第9話:打ち上げ会にて
「「時の剣!?」」」
しゃぶしゃぶ専門店の個室でそんな声が響いた。
「はい。伝えておりませんでしたが、私の持つ属性は時属性です」
シェリアは灰汁を取りながら答える。
「で、どうなんだよ?時渡、シェリアたんの力を使った感想は?」
「ヤバイよ?出力はシェリアに設定してもらったんだけど、0.02%でデュラハンを倒せた」
「何ぃ!?たったそれだけで!?」
検事は箸を落とした。
「もうすっかり僕より強くなっちゃったね」
サファイアは少し残念そうに笑う。
「…いや、言い方によっては逆かもしれない」
時渡は頭を抱えた。
「え?どういうこと?」
「簡単だよ。僕、シェリアの力を制御しきれてない。まぁ予想はしてたけど」
「あ〜、そういうこと?」
そう言いながらイグニスは水を飲む。
「多分皆が思ってるより酷いと思うよ」
「どういうことだ?」
検事が聞き耳を立てる。
「必殺技使ったんだよ」
「うん」
「で、デュラハン斬ろうとしたらコケて地球を輪切りにしかけた」
「…は!?」
文は理解できても状況が理解できない検事。
「まぁシェリアの力で時間巻き戻したから大丈夫だったけどさ」
時渡はしゃぶしゃぶにポン酢をつけて食べる。
「必殺技がダサい結果で終わったとかそれより俺たち一回死にかけたって事か!?」
「…まぁ、記憶にないかもしれないけど世界巻き込んだ」
サラダを器に盛りながら時渡はそう言う。
「うっはぁ〜やーべぇパーティーが出来上がったなぁ」
「頼もしいがそれと同等に危険だな」
男2人は感心と同時に危険も感じている。
「そういえば、シェリアさんは時間をどんな風に操作出来るの?」
サファイアはそこの仕組みが気になっている。
「操作というより管理と言ったほうが正しいかもしれません。私は元々”時”という概念なので、時に関する事の主導権が与えられているんです」
「時間を動かす主導権…」
サファイアは夢中になってシェリアの話を聞く。
「ただし、時間を操作するというのはこの世の理に直接触れることなのでデメリットもあります」
「デメリット?」
「時間を止めると頭痛が、加速させるとめまいが、遅らせると倦怠感が起こります」
「え?じゃあ、時渡君はそれを味わったってこと?」
「うん。特に止めるとヤバい。頭を内側から割られたような痛みがする」
「時間を操作するっていいことばかりじゃないんだね…」
「そうだねぇ。でも戦況が有利になることに変わりないよ。痛くてもそのタイムロスを対策すればいいだけだし…ってシェリア、他の操作するとなんか起きるの?」
「はい。タイムスリップすると未来過去関係なくその場で嘔吐します」
「…聞いといて良かったような良くなかったような…」
時渡は複雑な気分になった。
「シェリアたん、未来予知って出来る?」
「予知というより、既に未来で起こった確定事項なら見せることなら可能です」
「それもう予知超えてない!?」
イグニスは驚く。
「じゃあその力でじゃんけん3回勝負してよ!」
サファイアが提案した。
「あのサファイアさん?僕のデメリット分かってんの?」
「マスター、ちなみに使うと目の奥が著しく痛くなります」
「あ〜それくらいなら…って聖剣にするとここ一帯吹き飛ばない?」
「ご安心下さい。私の一部が触れていれば能力は使えますので」
「あ、じゃあよろしく」
実験の方法はこうだ。
時渡がシェリアに未来を見せて未来ながら、目隠しをしたままじゃんけんをして、その結果を調べる。
シェリアと手を繋いで未来を見る。
「…あ〜、なるほど?」
イグニス、サファイア、検事の3人がどの手を出すのか見ながら時渡はあることを気にしていた。
「あ、あの〜イグニス?頭がミシミシ言ってるんだけど?」
イグニスが目隠し担当なのだが時渡の目の辺りに腕を回して絞め落とすかの如くしっかり目隠し&シェリアと手を繋いでいる羨ましさへの恨み晴らしをしていた。
「この野郎…シェリアたんと合法に手をつなぎやがって…」
「シェリア、後でイグニスの手をいっぱい握ってあげて」
「了解しました。マスター」
そう言いながらシェリアは苦笑いをする。
