第2-2襲 戦闘訓練 ――ウィンドサイト・マインド――

 朝日――それは、夜型の暗殺者にとっては光に照らし出され生きづらい時間帯。


 日光がなぜ、明るいのか? ――それは、人々を明るく照らし出すためだろう。


 つまり、何が言いたいのかというと、キリエは朝の戦闘訓練に呼び出されていた。 


 ヴェールから練習用の武器だけ渡されて、魔術は極力使わずに、キリエの体術だけが頼りの戦闘訓練をギルドの裏庭でアルムと共に行っていた。

 ヴェールは戦闘訓練を見ながら二度寝。日差しが気持ちのいい暖かさで寝てしまって……、いや、そこは見てほしかった。

 ゼネは戦闘訓練を見ながら両手に水が入ったコップを持って正座。魔力をコントロールするために心のトレーニングだという。


 自分の得意な練習武器を持っての打ち合い稽古というよりかは、今のこの状況は喧嘩に近いのだが――、


「切っ先、眠っているぜ!」


 当たり前だ――キリエにとって朝は苦手だから、眠たい気持ちを抑えて練習刀を握っているし。


 ってか、アルムは地面を飛び回るように走っている。隙を狙っているけど、まともにくらったら死ぬんじゃないか!


 ――右へ。


 ――左へ。


 地面を着地して、ぐるぐるりとキリエの周りを走り回る。


 アルムの鋭い眼光はまるで、隙が出た獲物を一瞬で狙う獣のようだ。


 ――右へショボショボ。


 ――左へショボショボ。


 ダメだ――眠たい! 意識を集中させる!


 キリエは目を閉じて、風の音に耳をすました――


 ――風の音は右へ。


(頭の中に浮かぶ風の音――激しく吹きすさんで動くのは一点しかない)


 ――風の音は左へ。


(着地点で必ずアルムは止まる。次の場所へ向かって――)


 ――風の音が襲い掛かる!


 ――キリエは目を開ける。


 刀を爪が襲い掛かってくる方向へ向けると、鼓膜を襲う鉄の音が空へ高く鳴り響いた――鍔迫り合いが始まった合図だ。


 「流石、暗殺者! 分かるもんなんだな!」

 「……!」


 この一瞬、気を許してしまったら――太陽が気持ち良すぎて寝る。


 アルムの左爪がキリエの首を狙ってくる――間一髪、刀で受け流して、後ろまで下がった。


 距離をとって一旦、態勢を立て直す。立て直したら、一気にまた切り込んで終わらせる!


 「次こそぶっとばす!」

 アルムが叫ぶと、また地面を飛び回るように走り出した。


 ――風の音は右へ。


(風よ――アルムはどこにいる?) 


 ――風の音は左へ。


(アルムは何処から――全方位!)


 キリエは眼を開ける。


 周りを見れば、アルム、アルム、アルム、アルム、アルム、アルム……。


 肌は空気が透き通っているように感じる。

 キリエの眼には、そこに人がいるとは感じられない。


 把握した――――これはアルムが作り出した¨質量を持った残像¨かっ……!


 気持ちを落ち着かせて、刀を構え直す。


「薙ぎ払うッ……!」


 残像に襲われる――前に、その場で勢いよく薙ぎ払った。


「隙あり! 俺の勝ち!」

 気持ちのいい太陽の真下に逆光になったアルムが叫ぶ。


 刹那、キリエは構え直す――真上の太陽を突き刺せるような――そんな構え!


 キリエの眼がアルムの眼を捉えた。


「この戦闘訓練たたかい、キリエが勝つ!」

「この戦闘訓練たたかい、俺が勝つ!」


 お互いの刀と爪の刃が左右に通過する――お互いの脳天を狙って突き刺すようだった。


「戦闘訓練おっしまぁ~い!」

 二度寝から目覚めたヴェールの一声で全ての練習魔術が解かれる。


 キリエとアルムから練習武器が消えると、2人の頭がごっちんこと鐘だったら綺麗な音色を響かせられるようにぶつかった。


「練習武器とはいえ、我が止めなかったら死んでたぞ」

「おぇのせいで頭ぶつかって死にそうだぞ! こっちは! 見てみろよ!」

 アルムは怒った形相でヴェールに言う。指さした先には、キリエがいたのだから。


 2人ともぶつかる直前には、魔力を頭に集中させて軽い防御オーラを作っていた。


 だから、大事に至らなくてよかった。


 キリエは頭を抑えながら立ち上がる。

「キリエの……戦闘訓練は……終わった……? 今日は天気が――」

「――キリエ、大丈夫か? 今日は天気がいいからお子様ランチ食べに行くぞ!」


 ヴェールは無邪気な笑顔で手を差し伸べる。


 キリエの濃くて長い一日が今日も始まったと感じた。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


【ギルド管理協会の拘置場にて――ゼネ視点】


 私は昨日捕まえたギルド〈テレス・テルレギオン〉のマスター、ペテン・シストールの尋問記録をとるために拘置場に来ていました。


「お前たちのボス、エンデはどこにいる?」


 拘置場の質問官クェスさんがペテンに問いただしていました。



「俺は絶対に言えない!」


 少し間が空いてからのペテンの返事でした。


「本当の場所は言えないし、言ったら異世界に転生できなくなってしまうから……」


 ひたすら首輪の上をかきむしるペテン。かゆくてかきむしっているというよりかは苦しくてかきむしっているようで――なんだか、顔色がおかしいように感じます。


 まるで、青ざめたかのような血色が悪い顔。

 気味が悪いです。


「いいから言ってくれ!」


「俺はまだ死にたくない……!」


 何かに蝕まれているような――そんな苦しい表情。

 すると、ペテンの首輪が赤く発光しているように思えます。


「俺はお前たちのことを救いたいんだッ!」


「なら……、フォク助と……仲良く転生――」


 何か危ないような気がすると、私は

「――クェスさん、【絶対防御壁バリケード】の発動を!」

 必死の声で叫びました。



 直後――ペテンの異世界転生教の首輪が爆発します。



 爆発の轟音が鳴り止みますが、目の前は煙で真っ暗です。


「何がどうなっているんだ……?」

 クェスさんが即座に【絶対防御壁】――どんな魔力を持った衝撃からも身体を守ってくれる防御特化の魔具――を出現させてくださったので、私たちは無事でした。


 しかし、黒い煙が消えると、中からばらばらに肉片が散ったペテンが見つかったのです。


 飛び散った肉片の中から目玉がころころと明後日の方向を見つめようと私の方に転がってきます。


 しばらくして、部屋の扉を勢いよく叩く音が聞こえると、開き、

「所長! 大変です! 収監されていた異世界転移教徒たちが……!」

「なんだとっ……!?」


 同じタイミングで檻の中の団員たちも一緒に爆発して死んでいるところを見つけたらしいです。


 私にはキリエさんが持ち帰ってくれた異世界転移教徒の生首があります。

 生首には問題の首輪がかけられてあったはずです。


「尋問記録――ギルド〈テレス・テルレギオン〉のマスター、ペテン・シストール含む24名の死亡を確認。原因不明。至急、異世界転生教の首輪の解析を始めます」

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