第5話:ギルド申請のすゝめ

 アルカディア学園校舎東側にはギルドが建設されている。

 ギルドと言ってもこれを読んでいる皆様の想像しているものとは間違いなく違うだろう。

 25階建ての超高層ビル、これが現代のギルドである。

 アルカディア学園の施設はアルカディア学園卒業後も利用する者が多く、クエスト探しや依頼もタブレット端末から行える。

 それ故、もしかしたらこの施設を利用しているのは生徒より卒業生や一般人のほうが多いかもしれない。

「皆2列に並んで〜」

 予め渡されていた申請書に名前を書いて皆2列に並ぶ。

「普通科が一番最初にやるから、後のクラスを待たせないようにさっさと終わらせるわよ」

 受付の職員も覚悟しているようで、「これから忙しくなるぞ〜」など話し声が聞こえてくる。

「じゃ、始めるわよ」

 先生の声と同時に皆一斉に受付で申請を始める。時渡もサッと受付に行く。

「常盤 時渡様でよろしいですか?」

「はい」

「ご登録ありがとうございます。ではこちらのパネルに右手を乗せてください」

 受付右にあるパネルに手を乗せる。

 時渡の手形に沿って緑色の光が走る。

 ビーッ

 カードが出てくる。

「こちら、ギルドカードとなっております。失くしてしまった場合は本人確認の上再発行となってしまいますのでご注意ください。」

「分かりました」

 ギルドカードを受け取ったらサッとクラスの列に並ぶ。

 シェリアがギルドカードを発行できないのだ。

「あれ?あれ?」

 何度手をパネルに乗せてもパネルが反応しない。

 答えは簡単。彼女は聖鍵だからだ。

 後ろがどんどん並んでいる。

 シェリアは焦ってしまう。

 異変に気づいた時渡が駆けつける。

「シェリアどうしたの!?」

「何故かギルドカードが作れなくって…」

 流石にそれは時渡にはどうこう出来る話じゃない。

「え〜どうしよう…」

「ほれ、貸してみなさい」

「うわ!校長先生!?」

 瞬間移動してきたのか、突如現れた校長。

 シェリアの手を掴んでパネルに触れさせる。

 ババッガガッギギッ

「え、なんかめっちゃ鳴っちゃいけないような音してますけど…」

 時渡は不安そうな顔をする。

 ビッビーッ

 ギルドカードが出てきた。

「あ、は、発行…されました…ね…」

 職員も戸惑っている。

「じゃ、ワシはこれで」

 校長は消えた。

 シェリアもカード発行をし終えた列に並ぶが、校長に触れられた部分を触りながら複雑そうな顔をしている。

「どうしたの?」

「リトゥングリム校長は本当に素晴らしいお方なのですね」

「へ?う、うん。そりゃあまぁ世界一の大魔法使いって言われてるからねぇ…」

「先程校長先生はプログラムを無理矢理書き換える魔法を使いました。それも無詠唱で」

「プログラム?」

 時渡は何が何なのかよく分かっていないみたいだ。

「はい。あの装置には自らの能力を計測しそれをカードに記す魔法がかけられています。しかし私のような聖剣は恐らく非対応なのでしょう。しかし校長先生はその複雑な術式を一瞬で書き換えてしまいました。多分、触れていない他の装置も同時に」

「シェリアってそんなことも分かるの?」

「聖鍵は当たったり流れてきた魔法を感知する能力が標準装備されています。いつ、どこで、何をどのタイミングでまで事細かく」

「すげ〜」

 時渡はただただシェリアに感心していた。

「でもそれは聖鍵の能力の一つに過ぎません。世界大戦中はあんな偉大な魔法使いはいませんでした。恐らく校長先生はこの世界を簡単に掌握するほどのお力は既に持っておられるはず。しかしその力によってこの世界の均衡を保つとは…聖人なのでしょうか?」

