第8話:デュラハン、襲来
「イグニス〜あと何個?」
「えっとあと…12個!」
「お!もうそのくらいか」
時渡はせっせとスライムを殻から外し続ける。
チャプンッ
そして外したスライムをシェリアが作った水の球体の中に入れる。
シェリアがスライムを食べたいと言い出したから、スライムの泳げないが水の中で溺れない性質を使ってその場で保存しておくのに一番適した方法を使った。
「ス〜ライム焼き〜ス〜ライム焼き〜」
スライムをイグニスが料理すると言っていたのでシェリアは楽しそうに歌っている。
スライムたちはこれから自分たちが食われる事を知る由もなくのどかに球体の中を漂っていた。
「おい時…
イグニスは時渡に話しかけようとしたが急に黙る。
「ん?どうしたの?」
「なんか…聞こえないか…?」
「え?」
「ほら、よく耳を澄まして…」
時渡はよく耳を澄ます。
ォォォォ…
確かに何か聞こえる。
「皆!聞いてくれ!」
そう叫んだのはサファイアだった。
かなり焦っている。顔色が悪い。
「この足音…間違いない…」
ドドドドドドドドドドドドド…
「皆!一刻も早くここを立ち去るぞ!」
サファイアは走る。
「え、ちょっ、どういうこと!?」
4人はその後を追う。
「この足音…デュラハンだ!」
「デュラハン!?」
検事は眉間にシワを寄せる。
「有り得ない…ここにはそんな危険度の高いモンスターはいな…」
検事は青ざめた。
聖剣を衛生カメラに接続して上空から見てみたら、その”有り得ない”ものが映っていたのだ。
「…北を12時として7時の方向、250m先、時速170kmでデュラハンがこちらに向かっている!」
「マジで!?」
「逃げるぞ!」
全員走り出した。
「なぜだ!?なぜこんな事が起こっているんだ!?」
検事は常に分析と考察を行い予測しながら行動している。
逆にこのような状況に陥ると、検事はかなり弱くなる。
時渡は後ろを見た。
ドドドドドドドドドドドドド!!!!!
「うわー!追いつかれてる!」
デュラハンがこちらに向かって走ってきている姿が見えた。
「キャッ!」
カナリアがつまづいて転んだ。
「カナリアさん!」
時渡がカナリアを担ぐ。
このままでは追いつかれてしまう。
「クッ…少し惜しいですが…えい!」
シェリアがスライムたちを投げた。
スライムたちが入った水の球体が輝く。
ドンッ!
スライムたちが合体してメガスライムになった。
「キュウウゥ〜〜〜!!」
メガスライムがデュラハンに襲いかかる。
「マジかよ…!」
巨大化したスライムに時渡は驚いて口が半開きになっている
「今のうちに!」
「う、うん!カナリアさん、歩ける?」
「はい。なんとか…」
デュラハンがメガスライムと交戦している間に逃げた。
「はあっはあっはぁっはぁっ」
全員息を切らして倒れ込む。
「し、死ぬかと思った〜」
「なぜだ…有り得ない…」
「殻は…良かった。無事だな」
「サナ・ヴァルヘラ・トゥーア」
回復魔法は術者自身には効かないため、シェリアがカナリアに回復魔法をかける。
カナリアの膝の傷は完璧に塞がった。
「すごい!シェリアさんは完全に傷を治せるの!?」
「いえいえ。聖鍵ですからこれくらいのことは」
そう皆が話している間、時渡はずっと悩んでいた。
シェリアの力を使うのは今なのではないのかと。
「…シェリア」
「はい?マスター」
時渡は冒険用リュックサックの中から聖鍵を取り出した。
「…デュラハン、倒せる?」
シェリアは頷いた。
「はい。100%可能です」
「…シェリア、昨日僕まだシェリアの力を使えるような器じゃないって言ったけど、今の状況とそれはワケが違う。だからさ…」
時渡はシェリアの手を握る。
「…使おう。聖鍵」
