納得できる理由っぽい。唯一絶対の正義なんかじゃなくてもいい。
「…たぶん人を手助けする理由なんてそんな感じでいいんだ。」
とその時思った。
「わかりました。協力させていただきます。」
そう答えたら、ゴーロウさんは目にうっすら涙を浮かべてた。
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ゴーロウさんと、ナツコさんは木版を置いて部屋を去った。
おれはお茶を飲みながら、置いて行って木版に書かれている内容を読んでみる。所々黒く塗りつぶされている部分がある。読みずらい。
な り ま ● な た わ
ち い ん け わ ● み
こ り ● や わ あ
え く い ら ● き か さ
う ろ た う ょ ● ぎ す
● ろ ぶ さ ま じ た き
じ う ● じ と も ま や
こ よ ● ら く ま し
なんだか、さっぱりわからん。 縦読み? 意味が解らん。
ゴーロウさんの所に行って、紙と鉛筆もらってこよう。眺めているだけじゃ無理だな。紙に書いて整理しないとだめだこれ。
「ゴーロウさん、紙と鉛筆ありませんか? 取り合えず書き写したら木版お返ししますので。」
部屋に戻ると、木版の文字を書き写す。裏面を見るとこっちも何か書いてあったようだけど
光反射させれば文字が浮き出るあれ、なんだっけ魔鏡だっけ。と思って夕日を反射させてみたけど・・・ちがうな。ゴーロウさんに返してくるか。
包んでいた布の上の置こうとした時、手を滑らしてしまった。
「あっぶね! 手が滑った。
ん?? ん??? これ、側面に文字を掘ってるような?
・・・読めん。」
そうだ、
「おぉぉぉぉぉ!! 浮き出てきた。これで・・・・」
「しょう・・・わのおと・・こな・・らわかる・・はず?
昭和の男なら解るはず?」
いや余計に判らん。平成生まれだし。他の面は?
「えん・・か・だいす・・き 演歌大好き なんだそれ!!」
「あ・・いどる・・も・・じつは・・すき 昭和のアイドルとか誰得だ!!」
思わず、ぶん投げそうになった。最後のもう一面は・・・
「ぎ・・ゃ・・くか・・ら・・よめ ぎゃくから嫁? 逆から読め!!か!!!」
やっとまともなヒントらしきもの。
「一行目を逆から・・・ わ た な ● ま り な」
膝から崩れ落ちてもいいですか? もっとすごいことが書いてあると思ったんです。しかもおれの世代からはアイドルとか言われても・・・
全く ”ティン!” と来ません。
とりあえず、他も解読したよ。心がガリガリ削られたけどさ。あの人もアイドルだったんだとか・・・妙な知識が増えたよ。あと、「あわや●りこ」さんて、演歌歌手じゃないよね。
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「べ か の ば り う ょ ち」
伏字にされた黒塗りの部分はたぶんこれで合っていると思う。
だめだ。腹が減って頭が廻らない。晩飯にしよう。それとも先に風呂に入ってくるかな? どっちにするか考えながら受付のゴーロウさんに木版を返した。
結局、先に風呂に入ることにした。リフレッシュしたかったし。
湯船につかりながら考える。あの木版に書いてるあった文字、たとえ文字を解読できても意味が全く分からないだろうな。
ただの人物名、あの世界から来たとしても。
おれよりさらに後の時代から来たら、絶対に解らない可能性もある。
おれでさえ 「なんか聞いたことあるな?」 ぐらいの人物が多かった。
サーブロ・ドージョーさんは何歳ぐらいで、どの時代からこっちに来たのか?
昭和生まれの男ならなんて書いてあることを考慮すると、平成になってからかな?
そんなことを考えて、口までお湯に浸かってブクブクするおれだった。
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