第26話 カーラちゃんのお願い

 ビラ爺の手元を見ながら、真似をしている。何個か穴の開いているへの字に曲がった木製治具へ縄を通して罠を組み上げていく。

 これを手前に向けて…から… あれ? なんか違う。


「違う。そこは手前から上に回して奥に通す、そして作った輪の中に戻してくるんじゃ。」


 こうか? おっ! なるほどね。


「狙う獲物によって、通す穴の位置と治具の大きさは変わるが、基本は同じじゃ。」


 結構デカいのもあったよ。治具。


「ビラ爺、あの一番デカい治具は鬼兎オーガラビット用? なの?」


「あの一番デカいのは ”ラシュボーア” と ”グリンデア” 用じゃ。」


 おろっ? また知らない生き物の名前。

 説明を聞くと

 ”ラシュボーア” は猪の様な感じらしい。

 体長は一般に3~4m、体重600kg以上になることもあるんだって、とにかく敵と見たらなんにでも突進してくる習性。

 ”グリンデア” は鹿の様な感じの生き物。

 体長は大きくても2m、体重は200kg前後。足は細くて長い。森の灌木なんかに紛れるとなかなか見分けがつかない上に、臆病ですぐに逃げる。


「じゃあ、鬼兎オーガラビット用の罠もあるの?」


「いや、やつらは罠にかかっても、牙で縄を切って逃げちまう。生きたまま捕らえるのは無理じゃな。狩る場合は生餌いきえさで呼び寄せて仕留めるんじゃ。」


 生餌いきえさがバラーピカね… そういえば毒のあるバラーピカ、持って帰ってきたは良いけど毛皮を使うって言ってたな。


「ビラ爺、毒のあるバラーピカの毛皮って何に使うの?

 結構太くてチクチクする毛だったけど?」


「ん? ソーヤも使ってるじゃろ、歯ブラシ。あれじゃ。他にも洗い物をするときのたわしやブラシなんかに使うんじゃ。」


 え? 毒ある生き物の毛を口に入れちゃった・・・無毒ばかりならいいのに。


「毛には毒は無いからの、まぁ間違って肉食っても、翌日腹が緩くなるぐらいじゃし、虫下しの薬の材料にもなっておる。」


「毎回、毒が無い奴が捕れるとも限らんから、無駄足になることもあるがの。」


 また見透かされた。

 そうだよな。捕りに行っても毎回有毒ばかりじゃ効率悪すぎるよね。無毒のやつだけ繁殖できないのかな?


 その後も、繰り返して何回も罠を作ったりばらしたりしているうちに。そこそこ素早く罠が作れるようになった。

 これなら狩り場でバタバタするのも減りそうだ。ビラ爺からもなんとか合格点がもらえた。


「今日はこんなもんじゃろ、獲物によって微妙に変わる部分もあるが基本は出来たみたいじゃな。バラーピカなら問題なく捕らえられるじゃろ。

 ……少し腰が痛みだしたの。休ませてもらうぞい。」


「ありがとう。ビラ爺」



「ビ~ラ~じ~ぃ~! ソ~ヤ~! ~あ~け~てぇ~!」


 こんな時間にどうしたんだろう。ドアを開けるとカーラちゃんがいた。

 とりあえず、家に上がらせる。


「あのね、あのね… あのね… ビラ爺に… …お話があるの……」


 カーラちゃんと一緒にビラ爺の部屋に行く。

 しばらく、言うか? 言うまいか? 考えてもじもじしていたが、意を決したように顔を上げ…


「ピカ…ちゃんも… 餌にしちゃうの? 殺しちゃ…うの?」


 その目はもう涙がこぼれる寸前。


 (あちゃ~・・・やっぱりそうなったか。)


 そして、一度涙がこぼれるともう後は止まらない。とめどなくこぼれる。


「ぎ…昨日ぎのうは…バラぢゃ…んが…い゛な…ぐなって……」


 これは・・・・案件アレだな。


「ビラ爺、ちょっと相談に行ってくる。」


 そう言うと、ビラ爺はゆっくりうなづいて


「こちらは任しておけ。頼んだぞぃ」



 バラーピカをカーラちゃんの? にしていいものだろうか。団長に話をするより・・・ここは先にに御相談だな。


 紡ぎ小屋に行くと、バルナさん、ルーミアさん、マリーダさん、リサーナさん、カルレさん、ジェンヌさん、食事当番のサリダおばちゃん以外の女性陣全員がそろって毛糸を紡いでいた。


「あら? ソーヤ。 何しに来たの? に何か御用でも?」


 くすくす笑いが聞こえる。

 いろいろと突っ込みたいことはあるけど、ここは単刀直入に本題に切り込むことにした。


「実は・・・カーラちゃんがバラーピカをと言い出したんです」


「昨日も、ビラ爺の家にある小屋のバラ-ピカを見ていて。二人で狩りに出かける時に生餌いきえさ用に持っていく姿も・・・家の陰から見ていたんですよ」


「今もビラ爺の家で泣きじゃくっていて、そもそも? とか御相談がしたくて…」


「あらまぁ、カーラったら。わがまま言い出して。叱ってくるわ!」


 そう言うとルーミアさんが立ち上がろうとする。


「ルーミアさん、ちょっと待ってください。

 実はビラ爺も腰痛めているので、今年の鬼兎オーガラビットの狩りは、もう終わりにすると団長とも相談してたんです。」


「狩りに行かないとなると… 餌として捕まえてきたバラ-ピカを逃がすか、めるかしかないんです。

 肉もそんなに美味しくないようですし、毛も・・・ほら、僕のスキルのたわしがありますし。無駄に殺すことも無いと思うんです。」


「でも、わがままで! やっぱり叱ってきます!」


「ルーミアちょっと待って、ソーヤ。

 あなたがあるんでしょ。言ってみなさい。」


 流石はです、解ってらっしゃる。


「野生のバラ-ピカに毒が有るのと無いのがいることは皆さんご存知ですね。

 来季の鬼兎オーガラビットの狩りの為に、開拓団ここで繁殖できないかと思ったんです。」


「毎回、境界森林ボーダーフォレストまで捕りに行っても、有毒だと無駄足になって効率が悪いんです。

 ビラ爺の腰の事もありますし、負担を減らせないかな? と。」


「なるほどねぇ、安定して増やせれば、売れる物も増えそうね。

 わかったわ、ザックには話をしておきますね。」


 話は終わった。ピカちゃんをめずにすみそうだ。あとはつがい用にまた捕りにいかないと。

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