時渡の目は既に戦う覚悟を決めていた。
「怪我人が既に出てるのにここで死人が出たら遅いから」
シェリアは頷いた。
「了解しました。マスター」
時渡は3人の方を向く。
「皆、先にクエスト終わらせて安全な場所に避難して」
イグニスはその言葉の意味を察する。
「…おい時渡、まさか一人で戦うとか言い出したりはしないよな?」
「そのまさかだよ」
イグニスは立ち上がる。
「お前自分が何を言ってんのか分かってんのか!?いくらシェリアがいるからってそりゃ驕り高ぶってるぞマジで!?」
時渡は真剣な眼差しでイグニスの顔を見る。
「…」
イグニスはその時渡の顔を見て観念したようだ。
「…分かった。けど、絶対戻ってこいよ。もし葬式になんてなったらお前の位牌にお香投げつけて帰るからな」
「織田信長かよ…大丈夫、行ってくる」
「サファイアさん、皆のことを頼む」
「…まさか本当に行くのかい!?」
「サファイアさんは僕より強いから、皆のことを引っ張ってあげて」
「…その顔、何を言っても引き下がらない顔だね。分かった。気をつけて」
デュラハンと戦いに行こうとする時渡の袖を検事が掴んだ。
「…もし、本当に危険な状態になったらこれを使え」
検事が渡してきたのは魔法アイテムの脱出移動キーだった。
「ありがとう。行ってくる」
時渡はデュラハンがいたところに向かうため、自分の足跡を辿った。
ズバンッ!!
メガスライムを倒したデュラハンは時渡の方に向かおうとする。
しかしあることに気づく。
「…あちら側から近づいてきている…?」
デュラハンは笑う。
「フハハハ…面白い…私と戦おうということか…」
「正解」
「!?」
すぐ後ろに時渡がいた。
「マスター、先程の説明の通りに」
「分かってる。…ちょっと緊張するけど」
シェリアは胸の鍵穴を露出させる。
「マスター!準備完了です!」
「うん!」
シェリアの鍵穴から鍵穴を模した魔法陣が展開する。
そしてその中に聖鍵を差し込む。
バシュウウウウウウウウウウッッッ!!!!
聖鍵を180°回す。
ガチャンッカコンッ
鍵穴から蒼翠色の光が迸る。
「う⁈」
デュラハンは目が見えないはずなのに、本来なら顔があるであろう部分を覆い隠す。
時渡の目つきが変わる。
「…行くよ…シェリア…!」
聖鍵を強く握りしめる
すると時渡の右手の甲から腕にかけて歯車と時計の針を想起させる紋章が浮かび上がる。
「「聖鍵…解錠!!!」」
時渡は勢いよく聖鍵を抜刀した。
シェリアの体が光の粒子へと変化し、刀身へと姿を変えていく。
鍵だった部分が綺麗な翡翠色の刀身へと変化した。
「シェリア、聞こえる?」
『はい。マスター』
「出力はシェリアが言ったとおり0.2%…行くよ」
落ち着いた足取りで歩く時渡。
「おまたせ。友達が待ってるからさっさと帰らせてもらうよ」
デュラハンは鎌を構える。
「面白い。よかろう。貴様の実力を堪能させてもらうとしよう」
ガンッッッ!
聖剣と鎌が交わる。
「何⁈」
デュラハンは本気で押し出そうとするが時渡はびくともしない。二人の体格差は圧倒的にデュラハンの方が勝っているのに全く動かない。
これではまるで人間ではなく壁に向かって攻撃しているようだとデュラハンは錯覚する。
デュラハンは豪速で鎌を振るい続けるが、それを時渡は的確に止めてくる。
完全に攻撃が読まれている。
「…なんでだ?デュラハンが次にする動きが分かる…」
時渡にはそんな事を考える余裕すらあった。
歴史上の剣豪が自分に憑依した気がした。
より明確に例えるならば自分という最後のピースが欠けたパズルに、全く関係のないピースがはまって、しかもそのピースが全体に不思議と調和している。そんな感覚がする。
(すごい…!体が自分が思っている以上に動く!)
