第6話:パーティー編成

「君たち、まだここには入れるのかね?」

 声だけで賢さを主張してくる。

「え?あ!」

 メガネをつけた賢そうな少年が時渡たちの前に現れた。

「ケンティー!」

「僕もこのパーティーに加入したいと思ってね」

 彼の名は索間 検事(さくま けんじ)。通称ケンティー。時渡とイグニスとは中学から同じ学校にいる。

「えっと…彼は…誰だい?」

 しかしサファイアにとっては初対面だ。

「あ、索間 検事。コイツ凄いんだよ。行こうと思えば開成高校行けたレベルのエリート。中学では毎回テストの順位1位だっためっちゃ頭いいやつ」

 イグニスが紹介する。

「あの張り紙したの、イグニス、君だろう?」

「「「え、読めたの!?」」」

 時渡とイグニスとサファイアは驚く。

「毎回最下位取りそうだって泣きついてきたのは君だろうイグニス。その絶望的な癖字も慣れれば読めるようになる」

「オメェ殴られたいのか?」

 イグニスは指をバキバキと鳴らす。

「やめてくれ。ボクは殴られるためにここに来たのではないのでね」

 検事はサファイアの隣に座る。

「面接するんだろう?」

 検事は時渡とイグニスに聞く。

「あ、うん。ほぼ面接って言えないけど」

「まぁ構わない。始めてくれ」

 検事はいつでもどうぞと言わんばかりの態度をしている。

「えっと…じゃあサファイアさんも本格的な面接する?」

「あ、うん。お願い」

「じゃちょっと待ってくれない?イグニスと質問のカンペ作るから」

 〜5分後〜

「えー、じゃあ面接始めます。敬語とかじゃなくていいから簡単に答えて」

 二人は頷く。

「1つ目。”あなた達の聖剣はどんな聖剣ですか?”サファイアさんから答えて」

 サファイアは自分の聖剣を見せる。

「僕の聖剣は氷華の聖剣。校長先生に聞いたところ、吹雪を起こしたり雪を降らせたり出来るらしい」

「なるほど。検事は?」

「ボクのは電脳の聖剣」

 検事の聖剣はなんと刀身がディスプレイモニターになっており、所々にコードやキーボードも装備されている。サイバーパンクを形にしたような聖剣だ。

「うわーカッケェの余計に腹立つわ」

 イグニスは腕組をしながら言った。

「余計なお世話だ。それはともかく、ボクの聖剣はコンピュータで起こせる出来事を3次元に起こせる。例えば自分のいる位置の座標を変えて瞬間移動するとかね」

「能力もカッケェのイラッとくるわー」

「イグニス、少し黙ってくれ」

「んだと俺今面接官だぞ」

「この歳で職権乱用モドキをするなんてねぇ」

「…」

 イグニスは黙った。

「それでよし」

 検事は相変わらず冷めた声でそう言った。

 気まずい空気に耐えながら時渡が次の質問をする。

「2つ目は”なぜこのパーティーに入ろうと思ったのか”なんだけど…サファイアさんには聞いたからケンティーだけ答えて」

「まぁ、シンプルに知り合いが二人居たからだね」

「あ、そゆことね」

「…」

 時渡はイグニスの目を見る。

「…」

 イグニスも時渡の目を見る。

「ん…?どうしたんだい?二人とも」

 サファイアが聞く。

「面接…終わり」

「「えぇ!?」」

 二人は驚く。

「いや、だって…1時間経ってもも誰も来なかったパーティーだから入ろうとしてくれるだけ万々歳だなって話になって…」

「いやそれはどう考えてもイグニスの書いた張り紙が原因なんじゃないのか…?」

 検事が呟く。

「あ゛!?」

 イグニスが般若のような形相をする。

 しかし検事は動じない。

「はぁ…仕方ない。ボクが作ろう」


 時渡、サファイア、検事の3人で張り紙を作成する。

「仲間…確かそのトースターが貰えるクエスト受注には最低5人必要だったよな?」

「うん。でもシェリアは聖鍵だからあと一人必要って感じ。

「了解した」

 一人ハブられたイグニスはシクシク泣きながらシェリアの膝の上で喚いていた。

「シェリアたぁ〜ん…ハブられたよぉ〜」

「よしよ〜し…」

 シェリアもどう接するのが正解か分からず戸惑いながらイグニスの頭を撫でる。

「よし、できた」

 聖剣に張り紙のデザインを打ち込んだ検事はなんとそのまま印刷した。

 聖剣にはコピー機の機能も搭載されているようだ。

「その聖剣何でも出来るね。便利〜」

 時渡は思わず感心した。

 そして掲示板に貼った。

「これでいいだろう」

[冒険者仲間を募集しています。あと一人必要です。火の剣士と聖鍵、心強い仲間がいます]

