第35話 転生者の足跡

 ギダイさんに案内されて駐屯地からほど近い宿に着いた。

 ここに来るまでの街中ではあまり見かけない造りをしている建物。

 端的に言うと和風旅館。

 いきなり目に飛び込んできたのは、入り口の上にある木製の看板。

 磨かれて艶のある木目の板に文字が彫り込まれている。その文字は光沢のある黒い塗料で色付けされている。


[ 割 烹 旅 館 道 場 ]


 おい! いきなり漢字。こっちの人は読めないだろこれ。

 しかしこんな形で過去の転生者の足跡が見つかるとは思っていなかった。驚きながらもワクワクしている。


「騎士団のギダイだ。連絡があったと思うが、お願いした部屋に宿泊するを案内してきた。」


「はい、伺っております。2階の〔カーシーの部屋〕をお取りしております。ご案内いたします。」


 そう言うと、受付にいた初老の男性が案内を買って出てくれた。


「こちらになります、ではごゆっくり。」


 宿の一室に通される。手前は洋風のフロアで2人掛けのテーブルセット、窓側は6畳ほどの小上がりになった畳敷き。

 畳だよ! 主観時間でまだ半月もたっていない。懐かしさで胸がいっぱいになる。

 感傷に浸るばかりではない、おれは気遣いのできる男のはずだ。


「ギダイさん、夕食をご一緒しませんか?

 ラドサのお話もありますし。どうです?」


「それはありがたい。親父やおふくろの話も聞きたいし、団の連中の話も聞きたい。

 悪いけど、もう一人追加してもかまわないか? 弟のゼシトも呼んでやりたいんだが。」


「もちろんです。是非。」


「では、金属鎧プレートアーマーを外して着替えてから弟を呼んでくる。」


「わかりました。

 食事ですが下階の食堂ではなくこの部屋でどうでしょうか? 受付の方にお願いしてきますから。」


「実は騎士団では君の様な事件の証人や他領の騎士とか視察に来た場合、ここによく案内するんだが自分では・・・ね。いい機会だと思ってお願いする。では。後程」


「はい、お待ちしております。」


 ギダイさんは宿舎に一度戻ってゼシトさんと一緒に来るという。


 おれも受付にお願いをしに行かなきゃ。


「すみません。騎士団から紹介されて〔カーシーの部屋〕に泊まらせていただくソーヤですが、夕食を2名分追加していただけませんか?

 あと、食事は部屋でしたいのですけど。」


 受付には30代ぐらいの女性が居た。


「賜りました。あの部屋はあのに履物を脱いで上がっていただいてお食事をとっていただくことになりますが、よろしいでしょうか?」


の所ですね。大丈夫です。」


 おや? さっき案内してくれた初老の紳士が少し目を見開いてこっち見たな。


「あと、お料理の教えていただきませんか?」


? ですか? お待ちください・・・」


 そう言うと、先ほどの初老の紳士に何かを話している。一度奥に入って戻ってくる。


「こちらをお持ちください。本日のと御所望ならご用意ができる追加料理のメニュー表です。」


「ありがとうございます。では合計3人分よろしくお願いいたします。」


 なんだこれ? 装飾に偽装して【お品書き】って印刷してある。これもこっちの人は読めないだろ。でも今、『』って言ったよな。気のせいか?


 部屋に戻りを眺めていたら、受付にいた女性がギダイさんとゼシトさんを案内して部屋にやってきた。


「始めましてゼシトさん。ラドサでお世話になっているソーヤです。」


「初めましてゼシトです。お招きいただきありがとうございます。」


 ゼシトさんは団長似だった。

 でもギダイさんとゼシトさんが二人並ぶと…やっぱり兄弟だなぁってよくわかる。


 なんて挨拶をしていたら、案内してきた女性が


「では、ご準備させていたいただきます。」


 そう言うと、小上がりの畳部分の端を持ち上げスライドして下におろす。そして低いテーブルを置く。クローゼットから座布団も取り出しセットする。


 これ・・・掘り炬燵だ。ギダイさんもゼシトさんも初めて見たのか目を丸くしている。


「こちらはブーツをお脱ぎになってご利用ください。では、お料理をご用意いたしますので今しばらくお待ちください。」


「では、席に付きましょうか」


 と、おれから掘り炬燵に座る。

 ギダイさんもゼシトさんも続いて掘り炬燵に着席。


 しばらくして先付が配膳される。見たことのないシャキシャキした野菜を酸味のあるマーゴ味噌で和えてある。


「お客様、お飲み物はいかがいたしますか?」


「お酒、大丈夫ですか?」


「ラドサ出身だから、そこはね。」


 と笑うギダイさん。


「じゃあ、最初はエールを三つ。」


 と頼むと、すぐに持ってくる。


 流石ローク・ドージョー食品商会関連の宿。陶器のジョッキに入ってきっちり冷えている。


 そして、食事会が始まった。


「サシーミーって初めて食った。うまい。」


 ギダイさんが言う。


「どろっとしたのが掛かった、これもうめぇ」


 ゼシトさん。揚げ出し豆腐っぽいのは確かにうまい。でもおれは、炊き込みメコーに涙が出そうだったよ。


 話は自然とラドサの話題に。

 おれが来てからの事を話す。 "たわし召喚!” を除いてだけど。


 偶然だったけど、ビラ爺の妹のアリーシアさんの仇の鬼兎オーガラビットを討ったこと。その肉で宴会になった事。

 ビラ爺とビックビーの巣穴を見つけた事。

 バラーピカの家畜化を始めた事。

 子供たちに算術を教えた事。そのおかげでウーゴの不正が暴かれた事。

 一番盛り上がったのは、団長がベルナさんに、たびたび引っぱたかれている事。

 二人とも大爆笑してた。


 酒と料理が落ち着いたころ。ゼシトさんが


「算術か、俺も覚えられるかな?」


 なんて言ってた。見習い騎士団では書類とか作成する関係で、そういった勉強もしているらしい。で、やっぱり繰り上がり算でつまづいて苦戦しているんだって。


「ゼシトさん。滞在している間に時間が合えば教えましょうか?」


「ぜひ! チビ達が覚えられたんだ。おれも覚えねえとカッコが付かん。」


 また石入れ計算機の出番かな?


 まだまだ、語り足りない様子だったけど、明日もそれぞれ任務や教練ということでお開きになった。


 転生の神様、いきなり見つけちゃったよ。

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