時渡は本来なら自身ができないアクロバティックな動きが自由自在にできるのに驚いた。 体が勝手に動くというよりは想像通りに動くと言ったほうが近い。
時渡は顔色一つ変えずにデュラハンに攻撃を仕掛ける。
ガンッ!ゴンッ!ギンッ!ガンッ!
デュラハンが時渡に押されている。
「此れ程の力を今まで隠し持っていたというのか⁉何故最初から使わない⁉」
時渡は冷静に答える。
「だって今初めて使ってるんだもん。正直僕が一番驚いてるよ」
デュラハンが背中に背負った弓矢を取り出す。
「小癪な!」
ビシュッ!
黒い霧を纏った矢が発射される。いくら聖剣の力で向上した身体能力を手に入れた時渡でも避けることは出来ない。
(ヤバい!当たる!)
時渡はそう悟った。
『マスター、スキル:時間操作より、時間停止を使用しますか?』
「そんな事出来るの!?じゃあよろしく!」
『承認しました。時間停止を開始します』
矢が当たる恐怖で時渡は目をギュッと閉じる。
カチッ…カチッ…カチン…
時計の針が止まる音がした。
同時に自分の心音以外の音が全て聞こえなくなる。
「…ん?」
時渡は目を開けると自分の周りが停止していることに気づく。
ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…
刀身に内蔵されたデジタル時計がカウントを始めている。
「勢いでやっちゃったけど…これすごい便利な機能だな…」
時渡はデュラハンの矢を聖剣で斬って時間停止を解除する。
スカッ
デュラハンは空振りする。
「な!?いない!?」
デュラハンは何が起こったのか理解できていない。
「貴様!一体何をした!?」
「僕もよくわからな゛っっっっ」
時渡は頭をおさえてふらつく。
「あ…頭が…」
頭が割られたような痛みが時渡を襲う。
時渡が聖剣の刀身を見ると今度はデジタル時計がカウントダウンを始めている。時渡が停止させた時間は約7秒。先程まで進んでいたカウントが戻っている。
時渡は気づいた。
「そうか…!時間を操ると操った時間の分反動が来るんだ!」
カウントが0になると自然と頭痛が治る。
「便利なんだか不便なんだか分からない力だな…」
時渡は頬を叩いて頭の中をスッキリさせる。
「シェリア、時間早める事ってできる?」
『時間加速を使用しますか?』
「よろしく!」
時渡は聖剣のトリガーを引いた。
デュラハンがこちらに向かってくる。
「よし…」
時渡は聖剣を構える。
ギュウウウウゥゥゥゥン…
デュラハンの動きが急激に遅くなる。
「なるほど…こんな技なんだ…」
時渡は深呼吸をしてデュラハンに剣を振るう。
まずは鎌を斬る。
その次は腕、脚、胴体と的確に狙って斬っていく。
「今…よし、まだ12秒、このまま…」
時渡は聖剣を地面に刺す。
「シェリア、必殺技って使える?」
『時空斬はどうでしょうか?』
「何そのかっこいい技名!?ん〜なんだかよく分かんないけど名前かっこいいしそれにするか!」
時渡は聖剣のトリガーを引く。
すると聖剣から巨大な聖剣の形をしたエネルギー体が放たれる。
「おー!いかにも必殺技っぽい!」
時渡はデュラハンを斬ろうと聖剣を構えて走る。
…しかし。
ガッッッ
「あ」
時渡はコケた。
そのまま聖剣も倒れる。
同時に時間加速がはずみで解除される。
コテンッ
ズバアアアアッッッ
「グワアアアアアアアアアアアア‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
デュラハンは何も理解できないまま縦に真っ二つに両断される。
デュラハンは撃破出来たものの、時渡の初めての必殺技はなんとも言えない絶妙にカッコ悪いものとなってしまった。
ドオオオオオオン!!!!