「よし、全員の未来見えたよ…ってあ〜ホントに目が痛くなってきた…」
時渡は一度イグニスから腕をどけてもらい目尻をつまむ。
一回戦は検事だ。
「「ジャンケンポン」」
検事、グーを出した。そして時渡はパーを出した。
「驚いた…」
検事が驚いたのは時渡が勝ったことではない。
「普段時渡がジャンケンをする時はテンポをつけているんだ。でも今時渡は僕のペースに合わせてジャンケンをした。これ…凄いことだぞ?」
検事は感嘆している。
2回戦はイグニス。目隠しは検事がやる。
「「ジャ〜ンケ〜ンほい!」」
イグニスはチョキを出した。勿論時渡はグーを出した。
「お〜なんかホントにやるとすげぇな」
イグニスはここで素早くまたジャンケンを仕掛けた。
「「ジャンケンポン!」」
時渡はさらっとパーを出した。
イグニスの手はグーだった。
「イグニスが2回ジャンケンするのは分かってたけどどのタイミングでするのか計るの難しいね」
時渡は眉毛をハの字にしている。
「ま…マジか…!流石にこれは無理だと思ってた…!」
イグニスは開いた口が塞がらなかった。
「てかイグニスがこんな事するから目が痛くなる時間長くなっちゃたじゃん」
時渡は少し怒る。
「ゴメンそこまで頭が回らなかった」
イグニスは額に手を当てて反省した。
最後はサファイアだ。
「「ジャンケン…
この時サファイアは時渡の手をしっかりと見ていた。
サファイアは虎系獣人なので反射神経は猫並みだ。
時渡は今チョキを出そうとしている。
グーを出せばいいだろう。
しかしそこを見越して時渡がパーを出してくるかもしれないと思い、サファイアはチョキを出した。
「「ポン!」」
「…マジか…」
「ここまで正確だとは…」
時渡が出したのはグーだった。
「あ、勝った?」
サファイアは頷いた。
「…うん」
「よーし!」
時渡はガッツポーズをする。
「時渡、これ凄いな!?」
「じゃんけん大会優勝できるぞ」
3人は驚いている。
「サファイアさん、僕が何を出すかずっと見計らってたでしょ?」
「うん…!よく分かったね?」
「そりゃ未来を見たからね。だから一瞬チョキを出す素振りを見せてグーを出した」
「お見事!」
「だけどこれで分かったことがある」
「何?」
「この力が無制限に使えるシェリアには誰も勝てないってこと」
3人がシェリアを見る。
「わ、私はフェアな勝負しかしませんよ!?」
シェリアは何も言われてないのに猛否定した。
「あと見え方が自分の想像と違った」
「ん?どういうことだ?」
「第三者目線で見えたんだよ。みんなとジャンケンしている僕が見えたそれもスローモーションで」
「はぁ〜なるほど」
「あ、でもスローモーションか普通かは速度が選べた。意識するだけで速度が変わった」
「色々便利だなそれ」
「うん。これかなり汎用性高い」
時渡は時計を見る。
「あ、そろそろ時間だ」
「おっしゃ!帰るか!いや〜食ったな〜」
イグニスは満足そうに腹をさする。
「じゃあ帰るか〜…と、言いたいけど」
時渡はシェリアを指差す。
「シェリア、自分に睡眠魔法をかけて」
「え!?」
シェリアは耳を疑った。
「ボクは会計を済ませてくる」
検事は個室を出る。
「な、なんでですか???」
「いいからいいから」
シェリアは怪しみながら自らに魔法をかける。
「ソームス」
フラッ…パタンッ
シェリアは寝てしまった。
「よし、よいしょっと」
時渡はシェリアを背負って店を出た。
「シェリア〜、起きて〜」
「ぅん…?ますたぁ?」
辺りを見回す。
「ここは…?」
「洋服屋だよ。シェリアの服を買いに来た」
「え!?いいんですよ!そんな勿体ない!」
「そんな事言わずにさ。せっかく10万手に入ったんだし」
「ほら、シェリアさん、服選んで」
サファイアが言う。
「え…でも…」
なかなか服を選ぼうとしないシェリアを見て時渡は閃いた。
「んじゃ僕からの命令、服を買いなさい」
「わ、分かりました…」
シェリアは寝起きでフラフラしながら服を選んだ。
「…どうですか…?」
「う〜ん…これは…ちょっと…」
サファイアだけじゃない。流石の時渡やイグニス、検事でも見れば分かるほどシェリアのファッションセンスは絶望的なものだった。