 少し堅苦しいものになってしまったが、これくらいの方が分かりやすくていいだろう。

「今度はちゃんと来てほしいね」

 

「うん。僕も面接官手伝うから」

 サファイアは本当に頼りになる上ちゃんと仕事を引き受けてくれる為、後でなにか奢ろうと思った時渡だった。


「時渡君」

 サファイアが話しかける。

「ん?どうしたの?」

「仲間になりたい人が来るまで訓練しない?」

「え?」

 サファイアが窓を指差す。

「ほら、あそこ。練習場があるんだよ」

 見てみると窓から確かにテニスコートくらいの練習場が見えた。

 2年生や3年生が戦っているのが見える。

「あ、ホントだ」

 イグニスと検事は二人でアニメを見ていた。

「この施設はWi-Fiが整っていて良かった」

 検事は顔には出ていないが上機嫌だ。

「あのさ、二人とも」

「「ん?」」

「僕とサファイアさんは練習場で剣技練習してくるから、もしも誰か来たら呼んで」

「あいよ。あ、検事、ちょっとそこのシーン戻して」

 二人はアニメを見るのに熱中している。

「じゃあサファイアさん、行くか」

「うん」

「おーい!シェリア!行くよ!」

「はい!マスター!」

 3人は練習場に向かった。

 練習場は誰でも受付に顔を出せば簡単に使える。

 練習場の使い方がボードに書いてある。

「えっと…防具は…あ、ここか」

 ロッカーに入っている防具を着けた。

「よし」

 全身鏡を見て格好を確認し、練習用の柔らかい剣を持ってコートに出た。

 サファイアは防具をつけたことにより、よりそのしなやかなスタイルが強調されている。

「どうかな」

「めっちゃかっこいい…僕より防具に合ってるよ」

「マスターも十分お似合いですよ!」

 シェリアが褒めてくれる。

「ありがとね。シェリア」

「マスターは何か剣を使う競技はさせてたのですか?」

「うん。中学の頃は剣道やってたよ」

「剣道!かっこいいですね〜、マスターの剣道をされているお姿見てみたかったですぅ〜」

「ハハハッまぁそんな強くなかったけどね。でも多分母さんスマホで撮ってたからもし家に帰ったら見せてあげるよ」

「本当ですか!?楽しみです!」

「あんま期待しないでね?サファイアさんは何かやってたの?」

「僕はフェンシングをやってたよ。それと他にも剣術訓練は受けてた。こんな言い方は良くないかもしれないけど、階級が高い家系だからね」

「僕思い出したんだけどさ、ウルティメール家って確か本で読んだことあるよ。世界の優れた騎士100選って本で。すごく有名な家だよね?」

「あぁ、よく知ってるね。そう。昔から王家に仕えてきた」

「すげ〜そんな人たちの末裔が今こうして目の前にいるって考えるとなんか感動するわ」

「アハハッそんなことないよ。じゃあそろそろ始めようか」

「あ、うん」


 コートに二人は向かい合い、剣を構える。

 シェリアが審判をする。

「では…始め!」

 シーン…

 お互い動かない。相手の動きを確認している。

 空気が徐々に張り詰めていく。

 ダッ

 サファイアが動いた。

 シュタタタタッ

 一気に距離を詰めて心臓を貫くかの如く素早く突きをする。

(速い!)

 サファイアは獣人だ。身体能力は人の何倍もある。

 ガッ!

 時渡はその剣を紙一重で受け止めた。

「驚いた!僕の突きを防いだのは君が初めてだよ!」

「こっちも伊達に剣道やってたワケじゃないからね!」

 サファイアの剣を振り払う。

 パンッ!スパンッ!

