第33話 旅は道連れ、夜は情け などかけねぇ!

 出発してから半日。

 途中、馬を休ませるために休憩を挟んでここまで進んできた。


 隣のウーゴは相変わらず顔面蒼白なんだけど、のプレッシャーから逃れられたせいか、ちらちらとこちらを伺うぐらいの余裕は出て来たみたいだ。


 途中分かれ道を北側に進み林の中へ。普通はまっすぐ東に進んで途中3か所の村で一泊づつするらしいんだけど、団長に相談した結果、林の中を抜ける最短ルートの街道を進むことになっている。


 そろそろ薄暗くなってきたので、完全に日が落ちて暗くなる前に野営地に到着しなければならない。

 この街道周辺のしたっていうから、基本的に安全らしい。


 でも本当に怖いのはなんだってさ。

 まぁ、こんな田舎道を縄張りにしても獲物になるような旅人や商人なんかまずいないから、大した稼ぎにはならないだろうけどね。


 そんなこと考えていたら、切り開かれた場所が見えてきた。

 50m四方ぐらいあるな。広場の真ん中に屋根だけの小屋? とその脇に積み上げられた薪、簡易竈かまども設置されている。

 まるで整備されたキャンプ場だね。

 団長達も騎士団に居た頃は、こういった野営地を整備する巡回をしてたらしい。


 結局、ここへ到着するまでウーゴとは一言も口をきかなかった。ウーゴはおれを警戒しているし、だからと言ってわざわざおれから話しかける必要なんか全然ないしね。


 さぁ晩飯の時間だ・・・おやぁ?

 ウーゴさんのかなぁ? 荷台漁って何しているのかなぁ?

 あぁ、お水ですか。会話しなくても喉は乾きますからねぇ。


 おれは、ベルナさんに作ってもらったカーツのサンデッチ(ウスッタが塗ってあるんだよこれ! 楽しみだ)と野菜と豆のスープを取り出して食事をする。


 ウーゴ氏。もの欲しそうに、こっち見ないでくれるかな?

 まあ気にしないで、ゆっくりと味わって食べようかな。


 晩飯も食べたし、さて寝るかな?

 マジックバックから毛布と鬼兎オーガラビットの毛皮を取り出し、小屋の端に敷いて横になる。


「おやすみなさい。」



 ・・・寝てると思ったでしょ。実は起きてます。

 おれが寝る準備を始めた時から、ちらちらとマジックバック見ていたの気が付いてますから。


 しばらくすると、横になって寝ている(ふりをしている)おれの背後から忍び足でウーゴが近づいてくる。


 バレバレだよ。何しろ、隠密スキルの達人と一緒にいたんだからね。あえて点数つけるなら100点満点中5点。

 ウーゴがこそっと前に廻りこんで、おれが寝ているかの確認をする。

 …もちろん起きているけどね。


 薄目で見ていると、そーっと手を伸ばして、マジックバックを引き寄せて開く。


 ウーゴの目が点になってる。

 だからね、言ってたじゃん。おれしか使えないって。


 がっくりと項垂れて、ウーゴは自分の寝床に戻っていったよ。

 しばらくすると、ウーゴの腹の虫が盛大に鳴きだしているのが聞こえてきた。


 でもおれは無警戒で完全に寝てしまい、不測の事態に対応できなかったらまずいと思ったので、一応は周囲を警戒しながら浅い眠りを何回か繰り返したよ。



 翌朝。日の出の少し前、野営地を霧が包み込んでいた。やっぱり寒いね。


 硬い地面と浅い眠りのおかげで、体が凝り固まっていた。小屋から少し離れて音楽無しのラジオ体操をする。

 体が温まったところで朝飯。

 今朝もサンデッチ、だけど中身はマトーマチョプをかけて炒めた野菜と燻製肉。もちろんスープも添えて。


 食べ終わる頃、ウーゴが起きてごそごそし始めたのでから片付けて荷馬車に乗った。


 ウーゴは何とも言えない顔をしながら荷馬車を操り始めた。



 今日も旅は順調。

 途中、馬の為に休憩を挟み、昼過ぎにバナソ川の支流で馬用の水の補給をする。

 補給している間に、30cmぐらいの魚が20匹ぐらいの集団で川を遡っていくのを何回か見た。結構魚がいるなぁ。


 夕方、ようやく林を抜けて、所々に低い灌木の生えている草原に出た。

 草原と言うと最初に送られた場所を思い出す。あそこは鬼兎オーガラビットの繁殖地らしいけど、ここには多くはいないらしい。街道から大分離れた場所にいるだけだってさ。安心したよ。


 暗くなり始めた頃、木柵で囲われた次の野営地に到着。


 ここにも小屋と薪と簡易竈かまど。ラドクリフ辺境伯は開拓だけでなくこういったインフラ整備に力を注いでいる。

 辺境とは言っても、敵対する他国なんかの勢力と直接対峙していない。だからこういったインフラの部分に税を割いて、たみ優先なんだって。

 団長たちが信頼して忠誠を捧げているのも納得だよ。


 おや? ウーゴさん、顔色悪いですねぇ。


 夕食準備。今日は簡易竈かまど使って鬼兎オーガラビットのシチューでも作るかな?

 ベルナさんが全部下ごしらえしてくれてあるから、炒めて、煮込むだけのお手軽さなんだけど。

 うん。いい匂いだ。そろそろいいかな? ではいただきます。


 あったけぇ。うめぇ! このかおりでどんどん食欲が湧いてくるよ。ハフハフ言いながらあっという間に食べちゃったよ。残りはマジックバックに収納しておこう。


 ん? ウーゴ、だから物欲しそうにこっち見ないでもらえるかな?


 さて、寝ますか。風が吹き抜ける。

 今夜はとても寒そうだな体調管理も大事だよね。

 なので毛布を… 2枚でどうだ!


 今夜も、横になって警戒していると、ウーゴの腹の虫の鳴き声が昨夜よりさらに大きく聞こえるよ。



 翌朝、昨日のシチューの残りをさっと温め直す。2日目のカレーとかシチューって美味しいよね。

 朝食の準備ができた頃、ウーゴが近づいてきた。


「ほんっとうに、すみませんでしたぁ。」


 なんですか? 今頃ですか? ウーゴ。


「私のしたことは許してもらえないでしょうけど。ほんっとうに、すみませんでしたぁ。

 罪は償います。何でもします。何でもしますので…

 …少し…少しだけでも… どうか…食事を分けていただけませんか。

 お…お願いします。」


 この世界で、ここまで見事なジャンピング土下座を見ることになるとは。

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