第7話:パーティー結成

 時渡は布団の上でメモを読み直して、シェリアは時渡のパソコンで検事の聖剣にデータを送っていた。

「う〜ん…そうだよなぁ…みんな大抵のジョブは決まってるんだよなぁ…」

 冷静に考えてみたら普通科が明確なジョブが決まっていないだけで、他の学科の生徒は大体ジョブが決まっているのだ。

「ファイターもいいしウィザードもいいし…え!?アークプリーストまでいるの!?うわ〜迷うなぁ〜」

 時渡は起き上がる。

「あれ?シェリアは風呂入ったんだっけ?」

「はい。既に」

「じゃあちょっと僕入ってくるわ」

「分かりました」

 洗面所で服を脱ぐ。

 少し筋肉質な体をしている。

 剣士や戦士になると大抵は体に傷がついてしまうものだが、時渡の体には傷一つ無い。

 …と思ったら背中に一つでかでかと袈裟斬りを喰らった傷跡の一本線があった。

 鏡でその背中の傷を見る。

「…」

 時渡は他人には普段見せないような鋭い眼光でその傷を見た。

「…」

 そして風呂に入った。

 チャプ…

「あ〜あったけ〜」

 底抜けにくつろいでいる。

 ドッッッッ

「うお!」

 急に体が重くなった。シェリアの魔法が切れたのだ。

 疲れが急に出てくる。目の奥も痛いし体もくたびれている。

 しかし風呂に入っているのでそのまま疲れを癒やす。

 顔まで入って目を温める。

 ザバッ


「ふぃ〜出ましたでました」

 時渡の体から湯気が上がっている。

「あ、マスター、お風呂から出たら伝言を欲しいと検事さんが言っていましたよ」

「あ、そうなの?ありがとう」

「こちらを」

「ん?」

 パソコンを覗くと検事が映っていた。

「お、出たか。とりあえず何人に絞るか?あと他にも学年や学科も選択できるぞ」

「え〜と、じゃあ…5人!学年はなんでもいい!学科は…回復担当が欲しいからそれができそうなのと、それか格闘技できそうなの!」

「よしきた」

 聖剣のキーボードを操作して検事は時記のパソコンにウィンドウを映し出す。

「聖職科、プリースト、カナリア・アルシェル。武術科、ファイターの大島 豪。同じく武術科、おお、中国人か。拳闘士、リン・シャオメイ。魔法科、魔法使い、しかも回復魔道士専攻の日比谷 直子。最後は武術科から聖職科に移転した異色の経歴を持つ早坂 雄一」

「なる…ほど…」

 時渡はゆっくり頷いた。

「どうする?明日皆で話すか?」

「うん。そうする。ありがとね。こんなに色々やってくれて」

「いいさ。僕も金が貯まるまでたまにトースターを借りに行きたいからね」

「あ、そういうことか」

 二人は笑った。

「じゃあ、おやすみ」

「ああ。おやすみ」

 通信が切断されました。とモニターに表示された。

「じゃあシェリア、寝るか」

「はいマスター」


 次の日


 朝のHRはユーノが大量の大きな箱を押しながらやってきた。

「おはよー」

「先生どうしたんですかその箱!?」

 一人の生徒が目をひん剥きながら言った。

「え?忘れたの?」

「何がですか?」

「いや、この中、鞘が入ってる」

「…あ、鞘!?」

 クラスが大いに盛り上がりを見せる中、鞘が頼みたくても頼めない時渡はノーリアクションだった。

「いや〜鞘があるとサマになるな〜」

 イグニスは惚れ惚れしている。

 イグニスは結局、耐久性とかっこよさを兼ね備えたカーボン製のボディの鞘にした。

「あ〜カーボンか。いいじゃん。かっこいいね」

「だろ!?閃いた時もうこれにしようって決めた」

「カーボンは僕も盲点だったわ」

 ブォオオオオーーーン!!