「さ、…さぁ…?」

 時渡は首を傾げて腕組をした。


 放課後

 ギルド申請を済ませたならばやることは唯一つ。

 パーティーとなる仲間集めだ。

 ギルドで自由掲示板に仲間を募集するポスターを貼って、あとはひたすら待つのが基本だ。

「なあ時渡、お前もギルドでやるよな?仲間募集?」

「え、やらないよ?」

「ファ!?え、なんで!?」

「え、いや、だって、僕冒険者になるわけじゃないし…」

 イグニスは項垂れる。

「いや、だとしてもさぁ…」

「やるだけ時間の無駄だよ!あのギルド見た!?待合室でずっと仲間募集してる人見たでしょ?あんな救いようのない状況になんかなりたくない。ほらシェリア、帰るよ」

「了解しました。マスター」

「え!?おい!」

 時渡は教室を出る。

「え…お前シェリアたんがいるんだし絶対仲間になりたい人いるって…」

 イグニスはため息をつく。

「はぁ…アイツがやらないんなら、俺も帰るか…」

 イグニスは通学カバンに教科書を詰め始めた。


 時渡とシェリアはコンビニで夕食を買ってから帰る。

「マスター、パーティーは作らなくていいんですか?」

「うん。僕はそんなに戦う気とかないし」

 シェリアは下を向く。落ち込んでいるようにも見える。

「どうしたん?」

「あ、いえ…」

「いやなんか絶対凹んでるでしょ。言ってみ」

「…私の力、使ってもらえないんだなぁって思ってしまって…」

 シェリアは本音を言った。

「え…」

 時渡はシェリアが落ち込んでいる理由が自分にあるのを知って気まずい雰囲気を作ってしまった。

(まいったな…)

 時渡は少し考えたが、戦おうにも正直自信はないし、いくらシェリアが聖剣だといっても、実は時渡の中には抵抗があった。

 時渡にとって、シェリアの力を使う=女の子を危険に晒す。と言った認識が無自覚の中で出来上がっていたのだ。

 シェリアが望むならその強大な力を使ってあげたい気もするが、時渡は悩みながら寮の入り口に張ってあるクエスト紹介を見た。

 そしてその一つに目が留まった。

[新入生応援特別クエストセール実施中!クエストクリア者の中から先着5名にトースターをプレゼント!]

 と書かれていた。

「…………」

 時渡は立ち止まった。

 今日の朝を思い出す。

 パンにマーガリンをつけて食べた。

「…なにか物足りない気が…」

 と言ったのを思い出した。

 そして次の瞬間、時渡の脳内からアドレナリンが大量に分泌され、シナプスが弾け飛ぶ。

「…っはっ!っあー!」

 クエストのポスターを指差す。

「どうしたんですかマスター!?」

 シェリアの手を引っ張って猛ダッシュする。

「マ、マスター!?本当にどうしちゃったんですかぁー!?」

 ダッシュした時渡は恐らく開いているであろうとある一つの寮室のドアを開ける。

 バンッ

「ィイグヌィース!!!!!」

「うわ!なな何!?びっくりしtうdqcvdゔぇq!?」

 最後何を言ってるのか全くわからない叫び声を上げるイグニス。

 それと同時に作っていたおやつのパスタを手から落とした。

「あ゛っ!!!」

「プロフィヴェーレ!!」

 すかさず皿にシェリアが魔法をかけた。

 ビタッッ

 自由落下していた皿が空中で急停止した。

「あ…あ、止まってる!?」

 皿をその場で拾い上げるイグニス。

「シェリアたんサンキューマジで助かった!…って時渡お前!危ねぇだろ!びっくりさせんな!」

「ごめん。つい熱くなって…イグニス、こんな状況で悪いんだけど頼みたいことがある」

 珍しく何かに食いついている時渡を珍しく思ったイグニスは、先程の怒りを忘れて時渡が何を考えているのか気になった。

「どうした?」

「一緒にパーティー作らない!?」

 少し前までパーティーを作らないと言っていたのに、中々自分の意志を曲げない時渡の考えを変えさせるほどの何かがあるのを察知したイグニス。

「おう!いいぜ!」

 快く承諾した。

「…でもちょっとその前にパスタ食わせて?」

「あ、うん。そこのテレビ見ていい?」

「えーよ」


「なるほどトースターか」

 時渡の話を聞いて納得したイグニス。

 確かに彼が朝食がパン派なのは中学の頃から知っている。

(てかパン食ってる時に気付けよ…)とイグニスは思ったが殴られたくないのでそれは言わないことにした。

「ま、なんにせよやろうと思ったなら次は行動すりゃいいだけだ。ギルド行くぞ」

「うん!」

 3人は早速ギルドへ向かった。


 ギルドの中は既に沢山の生徒でごった返していた。

 ギュウギュウ詰めだ。

「うわーいるなー沢山」

 人ごみが嫌いな時渡は露骨に嫌な顔をする。

 しかしそんな泣き言を言ってるような場合ではないのもまた事実。

「これもトースターのためだ。やってやる!」

 人ごみを押しのけて、受付で紙をもらう。

 そして共用スペースの机に向かう。

「…う〜ん、何書けばいいんだ!?」

「え〜!?分からんの!?」

 イグニスは呆れる。

「仕方ないだろ知らないもんは!?」

 逆ギレする時渡。

「じゃー仕方ない!俺が書いてやる!」

 イグニスが時渡からマーカーペンを奪った。

「ほい、キュキュキュのキュっと…」

 自由掲示板に貼った。

[冒険者仲間募集中!火の剣士と聖鍵がいるぞ!今がチャンスだ!]