「うお!?」
イグニスが振り向いた先には爆発が起きたのか、煙が上がっていた。
「まさかアレ…時渡がやったのか…!?」
その後2分も経たないうちに時渡が帰ってきた。
「あ!時…ってなんじゃその格好!?」
時渡はデュラハンが着ていた甲冑を着ていた。
「デュラハン倒したらドロップした」
「マジで!?てか良かった〜マジで心配だったんだぞ!?」
「とりま勝てたわ。いえ〜い」
時渡はVサインをする。
「ノリが軽いっ」
結果、カナリアが転んで擦り傷が出来たこと以外は特にこれといった怪我もなくクエストをクリアすることが出来た。
次の日
「時渡〜、プレゼントが届いてるわよ」
「お!来た来た!」
ユーノからプレゼントを受け取る。
「お、トースター届いたのか!?」
「うん!この箱重いし間違いない!」
サファイアと検事も来て箱を開ける。
「「「「おー!」」」」
新品のトースターが入っていた。
それともう一つ、封筒が入っていた。
「ん?手紙かな?」
開けてみる。
「え!?これって…」
時渡が中身を出して一枚ずつ数える。
「「「「10万円!?」」」」
そう。依頼主の山本ガラス株式会社から、デュラハンと戦ったことへのお詫びとして危険手当を出してくれたのだ。
「ゆ、ユーノ先生、こんなに貰っちゃって大丈夫なんですかね…?」
「大丈夫でしょ。むしろそれくらい貰わないとデュラハン倒した報酬に割が合わないわよ」
「じゃあ…ありがたく受け取っておきます」
時渡はイグニスとサファイアと検事の3人に1万円ずつ渡す。
「後でカナリアさんにも1万円渡しておくとして…あと4万円でイグニスと話したんだけどシェリアに服を買ってあげたい。鞘の代わりに」
「なるほど。いい考えだな」
検事は頷く。
「僕ファッションセンス無いからサファイアさんに服を選んで欲しい」
「任せて!これでも女学校の頃ミスコン3連覇してるからね!」
「「「安心感が凄い」」」
男3人は思わず声を揃えてそう言う。
「じゃああと2万お前の?」
イグニスが時渡の持った札束を指差す。
「いやいや、今日はこの2万円で…」
ニヤニヤする時渡。
「「おお!?」」」
3人は何をするのかワクワクする。
「しゃぶしゃぶ専門店で打ち上げじゃー!」
「「「おおー!!!」」」
3人は喜ぶ。
「校舎の近くにしゃぶしゃぶ専門店があるんだけど、5名様2万円でしゃぶしゃぶ食べ放題コースがあるらしい」
このためにしっかりと色々な店をリークしておいた時渡。
しかももう予約までしてある。
「…本当は…カナリアさんも入れてあげたかったんだけどね」
そう。あの後カナリアはシェリアの方がヒーラーとしてパーティーに役立っているということで、もう少し修行してから再加入したいと時渡のパーティーを抜けてしまったのだ。
「まぁいいじゃねぇか。今後の彼女の活躍に期待すれば」
「そうだな。何しろボクの聖剣が解析して選ぶほどの実力があるからな」
「また共に冒険できることを祈って」
「うん。あ、シェリアにはまだ服買ってあげることは秘密だから。そこんとこよろしく」
「「「OK!」」」
「生徒会長、常盤 時渡が聖鍵の封印を解除しました」
生徒会長と呼ばれた男は窓から景色を見ている。
「遂にこの時が来たのか…」
生徒会長専用の机にはなんと金色の聖鍵がある。
男はそれを手に取る。
「しかし、時が来た…ただそれだけの事だ」
「大変申し訳ありません。社長」
スーツを着た虚無僧は深々と頭を下げる。
その先には背を向けたプレジデントチェアがある。
「いいんだ。逆にデュラハンに彼が負けてしまうことがおかしいくらいなんだ。君はよくやってくれたよ」
「勿体ないお言葉です」
虚無僧は頭を下げる。
社長は手に持ったワイングラスを月に透かして見る。
「彼らは必ず、僕の所に来る…」
そう言いながら虚無僧と向き合う。
「しかし…なぜそう思われるのですか?」
虚無僧は質問する。
男は笑う。
「簡単だよ。僕が元… 魔王 だからさ」
今、自分達が大規模な"何か"に飲み込まれようとしている。
そんな事を知るよしもない時渡たちはしゃぶしゃぶ食べ放題を楽しみにしながら授業を受けていた。
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