 轟音が教室に轟く。

 全員一斉に音が聞こえる方を向く。

「あ、すまない。動作チェックだ。気にしないでくれ」

 検事の鞘はなんと冷却用のファンが12個もついた大規模なものだった。

 これなら熱暴走の心配もないが、いくらなんでもうるさすぎる。

 サファイアの鞘はシンプルな鉄製のもの。飾らない美しさを持つ彼女にはお似合いのものになっている。

 シェリアは周りをキョロキョロと見ながらどこか羨ましそうにしていた。

 イグニスが時渡に小声で言う。

「おい時渡、クエストクリアして報酬金ゲットしたら鞘代わりにシェリアたんに服買ってやれよ」

「あ、それいいね!そうしよう」

 時渡は頷いた。


 そして放課後、最後の一人を選ぶ会議が始まった。

 皆候補者の詳細が書かれた紙を見ながら悩んでいる。

「なぁ時渡、こうなったらコックリさんで決めるか?」

「イグニス何いってんの!?クスリでもキメた!?」

「冗談冗談。俺はこのカナリアさんがええな」

「うむ、同感だ」

 イグニスの意見に検事は賛成する。

「うん。やっぱり回復担当は居てほしいよね」

 サファイアも頷く。

「じゃあ…カナリアさんに決定?」

「「「うん」」」

 案外すんなり決まったのでカナリアを呼びに行く。

 コンコンッ

「すみませ〜ん」

 時渡は聖職科の教室に顔を出す。

「あ!聖鍵使いの人だ!」

「うわ!すげぇ!本物だよ!」

 時渡は他の学科でもすっかり有名人になってしまっている。

 自分が名前も知らない人に自分のことを知られていると思うとなんだか嫌になるがそんな事を考えている暇はない。

「あの、カナリアさんっています?」

「私ですか?」

 読書していた生徒が立ち上がる。

「あ、きみがカナリアさん?」

「はい。なんの御用で…?」

「あ、うちのパーティーに入ってくれません?」

「いいんですか!?」

 カナリアはすごく驚いている。

「回復担当が必要って話になって決まった感じです」

「わ、私、頑張ります!」

 ハキハキとするカナリア。

「えーと、じゃあ、放課後ギルドで」

 時渡は立ち去る。

 聖職科の教室は時渡が去った瞬間に大騒ぎになっている。

「凄いじゃんカナリア!」

「やっぱエルフだと魔力高いもんな〜」

「いいな〜」

 羨む声が聞こえる。

「さて…今日は忙しくなるぞ…」

 時渡は深呼吸をした。


〜放課後〜


「改めまして、カナリア・アルシェルです!よろしくお願いします!」

 カナリアは深々と頭を下げる。

「「「「よろしく〜」」」」

 かなり緩い4人。ギルドに来ると昨日のことを思い出してしまうので頭を使わないようにしているのだ。

「予めクエストの受注はしておいた。もう行ける準備ができれば出発するぞ」

 検事は聖剣にクエストの詳細を表示する。

「今回のクエストはスライムの掃除だ。100匹倒せばいい」

「100匹!?多くない!?」

「時渡、トースターがそんな安いものだと思うな」

 検事の鬼発言が飛ぶ。

「サーセン」

 ぐうの音もでない時記はただただ謝った。

「で、このスライムの殻を持ち帰るって話だ」

(スライムというのは実は貝類の生物。理科の実験に使うビーカーの形の殻を持って生まれてくるので、これを加工してビーカーとして用いられたり、ガラスとして用いられるのが一般的である)

「なるほどね」

「大体3時間位で終わるだろう。じゃあ、行くか?」

「うん。あ、みんな回復アイテムは持ってる?」

「あ、俺一応全員分買ってきた」

 イグニスがカバンから回復アイテムのHPゼリーを取り出した。

(HPゼリーとは、パック式ゼリー飲料型の回復アイテム1つ170円と割と安価で手に入るアイテムであり、クエスト報酬のおまけとして冒険者初心者にとっては馴染み深いものである)

「え!?マジ!?ありがとう!」

「あとでこれの分の金返せよ」

「うん!」

「じゃ、行くか」

 5人は港へ向かった。


 定時で出発する船に乗り、ダンジョンがあるゲート近くの街へと向かう。

 ゲートは街の中心であるため、その近くは役場やゲート管理省の建物、ゲートの力を利用したエネルギー施設などのなくてはならないものが沢山ある。

 今向かっているクエスト所もその1つ。ゲートの転移システムを利用して、小型ゲートがいくつも作られた場所であり、ここからダンジョンへ出発するのが一般的である。

「はぁー楽しみだなー!トースター!」

 目をキラキラさせる時渡。

「いやそっちかよ!」

 すかさずツッコミを入れるイグニス。

「頑張りましょうね!マスター!」

 シェリアも張り切っている。

「うん!」

 船を降りたらすぐ近くにクエスト所があるので向かう。

 到着したら受付で検事がクエスト受注書を渡す。

 そして何かを受け取った。

 クエストカードだ。(クエストカードはクエストに出発するのに必要なカードで、専用の機械で読み込むと、ダンジョンゲートが展開するようになっている、いわばダンジョンへ行くためのキーと言っていい)