 と書いたイグニス。

「フフンッこんなもんよ!どうだ見てみろこれ!」

 イグニスは自慢げにドヤ顔をする。

「…イグニスってこんな絶望的に字ぃ汚かったっけ?」

 なんとも失礼な事を言う時渡。

「んだとテメェ!」

「お、お二人共落ち着いて…」

 シェリアが止めに入る。

「そうですよねぇ〜シェリアたぁ〜ん」

 イグニスはなんとも大人しく従った。もしもシェリアがドSだったら今頃彼は首輪をはめられて鎖で繋がれた奴隷だろう。


 ギルドのテーブルで3人はずっと座って仲間を待っていた。

「…いっせーのー2!…チッ外れた…」

 3人は暇なので親指を上げた数で勝負するいわゆる”チッチ”、”いっせーの”をやっていた。どうやらこのゲーム、指スマと呼ぶのが一般的らしい。

「…いっせーのー0!やった!私上がりです!」

「これでもう12連勝かよ…すごいなシェリア」

「えへへ〜そんな事ないですよマスタ〜」

 すっかり勝利に浸ってご満悦のシェリア。

 しかしここで時渡はこの席に座り続けて既に1時間が経過している事に気がついてしまった。

「…ねぇ、あのさぁ、ホントに仲間来るんかねぇ?」

 イグニスは苦虫を噛み潰したような顔をする。

「分かんねぇな…五分五分って言ったところだし、最悪の場合は3人でクエスト行くことになる」

「だよねぇ〜…イグニスもいるし、シェリアもいるからうち結構優良物件だと思うんだけどねぇ〜…」

 時渡が机にベタ〜ンと顔をついたその時だった。

「君たち、まだ仲間は募集しているかい?」

「へ?」

 スラッとしたスタイルに爽やかなハスキーボイス、青い髪の毛に可愛らしい虎耳、サファイアだった。

「アレ!?確か昨日一番最初に聖剣抜いた人では!?」

 時渡はサファイアの顔を覚えていたようだ。

「え…って女子だったの!?」

 聖剣を抜いた時は服装が男子だったので、時渡は全く分からなかったようだ。

「よく間違えられるよ。僕はサファイア・ウルティメール。よろしく」

 時渡はイグニスに小声で言う。

「え、なんかさぁ、アレみたいな感じしない?手◯治虫のリ◯ンの騎士のサ◯ァ◯アみたいな」

「やめとけ時渡、いろんなところに怒られるぞ。それもすごく」

「君たちのパーティーに入りたいと思っているんだけど、いいかな?」

「あ、マジで!?どうぞどうぞ大歓迎ですわ!」

「いいのかい?ありがとう!」

 こうしてサファイアが仲間に加わった。

「サファイアさんって宝塚にスカウトとかされたことってあります?」

 時渡はサファイアに質問する。

「アハハッよく聞かれるけどそもそも宝塚にスカウトは無いよ。向いてるって言われるけど」

「あ、スカウトって無いんだ!?知らなかった」

「時渡、あそこ学校があるだろ」

「あ、それもそうか」

 今度はイグニスが質問する。

「男と間違われて女子に告白されたことってある?」

「あるよ。それも沢山」

「ほへ〜やっぱあるもんなんだな〜」

 イグニスはしみじみとしている。

「ね、ねぇ、一応聞くけどこれって面接なんだよね?」

 サファイアは苦笑いをする。

「ま、まぁ、一応面接だけどもうほぼ確定だから気にしないで」

(アルカディア学園ではパーティーを作る生徒は加入者に面接をしていくつか質問をしなければならないという校則が存在する。これも社会に出て冒険者になった時により良い良い素質を持った仲間を探せるようになるためのトレーニングのようなものである)

「そう言えば、なんでここに入ろうと思ったの?」

「元々キミが聖鍵を抜いた時にキミのパーティーに入ろうとは思っていたんだ。キミたちのパーティー、掲示板にも紹介貼ってないしキミたちをずっと探してたって感じ」

「え?掲示板には貼ったけど?」

「え?」

「ほら、あそこ」

 時渡はイグニスが書いた紙を指差す。

「…もしかしてあれって日本語なのかい!?」

 常に冷静で爽やかなサファイアも流石にこの事実に取り乱した。

「ほらぁやっぱ読めないじゃん」

 時渡はチベットスナギツネのような目でイグニスを見る。

「ウッソぉ!?」

 イグニスは頭を抱えた。

 和やかな談笑に近い面接を横目に、時渡たちのパーティーの紹介文を読んでいるものがいた(イグニスの字が汚すぎて読めているのか分からないが)。

「…なるほど」

 そう言って彼は時渡たちのパーティーに近づいていった。

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