第42話 仕事しろ!(テンプレ)

 市場の通りを抜けて、冒険者協会ギルドの前まで来た。ちょっと思ってたのと違うな。

 両開きのスイングドアがあって、入り口前にはガラの悪い奴らがたむろしている。…はずだと思ってたけど、普通のドアだし、たむろしている輩もいない。

 本当にここで合ってる?


 おれが戸惑っている間に、サクラさんはさっさと冒険者協会ギルドのドアを開け… て、一歩入ったところで、振り返って


「ソーヤ様、こちらです。」


 いや、ドアぐらい自分で開けますから… はずかしぃです。


 中に入ると、そこには常設酒場にたむろしているガラの悪い破落戸ゴロツキが… いなかった。酒場もないし。 


 おい! テンプレ! 仕事しろ!


 見回すと、まるで市役所の様なカウンターがあって受付が5か所、人がまばらにいる程度。


【登録・更新】 が 1カ所

【受注・完了】 が 3カ所

【依頼発注・その他ご相談】 が 1カ所


 ここ本当に冒険者協会ギルド? もっと殺伐しているはずだろ!!

 そんなおれの先入観は全くの大外れ。まぁいいか、手紙渡さないと……ジラルドさんにだっけ? とりあえずご相談窓口にGo!


「すみません。ソーヤと言うものですが、開拓団ラドサのザッカールさんから、ジラルドさん宛の手紙を預かってきたんですけど。ジラルドさんはおられますか?」


 そう言うと、三角眼鏡をかけた妙齢の女性が、眉をピクリとあげて


「少々お待ちください。」


 と言って、フロアの一番奥の机に座る… いかにも管理職といった風情の中年男性と話をしはじめた。

 あの女の人どこかで見た気がするんだよなぁ。

 話の途中で、中年男性と妙齢の女性は何度かこちらを見てきた。


 話が終わったのか、中年男性がカウンターまで来て。


「私がジラルドです。からの手紙を預かっていらっしゃるとお伺いしましたが?」


 おれはマジックバックから手紙を取り出し、手渡す。ジラルド氏は封蝋を開き読み始める。・・・顔を上げおれの顔を見て


「・・・ここではなんですので、奥の応接室にどうぞ。そちらの女性は?」


「サク…この方は、お世話になっている宿の従業員の方で、ここまで案内していただきました。」


 ジラルド氏は、サクラさんに向かって


「少々お時間がかかると思いますが、いかがいたしますか? 一度お帰りになりますか? それともここでお待ちしますか?」


「お帰りの際もご案内させていただきますので、こちらで待たせていただきます。」


 と言ってきれいなお辞儀をした。


「わかりました。ではソーヤさん。こちらへ」



 行く先々で、個室ご案内とか …心臓によくないです。おれは何も悪いことしてない …筈ですから。


 促されてソファーに…… お尻が圧力を感じることなく、体全体が沈み込んだ。


 ふっかふかすぎだよ! これ!!!


「ソーヤさん、からの手紙ありがとうございます。」


 この人、さっきも団長を愛称で呼んでたよな。何者?


「妹のベルナの近況も知れて、本当にうれしいですよ。ラドサには10日ぐらい前から滞在しておられるそうで…」


 え? ベルナさんの兄? =《イコール》バルゴさんの兄? おっと話聞かないと。


「手紙には、ザックからは本人の意思次第と書いてありますが。

 冒険者登録をなさいますか?

 宜しければ冒険者協会ギルドのことを御存じないと思いますので、少々ご説明させてください。」


 登録のお願いしてくれてたんだ。団長ありがとう。


冒険者協会ギルドの依頼というのは、魔物と戦ったりするわけではないのですよ。どちらかというと騎士団の手が回らない町の中の仕事等が中心になります。

 まれに、薬草や素材の収集の依頼で闘うことも有るでしょうが、定職を持っていない方々の生活支援という面も多分にありますので。」


「ええ、ぜひ登録させてください。」


「では登録前のご説明をさせていただきます。」


 ジラルド氏によると冒険者登録には


①身元の保証がされている事。初回登録時に「ランクG」からスタート。

 別にノルマは無い。 …今回は団長が保証人になってくれたそうだ。


②登録料は銀貨1枚。即時ギルドカードの発行が発行される。

 ギルドカードと同時に口座が造られる。

 手持ちのお金がない時は、依頼の報酬と相殺もできる。

 相殺の場合は完了した時点でギルドカードの発行が行われる。


③受注した依頼を完遂すること。

 完遂出来なかったな場合は最大で依頼料の半額の罰金を支払う事。


④1年に一度、冒険者協会ギルドに来て登録の更新をすること。

 更新料は不要。

 その際に希望すれば判定後にランクが上がることもある。


⑤ギルドカードは、身元証明書の代りになる。

 他人のカードを不正に利用した場合は、騎士団に捕縛命令が出され収監されること。


 ・

 ・

 ・・・


 説明長いです! もういっぱいいっぱいです。

 お願いですから注意事項まとめた書類下さい。  あ…くれるのね。


 一通り説明が終わると、ジラルドさんがベルを鳴らした。


 入り口から先ほど受付にいた女性が、台座のついた水晶玉アレを持って入ってきた。…ここで登録料支払っていいんだよね。

 銀貨1枚を取り出し、テ-ブルに置いておく。


 テーブルに置かれると、ジラルドさんがカードらしきものを2枚取り出し台座の2か所の隙間にそれぞれ差し込んだ。


「では、能力の鑑定をします。この水晶の上に手を。」


 手を置いた瞬間!水晶玉アレがまばゆい虹色に包み込まれ………

 なんてことも全く何も起こらずに・・・・ もしかして失敗?

 ジラルドさんがカードを引き抜き一枚をおれに、もう一枚はテーブルの手前に置く。

 ・・・本当に、ここの世界のテンプレは仕事をしないようだ。


 カードを見ると。表面には


 NAME: ソーヤ  AGE:16

 体力HP : 22/22

 魔力MP : 14/14


 裏面には


 スキル  【★$%★&】 


 凄くシンプル。でもスキル欄は神様からもらった言語翻訳でも読めないほど文字化けしちゃってるし。大丈夫なのかこれ?


 気にしていない様子のジラルドさんに聞いてみた。


「すみません。スキルの所なんですけど。

 なんか文字がおかしくなっているんですけど…

 これ… どうなんですか?」


「スキルの所ですか、あぁ、これね。ソーヤさんは確かにスキルをお持ちですよ。

 ただ世の中には様々なスキルがあるので、戦闘系のスキル以外はこうして文字が正確に表示されない事がたまにあるんですよ。

 …あと戦闘系のスキルでは無いようなので、あまり表立ってスキルの事はお話にならない方がよいでしょう。」


 おれに手渡さなかったカードは、申請の書類と共に保管すると言っていた。


「これで、登録まで終わりました。さっそく何か受注していきますか?」


 えぇぇぇ・・・ 最後の最後までテンプレは仕事をしなかった。

 このままソファーに沈み込んでしまいたい。

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