「おーい、行くぞー」

 売店でアイテムを買っていた4人を呼ぶ検事。

「はーい!」

 小型ゲートの横にある装置にカードを差し込むと、小型ゲートが起動してワームホールが展開する。

「よし、出発!」

「「「「おー!」」」」

 かくして、高校生活最初のクエストが幕を開けた。


「うおー…めっちゃくちゃいるな…」

 時渡たちの前に現れたのは数え切れないほど大量のスライムだった。

「いちいち探すよりこうやって居てくれたほうがいいだろ。よし、片っ端から片付けますか〜」

 イグニスが1匹のスライムを手に持つ。

「キュ〜」

 癒やされるタイプの可愛い鳴き声を発するスライム。実はこの鳴き声、威嚇である。

 そしてそのビーカーのような形の殻をイグニスはポコッと外した。

「キュウウゥ〜〜」

 だいじなおうちを取られたと思ったスライムは必死に取り返そうと抵抗する。

「ちょっとお前ら、俺少し遠く見てくるわ」

「あ、うん」

 イグニスは誰にも見えないように木に隠れる。

 そしてスライムを左手の指でつまんで右手をかざす。

「フエゴ・イグニクルス」

 ボウッッ

 イグニスの手から火が出た。

「キュ〜!」

 スライムは無情にも焼かれてしまった。

「あ〜」

 イグニスは大口を開けてスライムを口に放り込む。

 モッチャモッチャモッチャモッチャ

「う〜ん、やっぱスライム焼きは美味ぇなぁ〜!」

「イグニスさん、何を食べているんですか?」

「うわっとぉ!」

 シェリアが純粋な瞳で見てくる。

「あ、あ〜シェリアたん、これはスライム焼きと言ってね〜、スライム焼いた料理なんよ」

「イグニス、そういうのは後でにしろ」

 検事がゴミを見るような目で見てくる。

「うわー!一番バレたくないやつにバレた!」

 イグニスはため息をつきながらスライムを殻から取り外し始めた。

「スライムって美味しいのですか?」

「あ、あぁ、スライムには物理攻撃効かないから火属性魔法攻撃で焼いて倒してから食べるんだ。刺し身にしても美味いんだけど寄生虫がついてるかもしれないからあんまりオススメはできないけどな」

「へぇ〜…私も食べてみたいです」

「お、そうか?んじゃこれさっさと終わらせて食うか!」

「はい!」

 シェリアの笑顔に尊死しかけるイグニスだった。



 高層ビルの屋上で東京の摩天楼を眺める男が1人。

 服装は新人会社員が着るようなシャキッとしたスーツで、右手にはビジネスバッグを持っている。

 しかし、頭には虚無僧の被る深編笠と言うなんとも奇妙な出立ちだ。


 虚無僧はビジネスバッグから水晶を取り出す。

「プロイエクトラ」

 そう呪文を唱えると水晶に社長だと思われる男が映り込む。

「社長、常盤 時渡を発見しました」

「よくやった。では…お手合わせといこうじゃないか」


 虚無僧はビジネスバッグから御札のような、伝票のようなものを取り出し、万年筆で商品名と自分の名前を書くと屋上の床に置く。

「顕現せよ 闇より出でて 闇へと還る 魂の狩人よ」

 伝票を中心に紫色の光を放つ魔方陣が展開する。

「発注‼︎‼︎デュラハン‼︎‼︎」

 魔方陣から紫電と共に現れた影は、8ビット、16ビット、32ビット、64ビットとどんどん解像度が高くなっていき、更にはポリゴン化して最終的に黒光りする甲冑に身を包み、禍々しい大鎌を携え、左手には自らの頭を持った、人を本能的に恐怖で震え上がらせるデザインをした怪物が現れる。


 デュラハンは馬から降りて虚無僧に跪く。

「何なりと御命令を」

 虚無僧は胸ポケットから時渡の写真を出す。

「この男を殺して最後の鍵を奪え。報酬は一生で使い切れないくらいの金だ。あの鍵にはそれを与えられるくらいの価値があることを忘れるな」

「御意」

 デュラハンは馬に乗り、時渡めがけて駆け出した。

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