祈らない人（Twitter300字SS）

祈らない人

　理衣ちゃんとはよく一緒に出かけた。駅からデパートまで行く道の、大きな交差点を渡ったところで話しかけられた。

「あなたの幸せを神さまに祈らせてもらえませんか？悩みが消えるように」

　野暮ったいベージュ色のフリースを着た女性だった。そのまま通りすぎようとしたとき、理衣ちゃんがその人に掴みかかるのが見えた。

「いらない！勝手に祈るな！てめえの神さまなんか知るか！祈りなんか！あああああ！」

　理衣ちゃんがどうしてあんなに怒ったのか、いまも知らないままだ。ただ、そう、誰かからの年賀状に、ご健康をお祈りします、というような言葉があったとき、思い出す。彼女はどう書くだろう、もう疎遠になってしまったから、年賀状も来ない。