 スポンジでできた剣がぶつかり合い歯切れ良い音が響き渡る。

 両者互角だ。

 いや、むしろ何年も剣術修行を受けてきた身である上、獣人であるサファイアに太刀打ちできている時渡のほうが凄いかもしれない。

「ハッ!」

 サファイアは再度突きを繰り出した。

「うお!」

 時渡は受け止めた…と、思ったら。

「フンッ!」

 サファイアは剣を回転させて時渡の剣を絡め取り、そのまま剣を投げ飛ばした。

 スポンと時渡の手から剣が抜ける。

「おーマジか…スゲ…お手上げですわ」

 時渡は両手を上げて降伏する。

「よし!ありがとうございました!」

 二人が握手を交わす。

 シェリアは眉毛をハの字にしている。

「マスター、残念でしたね…」

「うん。でもこれでサファイアさんがすごく心強い仲間になってくれたって事が分かって良かったよ」

「フフッそれは照れるね…」

 ピロルロリロン…ピロルロリロン…

 シェリアの耳に着信音が届く。

「…マスター、携帯鳴ってますよ?」

「え、嘘、携帯は更衣室に置いてあるよ?」

「いや、更衣室から聞こえているんです」

「え?聞こえるの?」

「はい。聖鍵ですから」

「どんな理由だよ」

 ツッコミを入れながら時渡は更衣室に行ってカバンから携帯を取り出す。

 イグニスからだ。

「はいもしもし?」

「テメー一体何回電話かけたと思ってんだ!早く来い!」

「へ!?」

 イグニスがめちゃくちゃ怒っているので時渡は驚く。

 二人にすぐにギルドに戻るように伝えてギルドに向かう。

「イグニ…ってうわあああ!?!?!?」

 なんとギルドの中では大行列ができていた。

 行列の先にはイグニスと検事がいた。

「キミ遅いぞ!早く面接官やってくれ!」

 検事もキレている。

「う、うん。ごめん分かった!」

 まさかこんなにもパーティー希望者が来るとは思わなかった。

 そしてそれと同時にイグニスが書いた張り紙の出来の酷さを時渡はヒシヒシと感じた。

 〜2時間後〜

「お…終わった…」

「やっと帰れる…」

「もう寝たい…」

「まさかここまで疲れるとは…」

 4人はグッタリとしている。

「皆さん…大丈夫ですか…?」

 シェリアは聖鍵故に疲れを知らない体をしている為、4人を気遣えるほどの余裕はあった。

「シェリア…なんか…体力を回復させる魔法とかある…?」

「ありますけど…今回は疲れを一時的に感じなくさせる魔法にしておきましょう」

 シェリアは4人の前に手をかざす。

「インデフェンシス」

 4人の上に魔法陣が浮かび上がる。

「あ゛〜疲れが取れる〜」

 4人は立ち上がった。

 時渡はパーティー加入希望者全員のメモをまとめてカバンに入れる。

「じゃああとは僕とシェリアが考えておくから、シェリアの魔法も一時的なものだから皆今日はとにかく休んで、また明日放課後集まろう」

「おう!んじゃ、また明日!」

「じゃあ、皆気をつけて」

 イグニスとサファイアは寮に帰る。

「時渡」

 検事が時渡の肩を叩く。

「ん?」

「そのメモのデータを僕の方にも送っておいて欲しい。この聖剣にはAIが搭載されているからステータスや実力を総合的に判断して適正を選んでくれる機能もある。恐らく風呂に入っているときには終わるだろう」

「そんな事もできるの!?」

「僕も正直驚いているよ。本当に至れり尽くせりって感じだね」

「じゃあ…分かった。お願いするよ」

「任せろ」

 検事は頷いた。

「じゃあまずはゆっくり休んで。おやすみ!」

「あぁ。おやすみ」

 二人は帰っていった。


「マスター」

「ん?」

「私は…本当にマスターの力になれるでしょうか…?」

「どうしたの急に?」

「私…未だにマスターに私の力を使えてもらえてないなぁって…」

 時渡は少し考える。

「…シェリアの力ってさ、一振りで海は割れるの?」

「可能です。やろうと思えば」

「…じゃあさ、どんな敵でも一撃で倒せるの?」

「可能です」

「う〜ん、じゃあ、今目の前で命の危険に晒されている人を助けることは出来る?」

「可能です」

 時渡は立ち止まる。

「シェリア、僕さ、昔父さんに教わったことがあるんだけどさ、大きな力を持つ人には、それ相応の器と責任が必要なんだってさ」

「責任…?」

「シェリアが戦争していた時代ってさ、ただ敵を倒すためだけにその力を使っていたの?」

「いえ…そんなはずは…」

「だったら簡単だよ。シェリアの力を使う日はいつか来る。それまで僕はシェリアの力が使えるくらいに強くならなきゃいけないなって思ってるんだ。今の僕には、その器が完成してないと思ってる。サファイアさんにも負けちゃったし」

 実は時渡、内心サファイアに負けたことに酷く悔しさを感じていた。

「だからシェリア、まず僕が強くなれるように頑張るから、それを見守っていて欲しい」

 時渡の強い眼差しは、しっかりとシェリアに届いていた。

「…はい!マスター!」

「じゃあとりあえず、風呂に入ってから最後の一人を決めますか〜!」

 時渡は背伸びをして寮に向かって走っていった。

 その背中を追って、シェリアは走り出した。

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