第2-3襲 ヴェールはお子様ランチを食べたい ――ケアフリー・ランチ――
――太陽が上に位置する頃。
「おっ昼ー! おっ昼ー!」
マナ・ストリート――中央にそびえるマナ・リア城入口から広がる大通りで商業区域が広がっている。
肉質のいい肉が揃っている肉屋から、鮮度も元気もいい魚屋、みずみずしい果物から採れたての野菜が揃う八百屋、それに武器屋に鍛冶屋に本屋、ありとあらゆる店がこの大通りに道を作るように立っていた。
『全ての道は魔術王都マナ・リアに通ずる』とはきっとこういうことを指しているからそう呼ばれているのだろう。
キリエはさっきの戦闘訓練でお腹が極限までに減っていた。それはもう腹と背中がくっつくほどに。
まさか、ギルドに来て朝から戦闘訓練があるとは思わなかったし、極限までに身体を使って真剣にやりあうとは思わなかったからだ。
アルムは物凄く強かった――流石、筋肉強化魔術の使い手と聞いていたが、まさか目にも止まらぬ速さで動いていたと思っていたら質量のある残像を作っていたとは。
対処を間違えば逃げ場を失い、四方八方あらゆるところを切り刻まれていただろう。
魔術を使わずにここまで戦えるとは勉強になった。
今度は魔術ありで死なない程度でやり合いたい。
それはそうとでヴェールが子供のように軽やかな足どりで綺麗な髪を揺らしながら元気よく歩いていた。
久しぶりに〈ニヤの尻尾〉と呼ばれる食堂に向かって、マナ・リアの中で一番のお気に入りのお子様ランチを食べるかららしい。
綺麗に揺れる髪は、まるで、ヴェールの心の現われを見ているようだった。
ところで、ヴェールは何歳か? という疑問が残る。
また、シュシュを外したら成人体型になるかも気になっていた。
――この際、聞けるだけ聞いてしまうか……?
そう思うと、キリエは恐る恐るヴェールに聞いた。
「ヴェールは今、何歳なのだ……?」
興味本位である。
「えっ、我の年齢……? 乙女の秘密なんじゃけどなぁ……」
恥ずかしそうに頭を搔きながらたじろぐヴェールは、
「我、永遠の12歳! 町のみんなには内緒じゃよ!」
元気はつらつと答えた。町でこのことを言っている以上は内緒ですらなくなってしまっているのだがと思っていると、
「――違うだろォ!」
すらりとしたアルムの手はヴェールの髪を刈り飛ばすかのように目にも止まらぬ速さで飛んでいく。
この技、キリエも噂で聞いたことがある。
誰でもすぐに使えるのに、使うのにかなり難しい技――【伝家の
「
「お
「いや、我、『キラキラ』なんて人生で1度も言ったことないぞ! 『キラリーンキラキラバシューン』とは言ったことあるかも知れんのじゃが……」
「よし! 『キラキラ』と言ったことにしようぜ!」
「だから、『キラリーンキラキラバシューン』じゃって!」
――どっちでもいい!
そう思えるほどに何故か、醜い争いに発展していった。
キリエのほうが『キラキラ』だとか『キラリーンキラキラバシューン』なんてどうでもよいとツッコミたくなってしまう。
ハイネはにこやかにあははと見守っているが、顔色は若干引いてる。
見ているとこれが日常茶飯事なのかもしれない。
アルムとの醜い争いから戻ってきたヴェールは真剣な表情で目をキリリとして言う。
「キリエには見た目、12歳の3つの素晴らしさを伝えたい!」
これから、12歳であることの素晴らしさについての力説が始めようとしてくるのが伝わってきた。
「まず1つ目は、老若男女に可愛がってもらえること! 大人のおねぇさんのムフフな格好だったら嫌な男共が近寄ってしょうがない」
「うむ……」
確かにそれは一理あるとキリエはその場で納得してしまう。
「それに、肉屋、魚屋、八百屋にこの姿で行けばかなりの確率で可愛がってくれるし、何よりもおまけでキャンディー貰えるのが無茶苦茶デカい……!」
「キャンディーかよっ! キャンディーのために見た目12歳でいいんかよっ!」
アルムが物凄い形相でツッコんだ。心底、あきれ返っているんだと見て瞬時に判断した。
でも、キリエでもキャンディーをもらえたら嬉しいと思う。
「次に2つ目は、お子様ランチがギリ食べられる年齢であること。キリエはお子様ランチを食べたことがあるか?」
「ないな……」
今までの記憶を振り返ってみたが、お子様ランチを食べたことなんて人生で1度もなかった。
というよりかは、その言葉を今日、初めて知った。
キリエは食べたことがないからお子様ランチを言葉でしか想像できないが、意味的にお子様のためのランチであるはずだ。
何が入っているか分からないが、名前通りきっとお子様が好むものがあるのだろう。
「――なら、今日は一緒に食べよう! 食べれば良さが分かるっ!」
ヴェールは目を爛々として言うと、キリエの手を握ってきた。
まるで、純粋無垢な子供のようでいつも以上に輝いていたからだ。
キリエは嬉しかった。
今までの人生でそんなこと言われてこなかったからである。
どれだけこの言葉を――。
それだけは考えても無駄だ――その世界に未練はない。
「どうした、キリエン? ボーっとして」
「もし、キリエも幼い頃に友達が出来ていたら一緒にお子様ランチを食べていただろうか……?」
考えれば考えるほど友達のいなさに頭を悩ませてしまう。幼い頃の思い出がどれほどキリエの心を苦しめているか。
「じゃったら、これから我たちと思い出を作っていこう! キリエンが友達になったと思った時が友達じゃよ!」
――目から涙が緩やかに出てきた。それはもうあまりにも嬉しすぎて、咄嗟の判断で右腕で覆い隠してしまう。
この涙――ムシャノ村に拾われたぶりだろうか。
異世界で身寄りがない6歳の小さな私を義姉が拾ってくれた感覚に似ている。
「キリエも食べられるだろうか? そのお子様ランチというものやらを……」
「――あぁ、我が二人前頼むからそれを食え!」
ヴェールの微笑む顔を見てキリエは気持ちが少しだけ救われたような気持ちがした。
アルムは『それでいいのかよ』とツッコんでくるが、キリエはそれでいいと思う。
初めて友達が作れそうで心が踊るような気分になっている。
もう少しで食堂〈ニヤの尻尾〉に辿り着く。今からお子様ランチを食べるのが楽しみだ。
「そういえば、最後の3つ目とはなんだ……?」
「最後は食後にキャンディーが貰えることじゃな!」
「最後もキャンディーかよっ!」
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