三
リラとグリスは冒険者の宿の前にある通りに並んだ店の一つにはいっていった。冒険者用の武具の販売や修理、素材の買い取りを行うアルゴ商店の店主が、ガッシリとした体躯とともに店の奥から姿を現した。
「おお。グリスか。また新しい女連れて結構なことだな……。ん? いや、珍しい連れだな。どうしたい、受付嬢やめて冒険者にでもなるつもりかね」
「いえ、ちょっとお伺いしたいことがありまして」
リラとも顔見知りだった店主としばらく世間話を続けてから、グリスはいった。
「親父、前に預けていった素材袋だがまだ金に換えてねぇだろ」
「ああ、あれならまだお前が何にも言ってこないから保管したままだ。どうする? 今日換金してくか?」
「いやそれはまだいい。だがもう一度確認したいんで、ちょっと出してきてもらっていいか」
「そりゃいいが……どうした? 何ぞ気になることでもあったかい」
「俺じゃねぇ。こっちの受付の姉さんが見てみたいっていうからよ」
「ふうん、そうかね。若い娘が見て気持ちいいもんじゃないがな」
奇態なものを見る目でリラを眺めてから、店の親父は奥にむかって怒鳴った。
「おい、ドルカン!」
それからすぐ、
「ちっ、昼食いに出てたな、そういや」
そうつぶやきながら店の親父は外に出ていった。少しして戻ってくると、手にぶら下げた皮袋をリラに渡した。
「ほら、こいつだ。こんなもの見てぇなんて姉さんも変わった人だな」
主人から袋を受け取ると、リラは中を開けて見た。
斬り落とされた、乾いた血がついたままの牙や肢、毛皮が乱雑に詰め込まれてあった。あまりいい見物ではなかった。何より慣れないものには血と獣臭のまじった匂いは強烈すぎた。
顔をしかめたリラの横でグリスも中を覗き込んでいる。不思議なことに、モンスターの生臭い匂いにも慣れているはずのグリスも匂いに当てられたように顔をしかめていた。
「ほれ見ろ。馴れねぇ奴にゃあきついだろう。なんだ、グリス。お前さんもそんな顔してよ」
じっと目を見開いて袋の中を見つめるグリスの顔を覗きこむと、店の親父が不思議そうに云った。
リラはやがて袋の口を閉じると、
「ありがとうございます」
といってからグリスに手渡した。受け取ったそれをカウンタ―の台の上に置くと、
「もう少しだけそっちで保管を頼む」
そういってから、グリスはリラを伴って店の戸口へと向かう。店主の親父は二人がやたらこわばった顔をして出ていくのを訝しむように見送った。
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