ベレー帽とスーツを合わせて着るような人はまず居ない。
しかも何を間違えたらそうなるのか分からないが、ズボンを裏返しに履いている。
しかし彼女はそれをしている。
「…さ、サファイアさん、服、選んであげて」
「わ、分かった」
サファイアは苦笑いしながらシェリアの服を選び始めた。
「時渡君はあそこの二人と一緒に外で待ってて。シェリアさんが着替えられたら呼ぶから、第一印象をサッと見たほうがいいと思ってね」
「お〜なるほど〜、第一印象重視ね。分かった」
男3人は外の自販機でジュースを買って無駄話をしていた。
7分ほど経っただろうか。
「おーい!できたよ!」
「お!待ってました!」
イグニスはウキウキしている。
「イグニス、リアクションがエロオヤジだぞ」
検事の発言がグサリとハートに刺さったイグニスだった。
「じゃ〜ん!」
サファイアは更衣室にいるシェリアのカーテンを開けた。
「「「お〜!」」」
男3人は揃って声を上げる。
「ど…どうでしょうか…?」
シェリアが着た服はこの世界で今トレンドのシンプルドレスだった。
(シンプルドレスとは、普通は装飾が多いドレスのようなものではなく、簡単な構造で、それでいてドレスとして成立している流行ファッションである)
「俺は…俺はこれを見るために生まれてきたんだ…!」
イグニスは拳を握りしめながら涙を流している。
「最早娘のウェディングドレス姿を見た父親だな」
検事はゴミを見るような目でイグニスを見た。
「あ、他にもあるよ」
パチンッ
サファイアが指を鳴らすとシェリアの服が一瞬で変わった。
パチンッパチンッパチンッ
服が二転三転する。
「「「待て待て待て待て!!!!」」」
男3人は動揺する。
「うわー!何だ今の!?情報量が多すぎる!」
目を丸くする時渡。
「カワイイヨ!?カワイイヨ!?」
遂に語彙力を失ったイグニス。
「似合っているだけじゃない…全て4万円以内で統一されている!」
聖剣でシェリアの服をスキャニングした検事はモニターを見ながらほか2人とはズレた視点でシェリアの服を見ていた。
「お前金しか興味ねぇのかよ」
「断じて違う!」
検事は経済学が好きなためそこら辺がどこか偏った考えをすることがよくある。
その後もサファイアの合わせたファッションをいくつか見た結果、男3人が相談して意見がまとまった。
「うん。これだな」
「これ一番似合ってるよね」
「うむ。同感だ」
3人が選んだのはメイド服とドレスメイルを足して2で割ったような服だった。
「お客様、とてもお似合いですよ〜」
服屋の店員が似合っていなくてもよく言うこのセリフだが、今回はその嘘臭さは感じられなかった。
それくらい文句のつけようがないくらい似合っている。
全く、これが普段着として成立する世界観なのだから良い時代になったものである。
(例を挙げるなら、モンスター駆除の業者の社員とかは鎧を着ながら電車に乗車している)
「店員さん、お会計お願いします」
「お買い上げありがとうございます」
イグニスはシェリアの服をスマホでずっと撮影していた。
「俺今こんなに幸せだから明日死ぬかもな〜」
「縁起でもない事を言うんじゃないっ」
検事がイグニスの頭に軽くチョップを入れた。
「じゃあまた明日、学校で」
「おう!!」
「うむ」
「じゃあね」
5人は寮へと帰っていった。
玄関のドアを閉めると時渡は目をギラギラさせる。
「シェリア、その格好してるってことは、何するか分かってるよね?」
「え…も、もしかして…」
シェリアは口元を震わせる。
「ご奉仕としてこの服を剥かれて食べられちゃうんですかぁ!?」
「んなわけなかろう」
「あれ?」
「耳かきだよ。耳かき」
「あぁ!なるほど!」
メイド服姿のシェリアに耳かきをされて時渡はすっかりご満悦だった。
(あ〜イグニスの言う通り僕明日なんか不幸な目に遭うかもなぁ〜)
と、思いながら時渡の意識は夢の中へと入っていった。
…その予想が当たるとも知らずに。
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